【0】

 ここにあるいくつかの嘘。知らずを含んで青い春。

 こちら側のどこからでも読めます。という本が販売されて、そりゃ読み物と思えば成分表だって読み物だよ、とあなたはなじる。全般において、「こちら側のどこからでも」を信用してはいけないのだ。

 深夜のスーパーにおいて、いかにも可憐な服装と、遠目から見たら男性に間違えてしまいそうな、タイプの異なる女性二人が、アイスのコーナーで立ち往生しているのをあなたは見かける。

 駅で、おじいさんが落とした紙切れをおばあさんが拾いあげるのをあなたは目撃する。

 見つけられなかった過去。得たくもない心理。傷の多いほうが美しいとされる硝子細工を買って、窓辺につりさげる。むかいの部屋に住む男が、煙草をふかしながらそれを眺める。しょっちゅう難しい顔をしながら本や原稿を睨んでいるので、物書きなのかもしれない。目があった。微笑んで手を振りあう。

 そしてあなたは今夜も、青い金魚の夢を見る。




 終


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超現実訳 試作品(仮) 恵介 @yakke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ