【概念】

「………………っあ、これ、BLらしいですよ」

「あ、そうなんだ」

 そうなんだ、をまた繰り返して、のんびり煙草を吸ってた先輩は慌てて火を消す。

「えっと、それじゃあ」

「ああ、はい」

 ぎこちなくお互い手を伸ばしてはみるものの、そこから先はどうしていいのかわからず、時間が経てば経つほど気まずいので一旦離れた。

「『しどけなく』と『往々にして』なら持ってるんですけど」

「淡いねえ」

 先輩も手持ちの語彙を見せてくれる。うーん。家電ばっかりだ。

「『充電』とか『スイッチ』とか、使えそうじゃないですか」

「『自動省エネ機能』は駄目?」

「それをどう使うんですか」

 ああでもないこうでもないと論議していると、そこに申し訳なさそうな顔をしてもう一人やってくる。あちゃあ、と先輩が笑って受け入れる。ものすごく猫背で泣きそうな顔をしたその人が、小さな声で言う。

「『パントテン酸』とか『小麦ブラン』なんです。普段使うのは」

「ビタミンは?」

「A、C、D、B1、B2、B6、B12なら」

 ここまでくると先輩のように笑うしかなく、しばらく本題を外れて三人で談笑する。だいぶ和んだところで、そろそろ話を戻す。

「お前が一番役立つべきなんじゃねえの?」

 先輩が僕を小突く。

「なんとなく分かるけど説明しろと言われたら困るワードですよ、僕は」

 家電全般より、特定のグラノーラ食品よりいいだろ、と返されて、そうなのかな、と一瞬思うけど、いやそんなことはないとすんでのところで回避する。

 困った困ったと三人寄っても知恵は浮かばず、そこに浜名湖大先輩が現れて、一同は両手をあげて迎え入れる。

「夜のお供に」

 大歓声があがる。

「お早めにお召し上がりください」

 感涙に咽び泣く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る