【82】


「それは、なんの計算をしているんですか」

 駅のホームに、ロータリーの桜が春風によって運ばれてきて、同時に僕のルーズリーフを一枚飛ばした。それを拾ったのは、自分と同い年ぐらいの女性だった。ふんわりとまばゆく光る、白のワンピース。胸元のリボンが揺れていた。慌ててベンチから立った僕は、変な姿勢のままそれを受け取って、彼女にお礼を伝えた。

「地球滅亡までの計算です。ほら、最近ツイッターで流行ってる、」

 そこまで言って、別にトレンドワードでもないことを、さも有名のように語った自分に恥じる。きっとあれは、一部界隈だけの盛り上がりだ。しかし彼女も知っていたようで、ああ、と微笑んでくれた。桜色の唇。

「そう。それじゃあ、さようならの速度を、確かめているんですね」

 ここまで読んで、

「あのさあ、気持ち悪いよ、」

 と雅は言う。

「なんなのこれ。胸元とか唇とかさ。おっさんじゃん。童貞じゃん。ボーイミーツガールはもっと明るくなきゃ」

 蹴飛ばしてくるので、暴力系彼女はとうに廃れましたがと抗議する。

「キモい」

「ガサツには分からんのだなあ。この儚さが」

 そんなテレビを見ながら、なんだ結局おまえらもイチャイチャしてんだろうが、とポテチを貪りつつ早送りにする。見たいところだけを見たい。

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