【ちゃかぼす】
以上を読んで、指田知之は空になった煙草の箱を勢いよく投げ捨てる。ゴミ箱に入らず、床に落ちた。のそのそ拾いにいって、きちんと捨てる。溜め息。
いったい何が面白くてこんなもんが売れるのか、さっぱりわからない。これだったらまだ、タイトルの長ったらしい話を読んだほうがはるかにマシだ。歴代の戦士たちが築き上げてきた、テンプレというしっかりした地盤で安心したい。人を惹きつけるには意外性や非日常への解放が必要とはわかっているが、解放の連続はつまり苦痛である。全米が震撼し続けたら大陸は物凄いことになる。やめてほしい。昔は震度3くらいへっちゃらだったのに、昨今は恐ろしくて仕方ないのだ。安心させてほしい。
あとがきやら解説しか書かず、もっぱら講演にでずっぱりの小説家は、指田知之の幼なじみで、派手な服装をしてほうぼうに顔を出している。たいした学もないくせに、偉そうに世間やら文学を語るところが、有識人には却って面白いのか、飛ぶように売れて、実際日本各地を飛び回っている。海外には行かない。日本語しか喋れないのだ。
誇大妄想。
「芥川龍之介の『河童』に、そんな節は出てきませんが」
「いや、僕の言ったのは、烏合集之介の『河童』のほうでね」
だいたいこうやって逃げ回り、しかし至って本人は真面目に話しているのだから、ここにちょっとした面白い奇想が浮かぶ。彼はパラレルワールドの人間で、実際そちらの世界には彼の著作物がずらりと本屋に並び、烏合集之介、正木百三十五などが文豪として教科書に載っており、絵綴りだの立体図書だのが、当たり前に売られているのではないか。
馬鹿馬鹿しい。
今回も非常につまらなかったと作者にメールを打って、パソコンを開いたのでついでに仕事を始める。自分が喋らない落語家であることを、棚にあげてなんならだいじにしまっておいても、やっぱりあいつはムカつく奴だと腐れ縁の男を思う。
プログラム。
するってぇと、のあとにはお前さんよ、と続き、エンターのあとに首を振る。今度は阿呆の台詞。そしてまた大家さんの台詞。しっぽくときたら花巻。べらんめぇときたらてやんでぃ。
上手く終息出来たときの感動。計算された美しさ。
おあとが宜しいようで。
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