大魔神王が見る夢
どうも面倒事を引き起こしたぞと自覚した大魔神王だが、そんなことまで責任を取れるかと、ある意味でふて寝する。
元々とっくの昔に敗れ去った存在である以上は、最果てから眺めていた勇者パーティーに首を突っ込むことなど考えておらず、起きていたのも少し騒がしかったからという程度の話だ。
そんな大魔神王が夢を見る。不本意ながら紛い物の宿敵と対面したからだろう。
七十年前。
生と死。青空と血の空。希望と怨念の激突したあの日。真なる姿を取り戻してなお立ち塞がった七つの光との最終決戦。
人、エルフ、ドワーフ、善良な神、ドラゴン、生きとし生ける全ての祈りと、あらゆる怨念を抱えた闇の決着。
『眩しい……!だろうが……!』
大魔神王にとって何もかもが未知の体験だった。
疲労で上手く話せないなんて、そんなことが起こり得るのかと疑問すら覚えた。
ましてや相手は神ではなく、勇者に至っては農村の子倅だ。武器だって中古のものであり、神話に名が残るような伝説とは無縁だ。
それなのに信念と光だけで全存在の最高到達点に足を踏み入れ、暗黒の大本ですら直視できない程の輝きを放っている。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
大魔神王は疲れていようが吠えた。
体の中にいた怨念は身を削られた際に噴出して解き放たれた。だが願いを。祈りを。望みを聞き届けた以上は死ぬまで止まれない。
大魔神王は目が覚めて最初に会った子供を覚えている。
足の腱を切られて倒れ伏した目玉がない姉。腕に抱かれている生まれたばかりの妹。
その姉がもぞもぞと動いて暗黒の足首を掴んだ。訴えた。自分ではなく妹を殺した世界への報いと復讐を。
それだけではない。積み重なっている怨念が祈っている。
光は。命は。生は。人は。神は。暖かなものではなかったのか。優しいものではなかったのか。尊いものなのではなかったのか。
『くらえやああああああああ!』
大魔神王が渾身の力を込めてぶん殴る。ソレしかできないが、ソレだけで決着がつく筈だった。
慢心や油断などとは思っていなかった。客観的な事実として原初混沌の切れ端に殴られ、耐えられる存在などいない。
しかし例外がいた。
『っ!』
光の盾というよりも光そのものにぶち当たった拳に痛みが走る。
確かに全存在の光を宿せば闇の概念そのものと対抗できるだろうが、なぜそれを成し遂げて生きているのか理解できない。
『認めてやるよ酔っ払いの理論をなあ……!』
別の光に赤が混じる。
最速最短こそ最強だと言ってのけた子供の理論を認めざるを得ない。
なにかをする度、必ずその前に振るわれる刀は真の姿となった大魔神王ですら認識できず、無視できないダメージが蓄積されている。
『人が龍を越えやがって!』
別の光に青が混じる。
他と違い明らかに人の輪郭を保っていない光が流星と化すがそれだけではない。幾つもの武具もまた飛翔し大魔神王の体を貫く。
『俺が殴られて痛いなんざどうなってんだお前!』
別の光に無が混じる。
大魔神王の間合いは必死必殺の領域にも関わらず、防具など身に着けていない男を殺せないどころか当たりもしない。しかも無の拳は大魔神王の腹に突き刺さり、体をくの字に曲げてしまう。
『神ですら水遊びだったのにデカい石投げてきやがって!』
別の光に消却が混じる。
極大の破壊光線は大魔神王すら両腕を重ね防御の態勢となってなお身を削り、暗黒の肌がひび割れる異常な滅びを齎す。
『ちったあ見れる顔になったじゃねえか!』
別の光に更なる光りが混ざると、大魔神王はうっかり本音を漏らしてしまう。
殺す為ではなく生きるために戦う。願われて作り出された殺戮兵器ではなく、明日を踏み出すために決心した人間が、習得している技術を全開放して大魔神王に刃を届かせる。
『っ!』
光の大本。
少なくとも今現在において言葉は不要。お互い気に入らないからぶちのめす。
暗黒の拳と光の剣が衝突して最果ての地を割る。
『忘れてねえよ!』
そこに混ざる黒。
大鎧と身の丈に匹敵する巨大な大剣。更には絶対に、何があっても人を存続させるという意思も粉砕するため拳を振りかぶり……。
『は、はあっ!? どうなってやがる!?』
今の今まで隠されていた切り札に、大魔神王は戦いの場でありながら心底驚愕して我を忘れてしまう。
『ぎっ!?』
だがそんなことはお構いなしに振るわれた大剣は、大魔神王の胴体にめり込んで痛撃を与えた。
そして戦って戦って、戦い続けた闇の概念は敗れ去った。
奇しくも七十年後に同じ神を相手取った者達だが、神程度では話にならない最終決戦の果ての結果だ。
つまり現代の神程度では大戦と同レベルの危機。全人類が死滅することはそうそう考えられず、人の世は存続する筈だ。
ただタイミングが悪かった。
演算世界がどうにかして大魔神王を復活させられないかと企み、そのすぐ後、本人が力を行使したとなれば話が色々と拗れる。
昏く暗い地の底でガシャリと金属がこすれ合い、ぎゅっと剣を握る音が鳴り響いた。
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