次なる騒動へ
後輩という絶大な人脈を持つオスカーはリン王国からの事情聴取を受けたものの、早期に問題なしと判断され、テオ達と共に解放されていた。
「なるほどねえ……大魔神王復活を演出して倒す……」
「かみさんの言葉を借りるなら、神の企てを真剣に考察するくらいなら、子供の計画表を見てた方が有意義だってよ」
「仰る通り。発想は理解できるけど過程が滅茶苦茶なんだよね」
そんなオスカーは自分の商店でサザキ後輩から詳しい経緯を聞き、げんなりとした表情で天上を仰いだ。
祖先が神でありながら、オスカーもまた神にうんざりしている者の一人であり、その面倒さを熟知していた。
「図らずとも大魔神王は人が神から脱却するきっかけ。いや、直接の原因と言ってもいいか。とにかく、面倒な神を一掃した」
「そうだな。まあ、生き残ってたとしても俺らとぶつかった。特にフェアドなら殴り込みだ」
「ひょっとして似てる?」
「似てると言えば似てる。似てないと言えば似てない。フェアドは極論すれば自分がそうしたいから戦ったけど、あいつは他人からの願いを聞き届けて立ち上がった。だけど思い定めたら一直線に突き進むのは同じだな」
ぽつりと呟いたオスカーにサザキが同意する。
そしてエルフの戦士は大魔神王と勇者は似たような感性なのではないかと問うと、サザキは酒を飲みながら自分の考えを口にした。
それは表裏一体でありながら反発し合う光と闇のようだ。そして闇は既に舞台から去り、光もまた続こうとしていた。
ただ、世界に新たな闇が生まれているように新たな光も芽生えている。
「それにしても、マックスから話を聞いたが相変わらず変わり者の先輩やってるみたいだな」
「テオ君達かあ」
「ああ。そんな名前だった。俺もちょっと観察したが騒動に愛されてる気がする」
「卵ではあるね。殻を破るような騒動は起きて欲しくないけど」
「その辺りは俺の弟子連中に頑張ってもらおう」
話を変えたサザキに、オスカーはなんとも言えない表情になる。
勇者と剣聖の先輩を自称していたオスカーだが、まさかその資格を持つ卵と共闘するだなんて夢にも思っておらず、何かの間違いが起こればまた勇者の先輩になってしまう可能性があった。
「お弟子さん達の強さはどんな感じ?」
「大戦時の魔将クラスなら殺せるな」
「ほえー。僕なら逆立ちしても勝てないのに」
「生き延びるならなんとかなるだろ」
オスカーは興味本位でサザキの弟子について尋ねたが、返答は並外れたものだ。
大戦時で魔の軍勢を率いていた将軍クラスは、通常の人間どころかオスカーのような古強者にとっても死と同義である。
だからそれを凌駕しているなど、人類最高峰の存在と言っていい。
「ところでこれからどうするんだい?」
「あー……ちょっと妙なことになりそうだ」
これまた興味本位で今後の予定を尋ねたオスカーだが、珍しくサザキは困ったような表情になった。
場所は変わって龍の神殿。
「エアハードがうろうろしている可能性がある?」
「単なる勘でしかありませんが、探す必要を感じる程度には……」
「ふーむ……」
レイモンの神殿やら騒動の対処で話し合いの場が数度設けられ、ゲイルは暫く会うことはないだろうと思っていたマックスや勇者パーティーと度々面会していた。
そしてゲイルは曖昧な表情で頷いているフェアドに確認を取ったが大事な内容だった。
七星や七つの光と称される勇者パーティー最後の一人、真っ黒な大鎧を着こんだ大剣使いエアハードは、最も知名度が低く謎多き存在として語られている。
そんなエアハードがうろうろしているのではないかと根拠なく思ったフェアドだが、大戦を経験しているゲイルにしてみれば勇者の勘は予言に等しい。
「ならばここを急いで発つか?」
「はい。あ奴、ちょっと常識が怪しいので……」
(勇者パーティーの中で更に常識がない……だと?)
ゲイルはフェアド達が仲間を見つけるため、すぐに王都を発つのかと聞いた。だが、色々と派手な行動と結果を残したフェアドに、エアハードは常識が怪しいと評されたため僅かに慄いてしまう。
「騒動の連続か」
「若い頃に戻った気がします」
話を横で聞いていた戦神ラウはエルリカに話を振るが、聖女と謳われながら血生臭い青春だった彼女は昔を懐かしんでいた。
「エアハード……私も直接の面識はないのですがどのような方です?」
更に同じように話を聞いていたエリーはシュタインとララに尋ねるが、この二人も存在が非常識であることを忘れてはならない。
というより、フェアド自身も自覚しているが勇者パーティーに常識的な者は存在しない。
「芯の強さではフェアドにも劣らぬでしょう」
「……まあ……そうだね」
そんなシュタインが力強く断言すると、他の表現方法を口にしようとしたララも頷いて同意した。
「もう少しゆっくりするかと思いましたけど……」
「俺らがほぼ揃ってるんだから、忙しいのは確定事項みたいなもんさ。エアハードも合流したら余計にそうなる」
そしてエリーは、マックスが王都でもう少しゆっくりするものだと思っていたので残念そうな表情になる。尤も軽く肩を竦めたマックスに言わせてみれば、勇者パーティーがほぼ集結しているのだから、騒動は約束されているようなものだった。
「その後で関係各所に挨拶し終わったら……帰ってくるわ」
「ええ。ええ」
「分かった」
別れの挨拶は前に済ませていたマックスだったが、恥ずかしがって言えなかった部分もきちんとエリーとゲイルに伝えた。
また会いに来るではなくここに帰る、と。
そして会談を終えた勇者パーティーは慌ただしく準備を整える。戦地でも即断即決だった彼らは行動が早く、年寄りとは思えない手際の良さだ。
「お世話になりましたのう」
「光栄でした」
勇者パーティーが宿泊していた宿の責任者アーロは、フェアドからの挨拶を受けて深々と頭を下げる。
(名残惜しいが……勇者パーティーとはそういうものなのだろう)
今を生きる伝説への対応は胃痛の原因であると同時に、これ以上ない名誉なことだったため、アーロももう少しだけ体験していたかった。
しかし世界の危機を退けるのが勇者パーティーなのだから、急に現れて危機の元凶をぶちのめし、風のように去るものだと納得していた。
「よかった間に合った。それじゃあまた会おうじゃないか後輩達よ」
「ほっほっほっ。オスカー先輩もお元気で」
「次は酒を飲もうぜ」
更に街中でオスカーに出会ったフェアドとサザキは、怪鳥の様な偉大な先輩に笑顔を向ける。
(あっという間だったな)
そんな中、マックスは二度と戻ることはないだろうと思っていた故郷に視線を送る。
七十年前は背を向けて出発し、今は振り返る余裕があった。そして寂しさもない。
騒動と面倒事が約束されている旅だが気楽なものだし、なにより再びここに帰ってくると決心して約束したのだ。
(もう少し土産話を持ち帰るとするか)
かつては祖国を救うために家族を捨てて歯を食いしばり門を出た。
そして今現在。家族のところに帰ることとなった青き龍滅騎士は、いつも通りの陽気な笑みを浮かべて一歩踏み出すのであった。
フェアドの勘で一行が目指すはリン王国の端の秘境に存在する大迷宮。
大深淵や底なし沼とも呼称される、未だかつて誰も最奥を覗き込むことができていない、世界最大のダンジョンだった。
非常識な轟音が鳴り響いていたが。
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