第4話:レベルアップと報酬/召喚




『レベルアップしましたレベルアップしましたレベルアップしました……』


 頭の中で無機質な声がリフレインする。


 初めてのレベルアップとはいえ、やはり相手はかなりの強敵だったらしい。


「確認はあとだ」


 レベルアップの恩恵は気になるが、今はそれよりタクマたちの安否が優先である。


「あ、気絶してる」


 タクマはあまりの恐怖に失禁し、気を失っていた。


 他のメンバーも気絶しているだけのようで、ひと安心すると僕は別の問題に頭を悩ませる。


「宝箱とドロップ……」


 骸骨の立っていた場所に宝箱とドロップの魔石と杖が落ちていた。


 冒険していたのは彼らであって、僕じゃない。


 それに僕は戦闘できると申告せずに同行していたので、今の状況は『絶体絶命だったが気付いたらモンスターが死んでいて、カメラマンはなぜか無傷』という謎過ぎる展開である。


 ならば自分が助けたと言っても信じてもらえるか分からない。 いや、信じてもらえないだろう。

 表面上は納得させることができても確実にしこりは残る。

 

「権利を放棄するには価値が高すぎる……とはいえ変に揉めたくもないし、あああ面倒くさぁ」


 目の前の宝を差し出せば全て丸く収まることは理解している。


 だがしかし初めてので手に入れた品だ。 できれば手元に残したい。


「まあせめて中身を確認するくらいは許されるよね……」


 とりあえず面倒なことは置いておいて、僕はどうしても気になる宝箱の中身を確認することに決めた。


 もしもここでアイテムボックスなんて出てきたら、彼らが起きる前にボス戦の報酬を回収することも可能になるかもしれない。


「うわぁ、見なきゃ良かったよ」


 宝箱の中身は本が一冊とコインが五枚。


 鑑定なんて便利スキルがなくても、分かるくらいそれらは有名でそして貴重な品だった。


「スキルブックに称号コインとか……大盤振る舞いにもほどがある」


 スキルブックはスキルをランダムに取得できるアイテムだ。

 これにも等級があり、売りに出せば物によっては数千万、少なくとも数百万で取引される冒険者にとって垂涎のアイテムだ。


 そしてコインは『ダンジョンに認められるような素晴らしい戦闘をした』際に手に入れられるもので記念品のようなものである。 明確に入手条件は判明していないが、それを持っている冒険者は実力者である証明になる。


「ん、あれ……生きてる?」


 治癒役のリンガ目を覚ましたので、全員を回復してもらった。


「助けてくれてありがとう」


 状況説明をするとリーダーは素直に信じてくれた。


 しかしヒナは半信半疑のようだ。


「疑いたくはないけど、イマイチ信じられないのよね」

「ヒナ!」

「だって」

「お、動画回ってんじゃん。 これで確認すれば良くね?」


 タクマの一言で僕は放置していたカメラの存在を思い出した。


『ああ、これが怒りか』


『ここからは僕の冒険だ』


『アハハハハハハ』


 カメラは地面に置いたので、映像はないが音声はしっかり入っていた。


 ハイになって痛々しい台詞を連発する僕の声だ。


「……消えてしまいたい」

「ふふ、ごめん。 これは、ふふ」

「消す」

「あーちょっとダメダメやめてー!」


 その音声が戦闘をしていた証拠となり、満場一致で報酬は僕のものになった。




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名前:日比谷小豆


レベル:1→7


スキル:憤怒の大罪、剣術、格闘


スキルポイント:0→70


所持品:変異ボーンマジシャンの魔石、召喚の杖、スキルブック(小)、称号コイン



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 ギルドでアイテムとステータスを確認して僕らは解散した。


 魔石はタクマたちに渡すつもりだったが、固辞されたので結局僕の総取りとなってしまった。


 サイズ的に売れば数万程度の価値があるようだが、自分で使うために残しておいた。


「スキルブックはまだ取っておこう」


 これに関しては正直もて余していた。


 レベルが一気に上がり、スキルポイントも上がったが僕はスキルを未だに取得していない。


 どんなに強いスキルを取ってもデバフによって攻撃力がゼロのままなので、取得する意味がない。


 治癒師を目指そうかとも思ったけれど、


『大罪を背負うものは選択できません』


 制限がかかっていたので諦めた。


 唯一すぐに使えそうなのは召喚の杖だ。


『召喚の杖……魔石を使用しモンスターを召喚、使役する』


「召喚!」


 魔石が輝き、みるみる形が変わっていく。


 それは人形となって、光が弾けて姿をあらわした。


ーーかたかた


「ボーンマジシャン……じゃなくてスケルトンなのかよ!」


 僕が倒したボーンマジシャンが召喚、なんて都合のよい展開はなかった。


 なんだか魔石を無駄にしてしまった気分になるが、落ち込んでいても仕方ない。


「えーと、ステータスとかどうやって見ればいいんだろう?」


ーーかたかた


 僕が首を傾げていると、スケルトンが書くようなジェスチャーをしてきたので面白半分でペンと紙を渡してみる。


 すると、


『すけるとん/れべる1/ふし/めす』


 スケルトンは書き終わった紙をこちらに見せて、顎を鳴らした。


「スケルトンって性別あるんだね……」


ーーかたかたかた!


 僕の台詞にスケルトンは怒ったように顎を鳴らすのであった。

 


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通常時攻撃力ゼロのデバフを背負った才無し冒険者オタク、配信カメラマンとなって密着配信始めます~感情が憤怒に染まったらデバフ解除で無双~ すー @K5511023

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