第2話 幼馴染は取扱注意




「へー!ゲームセンターって、こんな感じなんだね!」



きょろきょろとあたりを見渡している幼馴染を横目に、俺は近くの人間を観察する。

どうやら学校を出る前に施したメイクはきちんと役割を果たしているようで、幸い誰にも疑われる気配すらない。


そのことに安堵しながらもふっと横を見た瞬間、隣にいたと思った玲於奈が3メートルほど離れたところに顔を近づけていた。



「凪!凪!これほしい!」

「おい、れお……………れ、レナ!」



玲於奈、と口走りかけた口を慌てて塞ぎ、偽名と言えるかどうかの名前を叫ぶ。

案の定その名前に玲於奈は首を傾げると、小走りに追いかけてきた俺に耳打ちした。



「凪……………それって偽名のつもり?それならほぼ意味ないと思うよ?」

「ああ、俺もそう思う…………」



ただ『お』を抜いただけという単純すぎる名前に玲於奈は笑い、俺はやや脱力して彼女の前にあるクレーンゲームの台にもたれかかる。

その瞬間、玲於奈は「あ、そうだ。これが欲しいんだった」といって財布をカバンから取り出した。

その中には流石と言うべきかたくさんの福沢諭吉がおり、俺は思わず顔を引き攣らせる。



「おい、れ、おな………じゃなくて、レナ…………。わかってるとは思うけど、クレーンゲームで一万円札は使えないからな?」

「そんなことわかってるよ。ちゃんと両替してくるってば」



じゃ凪、ちょっとそこで待ってて、と言った幼馴染に軽く頷いた。

その間に何人かこの台に来たので譲り、数分ほどで何人か景品を取っていった客を見送る。


おお、と感嘆した声で最後の一人を見送った時、なぜかさっきとは反対方向からきた玲於奈がこちらに近づいてきた。



「レナ。なんでそっちから来たんだ?」

「迷った!」

「だろうな」



手をあげて自信満々に迷子発言をする幼児…………もとい玲於奈はにっこり笑うと、二十枚ちゃんとあるね、と五百円玉を数えて手に取る。

そう、五百円玉である。



「レナ…………まさかとは思うが、一万円そのまま両替してきたとかないよな?」

「え?そうだよ?」

「千円札を使え、千円札を」

「私、今一万円札しか持ってないもん」

「これだから金持ちは」



ため息と同時にあれこれを飲み込んで、クレーンゲームの前に立った俺を見て、玲於奈は首を傾げながらも隣に立った。

そして意気揚々と台に五百円玉を突っ込んだ幼馴染は、ピロリンっとなった音に顔を輝かせる。



「そういえばレナ、お前クレーンゲームやったことあるのか?」

「ないよ!でも、多分今日の私なら大丈夫な気がする!」

「そうか…………そうか?」




そんな会話を俺たちがした十分後、そのクレーンゲームの前には、顔を顰めている美少女と頭を抑えているイケメンがいたという。







◇◇◇◇◇








「ええええ…………?なんで取れないの!?」

「お前が壊滅的にクレーンゲームが下手だからだろ…………」



完全に忘れていたが、玲於奈は基本的にゲーム全般ダメだった。

五百円玉をもはや溝に捨てる勢いで消費していった玲於奈を見て、俺は大きなため息をつく。


でもさあ、と唇を尖らせた彼女は、少しだけムスッとした子でクレーンゲーム機のボタンをぽちりと押した。



「ここまでやったんならどうしてもゲットしたくない?」

「制作会社の狙い通りのこと言ってんじゃねえよ……………」



思わず呆れて突っ込んだ俺に向かい、「じゃあ凪がやってみてよ」と玲於奈は頬を膨らませて言う。

その言葉に軽く頷き、五百円玉を渡してきた彼女からそれを受け取った。


期待すんなよ、と呟いた俺に向かい、玲於奈はことりと首を傾げた。



「ちなみに凪ってクレーンゲームやったことあるの?」

「いや、今日が初めてだな」

「え、さっきの流れでそーゆーのある?」

「期待すんなって言っただろ」



五百円玉をクレーンゲームの中に入れながらそう答える。

ええー、と言った彼女はおかしそうに笑った後、先程自身が格闘していたクレーンをじっと見つめた。



「………ここを右か?………で、この後数秒奥と」



五百円玉を有効活用するため、一気に使おうとせずにじりじりと景品を移動させていく。

さっき数分で取っていった人たちは本当はすごいんじゃないか、と思いながらプレイしている俺に向かい、玲於奈は「凪凄い!」と歓声を上げた。



「…………あ、とれた」



落とされたボケモンのクッションを嬉々として抱きしめている玲於奈に、俺はそういえば、と尋ねる。


何?と小さく首を傾げた彼女に向かい、俺は口を開いた。



「玲於奈、なんでこれが欲しかったんだ?」



それを聞かれた玲於奈は、逆になぜそれを聞かれたかがわからないように、小さく首を傾げる。

腕をぐっと伸ばしてそれを俺の胸へと押し付けた彼女は、首を傾げた状態のまま嬉しそうに笑った。



「ん?……………だってこれ、凪が昔好きだったキャラだよね?」



まあ、結局凪に取ってもらっちゃったけどね。

そういってへらりと笑って「はい」とそれを手渡す幼馴染に、俺は受け取りながら顔を逸らして答える。



「……………ああ、好きだな」



お前玲於奈がな。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――




はい、SIDEストーリー超久しぶりの投稿です。



……………す、すみません。



新作もよろしくお願いします。

「初恋の人に告白しようとして失敗した次の日、「お付き合いを前提に結婚してください」とプロポーズされた件。」


kakuyomu.jp/works/16817330663911353315

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