再結集
(歴史的な……伝説とも言える場面に立ち会っているのだが……)
大迷宮から脱出した白い海原の面々は、拠点への道中に存在する河原で神話の光景と立ち会っていた。
登場人物は勇者、聖女、剣聖、魔女、モンク、竜滅騎士。
そして暗黒騎士。
史上最強の戦闘集団にして世界を救った勇者パーティーが、七十年ぶりに再会したのだから、その傍にいる白い海原をほぼ全ての存在が羨むだろうし、彼らも一生の自慢にできただろう。
(すげえ居たたまれない)
暗黒騎士エアハードが小さく見えなければ。
大鎧を着こんでいる威圧感たっぷりの人間が極論すれば、あーあ。早く帰りたいなー。なんで自分はここにいるのだろう。と言わんばかりの雰囲気を発散しているのだ。
大迷宮の中でもそのような感じだったエアハードだが、抜け出して青空を認識したら余計に
「とりあえず……久しぶりだな」
「お久しぶりですエアハード」
「よう」
「久しぶりだね」
「またその筋肉に会えて嬉しく思う」
「おっす」
フェアド、エルリカ、サザキ、ララ、シュタイン、マックスからすれば、エアハードは大戦後すぐに姿を消した男であり、再会もそれ以来になる。
「ああ」
そして七十年ぶりに出会った戦友にエアハードは短く返答するだけだが、これは彼が普段の状態でも同じだっただろう。
基本的にこの大鎧の人物は会話を最低限度しか行わず、大戦中に彼と話を成立させた者は極少数で、一部の者からあいつは話をすることができないと思われていたほどだ。
ただ、そんなエアハードでも現状はきちんと話を進める必要があった。
「一応、大魔神王の臣下が遺した演算装置が、魔軍の勝利した世界線を押し付けようとして、大魔神王の再現体と戦った事件。つい最近、古い神が大魔神王を模した奴を倒して自己満足を得ようとした事件があった。けど、大魔神王が直接復活するような事態にはなってないな」
「……なるほど」
七十年前と同じ口調になっているフェアドの説明に、エアハードは少々考え込んだ。
(つい最近という話で古い神……全て絶えたかと思っていたがそちらに刺激されたか? なんにせよ相変わらず碌でもない連中だ)
エアハードもまた、かつての主流派の神が碌でもないことと、そんな神を大魔神王が心底嫌っていたことを知っている。
だが今重要なのは青空であることだ。
そうなっていないならば、大魔神王が復活していないという証であり、エアハードの目的は存在しないことを意味している。
「それでお前達はなにを?」
「お世話になった人達への最後の挨拶だな。俺とエルリカは別大陸にいるひ孫に会いに行こうとも思ってる」
「ふむ」
エアハードはフェアド達の目的を知って再び考え込む。
魔軍が勝った世界線を実現しようとした者。大魔神の模造品で好き勝手しようとしている者が連続で現れたと聞いては、素直に大迷宮でまた寝るという選択肢は取りにくい。
(フェアドが動いているか……)
なによりエアハードは、ある意味でフェアドを途轍もなく信頼している。
絶対に騒動の中心で巻き込まれる運命の申し子が、各地を旅して別大陸に行くなど、それはもう道中でとんでもない騒ぎが起きて解決することが決定しているようなものだ。
そしてフェアドと大魔神王は表裏一体のようなものであり、何かしらが絡むことは十分に予測できた。
そのためエアハードの出した結論は……。
「俺も同行しよう」
挨拶には関与しないがかつての仲間に同行し、発生するであろう命ある者達への障害を叩き潰すことに決めたのだ。
「おお。それなら七十年ぶりに全員で旅をするとしよう」
フェアドはエアハードが物騒なことを考えていることが分かっていた。しかし、それでも七十年ぶりに全員が揃って行動することが嬉しかった。
(勇者パーティーが完全再結集とか、アルドリックが知ったら卒倒するな……)
この伝説的光景に、ララの弟子であるキーガンは同門の勇者パーティーファンを脳裏に思い浮かべる。
勇者パーティーの完全再結集など、絶対にあり得ない光景だと考えられていた。彼らは既に役目を終えたはずであり、各々の道を歩んでいた。しかし、七十年の月日の果てに今奇跡が起こったのだ。
「お前ら、迷宮とかあんまり関わりがなかっただろ?」
話がひと段落したことで、サザキは自分の弟子のグスタフ、ティバルト兄弟に話しかけた。
「この前ちょっと大迷宮の話で盛り上がりまして」
「行けるとこまで行ってみようぜって流れですよ」
「だっはっはっ! そりゃいい」
あまりにも軽い返答にサザキは大笑いしながら酒を飲む。
「サイン色紙とか言い出すんじゃないよ」
「私は言いませんが、アルドリックが知ればすっ飛んでくるでしょう」
ララとキーガンも軽い話をするが、軽くできないのはシュタインの弟弟子であるラオウルと、エルリカの関係者であるアンネマリーだ。
「兄弟子……」
「久しいな。近いうちに煮え立つ山に行くと思う」
「おお……ついに……」
ラオウルはシュタインが煮え立つ山に向かっていることを知っていたが、本人から直接伝えられるとまた違う感じ方をするようで、ついにこの時が来たのかと喜んだ。
「エルリカ姉様」
「アンネマリー」
眠たげだがどこか嬉しそうなアンネマリーと微笑みを浮かべるエルリカが名前だけを口にする。
聖女計画が実行されている中、悪く言えばサブプランとしての量産可能な聖女候補の一人だったのがアンネマリーで、少女だった頃の彼女はエルリカを姉として慕っていた。
関係者の輪にエアハードは入らない。むしろそのまま続いてくれと思っていた。
そして勿論フェアドは、エアハードと白い海原の面々の出会いがどんなものだったかを聞くことはなかった。
聞いても絶対に答えが返ってくることはないと分かっているからだ。
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