切れ端にしていずれきたる終焉
「誰だ貴様は?」
身から湧き出る力に興奮していたブランシュ達だが、覚えのない人相の悪い青年に首を傾げて問う。
「つい最近まで寝てたんだけどよ、馬鹿と愉快な仲間達が騒いでる上に、妙に俺への接触があったからちょっと起きて見てた。そんで俺とお前さん達は結構繋がってるから、ここに流れ着いたみたいだな。かなり力が上がってるのはこの場と相性がいいからか?」
だが青年はブランシュの問いに答えることなく、岩に座ったまま肩を竦めて自分の考えだけを話す。
「王とかドラゴン、冷や飯食ってた神が復活をマジで恐れてる理由は分かるか? 答えは簡単。その馬鹿集団でも殺せはしたけど消滅までは無理だったから、復活の可能性が完全にゼロじゃねんだわ」
この青年の言葉にレイモンだけがびくりと肩を震わせる。
ブランシュ達の封印を解除した主犯のレイモンは、処世術の神だけあって上手く立ち回り封印されることなく、そして天界の陥落も直接目にしていた。
だが、岩に座っている青年の姿は覚えがなく、そんな馬鹿なという驚愕が顔に張り付いている。
「まあ消滅したらどうなるか、俺でもちょっと分からねえからその方がよかったと言えばよかった。大丈夫な気もするけど、最悪の場合は均衡が崩れて光が猛毒になることだって考えられる」
レイモンの驚愕を気にすることなく青年は独り言のようなものを続ける。
「約束したんだから破るつもりは全くないんだよな。そう、約束さ。光と闇。未来と過去。馬鹿集団と俺。命の総体と死の総体。あの日、決着をつけると言って俺が負けた以上、もう世界に対して何もする気はねえ」
どこか遠くを見ているような青年が、昔を懐かしむような表情になる。
「だけどよ。俺の認識じゃお前らみたいな主流派の神は光でもねえし未来でもねえ」
だが青年が俯いてゆっくりと立ち上がると一変する。
「この! このボケ共があああああああああああああああああ!」
ぼさぼさの黒髪が天を向き、ただでさえ人相の悪い顔が憤怒で歪んでいた。
それと同時に青年の正体を覚ったレイモンがガタガタと震えだす。
あれだけは駄目なのだ。当時を生きていた全てのトラウマなのだ。絶対にいてはならない恐怖であり、死であり、破壊そのものなのだ。
「その足りねえ脳みそで少しは考えなかったか!? これっぽっちもか!? 紛い物とマッチポンプを企んだら、本物はキレないかってよお!? ああ!? キレたそいつが手に負えねえとも思わなかったのか!?」
荒れ果てた大地の空を覆っていた雲が霧散する。
「まあ考えは少しだけ理解してやるよ! 俺を倒せばそりゃてめえらの自己顕示欲は満たせるだろうさ! 流石は神! 偉大なる神! 素晴らしき神ってなあ! 俺ぁそれだけぶっ殺したとも! それだけぶっ壊したとも! 倒せば人から信仰されるだろうとも!」
空は赤かった。真っ赤だった。その怒りに相応しく、どこまでもどこまでも赤かった。
まるで七十年前の時のように。大戦の時のように。なによりあの怪物がいた時のように。
「だがよぉ! だがだ! 俺を倒した奴らの名はフェアドだ! エルリカだ! サザキだ! ララだ! シュタインだ! マックスだ! エアハードだ! 断じて! 断じててめえらじゃねえ! 俺の名は勇者パーティーに敗れた敗者として刻まれるべきなんだよ!」
馬鹿の剣を受けた。操り人形だったはずの光消滅魔法を受けた。酔っ払いの刃を受けた。変人の消却魔法を受けた。露出魔の拳を受けた。自称臆病者の槍を受けた。予想外だった大剣を受けた。
それでも暴れ回った怪物が叫ぶ。
「それをのこのことあとからやって来た奴らが欲しがるだぁ!? お前らはどこにいた!? 大戦で暗黒のドラゴンに挑んだか!? 俺の仲間達を倒したか!? 俺に刃を届かせたか!? いいや! それどころか尖兵にも関わってねえだろうが!」
頭をカチ割られ、体を光に包まれ、首を切られ、魔法を浴び続け、胴に拳がめり込み、四肢は貫かれ、魂に傷を受けた。
それでもたった一人で決戦を成立させた存在が叫ぶ。
「散々欲しがってた名をくれてやるよ! 世界を救った者! 光を齎した者! 青空を取り返した者! 命の守護者! 全部持っていくといいさ! 俺を倒せばいいだけだ! この! 俺を!」
言葉だけだ。絶対にこの男は名など与えるつもりはない。ましてや心底嫌う神が宿敵の名を、勇者を超えるなど断じて許容しない。
そして……死の神であるブランシュとも関わりがある、果てにして最も深い死と闇の世界で……かつてのゴミ捨て場に暗黒が迸る。
「我こそが原初混沌の切れ端にしていずれきたる終焉!」
根源から零れ落ちた最初の力。その欠片も欠片。末端も末端。名前すらなかった闇。
存在の起源にして終着点。
神という枠に収まらぬ現象そのもの。
かつて誰よりも何よりも光の輝きに焦がれながら、命を絶やすために立ち上がった大暗黒。
どう考えても敗れるはずがなかった究極極限。
「さあ勝ってみろや! フェアドが! 勇者パーティーが! 命ある全てがそうしたように!」
間違いなく史上最強の戦闘集団、人々が無敵に思えた最盛期の勇者パーティーですら万の内の一つを掴むような奇跡の果てに倒せた怪物の中の怪物。
第四形態であり真の姿。
なにより光に敗れた敗者。
「この大魔神王によおおおおおおおおおおおおお!」
大魔神王が現れた。
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