第17話 教頭の車に発信器を仕掛ける陽君
『保護者を女として斡旋してることをですか? そんな、まさか!』
文化祭で、僕は教頭の音声を押さえた。
校長と教頭が、真面目な顔をして学校での職務をこなしている裏で、どんな下衆なことをしているのかを僕は知りたかった。
二人は、間違いなくクロだ。
今やってることも十分犯罪だが、三年前の保護者失踪にも関わっているに違いないと僕は見ている。
ただ、失踪事件に関しては掴んでいるものが少なすぎる。
あるのは物的証拠である傘の画像だけだ。
失踪した母親が当時持っていたと思われる、特徴あるキャラクターの持ち手がついた傘。
これが夏休み中に置き傘のビニール傘と一括りにされ、捨てられようとしていたのを見たのだ。
夏休み中、ずっとではないけど校舎内をうろついていた僕は、こっそりと写真を撮った。
それが失踪した保護者のものであると確信できたのは、失踪した当時に配られていたたずね人チラシを、僕が大事に部屋に貼って眺めていたからだ。
本当はその傘自体を持って帰りたかったけど、さすがにそんな大胆なことはできなかった。
残念すぎる……と思っていたところへ、もう一人傘の目撃者が現れた。
それは、保健室の先生、林先生。
二学期から保健室の常駐の先生としてやってきた林先生は、男性だけど見た目は長身の美女だ。
間違いなく、校長の好みに入るだろうほどのね。
これは後々使える要素だと、僕はこっそりほくそ笑んでいた。
林先生は傘の目撃証人になってくれた上、都合のいいことに、林先生からも僕に興味を持って近づいてきてくれた。
僕達は、互いに情報を共有する契約を結んだ。
田口先生と僕が、そうしていたみたいに。
田口先生といえば、僕に与えてくれたのは先生側の情報だけじゃなかった。
文化祭の時に使ったボイスレコーダー。あれは、田口先生に買ってもらったものだ。
アルバイトをしていない僕は、そうしたグッズを買う余裕がない。田口先生を巻き込んで本当に良かった。
で、小型ボイスレコーダーの次に買ってもらったのが、発信器だ。
これもボイスレコーダーと同じく小型で、車につけられる仕様になっていた。
これを教頭の車にこっそり仕掛けて、十一月まるまる一ヶ月の動向を探ったのだ。
すると一ヶ月も経たない内に、ある面白いことに気がついた。
毎週金曜日……夜中の一時を過ぎているから正確には土曜日だけど、校長の家に行くのだ。
校長の家の所在地は、年賀状をやりとりしている田口先生から教えてもらった。
校長の家は、広い敷地の立派な一軒家が立ち並ぶ住宅街にある。
あとは、以前、田口先生が校長宅に招かれた時に感じたことも教えてもらっていた。
家族構成や、奥さんが資産家の一人娘でお嬢様育ちだということも含めて。
校長の奥さんは、
もし知っていたとしても、知らないふりをしているのだろうか?
どうなんだ……僕は校長の奥さんの感情にめちゃくちゃ興味があった。
だからといって、僕が直接コンタクトを取るわけには行かない。そんなことをしたら、怪しまれて僕は一巻のオワリだ。
夜中の一時頃に校長の家に行った後に向かうのが、二十分ほど車を走らせたところにあるラブホだ。
教頭と校長が密談するためにそんな場所を選ぶとは考えられない。
だとしたら、教頭の相手は校長ではなくて、校長の奥さんなのではないか?
僕の胸がワクワクと疼く。
もしそうだとしたら、さらに教頭との繋がりも期待できる。
なんといっても教頭はギャンブルと借金まみれで金が欲しい人なのだ。
そんな男と繋がってしまったら、資産家の一人娘である校長の奥さんは財布になる可能性が高い。
夫である校長の目を盗んで逢瀬を繰り返す、校長の奥さん。その妄想が現実なのか否かを知りたい。
ラブホから校長の家に着くのは明け方の四時頃だ。
僕はこの目で色々と確認すべく、そのラブホ前と校長の自宅前に張り込みをした。
田口先生は、僕がついてこなくていいと言ったのにもかかわらず、ついてきた。
教頭の車のナンバーはわかっているし、やってくる時間もわかっていたから、張り込み場所に滞在する時間は短くて済んだ。
結果、ラブホに入っていく教頭の車のナンバーと車種、その車から降りて校長宅に入っていく婦人の姿を確認できた。
いいぞ……さて、これからどうやって二人の首を締めていこうか?
僕は暗い
そうだ、林先生にもなにか協力してもらおう。
僕は学校の人気者、美人でスマートな林先生を頭に浮かべながらプランをあれこれ練り始めたのだった。
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