あとがき

 あとがきという作品があってもよい。最初から全部あとがきなのだ。指田知之に感謝しますと書かれてあっても、そんな人物はこの世に存在しないし、雑誌『レーズン』に掲載されたのがこれの始まりですという話も、まったくの架空である。作中に出てくる天才詐欺師にはモデルがありまして、第二部の冒頭でチラッと仄めかされてる、例のあの有名な翻訳者なのですけれども、……と恥ずかしがりながら語られても、そんな人はやっぱり実在しないし、第二部すらここにはない。浮かれてツラツラと饒舌なお喋りは、三万文字ほど続き、実はァ、あそこにはァ、こんな意味があってェ、などとご満悦に披露されては、大失敗の飲み会みたく、こちらはしょっぱい思いを噛み締めながら酒をグイグイ煽るしかない。なるほど、さすが、そうなんですね、を駆使してなんとかやり過ごし、いや、本当はこんなプロットだったのが、登場人物が勝手に歩き出しちゃってさあ、などと言われようものなら、ええいもうやってられるかとテーブルをひっくり返し醤油を畳に溢し、ビリビリと障子の和紙を叩いたり蹴ったりしては最終的に割りばしで相手の目玉をくりぬきに飛びかかって襲うと言ったような、阿鼻叫喚そのものの作品が、試しにこの世にあってもよい。

 買わないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る