神と人の戦い
主流派の神達は仲が悪いかだって? ふぅむ。基本的には人間とそう変わらないな。仲がいい奴もいたし悪い奴もいた……と思う。
なんせ直接見てはないけど俺が知ってる限りでも三回は仲違いして分裂してるぞ。ぶっちゃけ集団として纏まってた時期なんかほぼないじゃねえか?
自分が一番だと思ってる奴が多すぎるんだわ。俺が偉い。私が偉い。僕が偉い。儂が偉い。俺様が偉い。だからあいつを引き摺り下ろそう。な? こんなことを大真面目に考えてる奴の集団なんて纏まる筈がない。
あいつらの力関係やら派閥を纏めようとしたら頭が痛くなるからマジでやめとけ。俺もなんだコイツらって心底頭痛を感じたからよ。
そ。主流派の中にまた色々な派閥があるから手に負えねえんだよ。主流とは? って言いたくなるだろ。
こっちの集団に顔を出してるのに、向こうでも挨拶してる奴。自分が偉いってマウント取ってくる目の上のたん瘤を蹴飛ばそうとしている奴。隠れてこそこそ悪だくみしてた奴。うんざりだ。本当にうんざりだ。
あ……そう言えばあいつら、主流派の神と戦ったことがあったっけ?
え? なんだって? 神と戦ったら苦戦?
ぷっ。
ぷぷぷぷ。
わははははははははははははははははははははははははは!
あははははははははははははははははははははははははははははははははは!
ふっ。ふふふ。いや、ぷふ。ぷ。はあ。ふううう。ふううう。うふ。ちょっと記憶にないくらい笑った。
ま、まあ。ぷぷぷぷ。権能やら神器なんかに、ぶつぶつ文句を言う奴らには心当たりがある。こいつら面倒臭い!とか、早く酒飲みたい。とか。
だけどな。神如きに苦戦する連中なら俺らは自分の目を疑わなかった。ま、よっぽどの切り札があってそれが上手く作用するなら、ちょっとだけ死ぬまでの時間が長引くだろうけど、手に汗握る展開なんざあり得ないな。
それじゃあ売れない? 物書きってのはこれだ。そもそもお前が、フェアドが神の息子だのなんだの書いても売れなかったのを知ってるぞ。いいから迷ってここに居座るな。死人はとっとと相応しい場所で寝ろ。
ふう。さて、ひょっとしてここに来るかな?
◆
(こっちは多分瞬間移動! あっちは多分遠距離攻撃の誘導と無効だけど、攻撃無効じゃないことを祈る! マジで面倒なんだけど!)
マックスは背後に現れる戦神シリルと、サザキの飛翔する太刀を受けて無傷だったコランタンの権能を推測する。
その推測は正しく、シリルは非常に短距離ながら戦闘中の瞬間移動が可能で、その兄であるコランタンは遠距離からの攻撃を誘引して無効化する権能を所持していた。
これらが心底面倒だと感じたマックスだが、シュタインは別の感想を持ったようだ。
「あ?」
シュタインの背後に再び現れたシリルの声は、意味ある言葉ではなく単に口から漏れた音に過ぎない。
神らしく豪奢な装飾の施された鎧は、無の概念を宿したシュタインの拳にはなんの意味もなく、それどころかシリルの胸すら貫通していた。
(もうそれは見た)
短いシュタインの感想で全てが説明できる。
頂点に位置するモンクに同じ技を同じ意識、同じ筋肉の動きで行使するなど自殺行為に等しい。
どこに、どのタイミングで瞬間移動をするのか。それをシリルの筋肉と意識から読み取ったならば、彼が現れた瞬間に完璧なタイミングで拳を叩き込むのは簡単なことである。
サザキですら一発目を凌がれたら死ぬのはこっちだと断言するシュタインは、モンクでありながら神すら容易く屠った。
一方、そのサザキ。
(見てわかるような素人集団に負けるかよ)
自分こそが戦神。戦いを司る勝利の神。故にこそ最強だと言わんばかりの自信が表情に出ているコランタンに、サザキは心の中で呆れる。
戦神。
言葉の響きこそ立派だろう。
だが現代に存在しているラウのような戦神と、コランタンのような戦神には大きく違う点がある。
死地と呼べる大戦を経験して生き残っているラウ達はまさしく戦神の名が相応しいものの、コランタンやシリルといった主流派の神々が述べる戦神は自称に近いものだ。
なにせ苦戦などしたことがない。正々堂々と戦ったことなどない。命がけの戦いなどしたことがない。泥水を啜るような劣勢など経験したことがない。研鑽など存在しない。
暗黒の軍勢による一方的な暴力など受けたことがない。魔のドラゴンや超越者が放つ権能など対処したことがない。なにより大魔神王という暴力を知らない。
尤もこのようなことを長々と説明する必要などない。
必要な情報はコランタンの権能が遠距離攻撃の誘因と無効化であり、物理攻撃に対する無効化ではないこと。
そしてサザキが妖刀の間合いに踏み込んだこと。これだけでいい。
なにせコランタンは自信満々な面のまま、首が空中に刎ね飛ばされていた。
(死ぬがいい!)
神速の剣聖の刃を受けたコランタンの意識だけは、まだ戦っているつもりだったようだが。
そして最も派手な戦いは更にシンプルな決着となりそうだ。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 俺は破壊の権化なんだぞおおおおおおおおおお!」
「言葉遊びに付き合うほど暇じゃなくてね」
煌めく光線のようなものがぶつかり合っている破壊神アダラールとララの戦いは、あまりにも単純明快。そして馬鹿げていた。
ララがなにかの小細工をしている訳でもなく、特殊な魔道具で力を増幅している訳でもない。純粋な出力で神であるはずのアダラールが押されているのだ。
「そんなことがあり得るかああああああああ!」
アダラールが現実を否定するものの、破壊神の放つ極光が人如きの魔法に負けているのは事実であり、これ以上の表現などない。
「お、おお、おおおおおおおおおおおおおお!? おあああああああああああああああ!?」
あまりにもシンプル。
魔法使いの頂点、“消却”の魔女の力に破壊神は抗えず、あっけなく極光に飲み込まれて消滅した。
大戦中に存在した数多の怪物達ですら、ララと真っ正面からの火力勝負を避けたほどであり、例外中の例外でもなければ対抗することは不可能だ。
「こ、こんな!? あ、現れよ!」
三柱があっけなく仕留められたのは、驚愕するレイモンの予定と違い過ぎた。この老神の頭の中ではもっとゆっくり、もっと時間的余裕があった決着の筈だった。
そのためレイモンはうっかり権能を使って時間を稼ごうとしてしまう。
人間にとって一番戦いたくない、一番心残りがある者を再現する、死からの目覚めなんてものではない欺瞞の力を。
そして、その類の念を人一倍抱いている男と結びついた。
実年齢はもっと若い筈なのに老けてしまい、痩せこけた顔に白髪となった頭髪。生気を感じさせないぼんやりとした顔の男性が現れる。
マックスの逆鱗に触れた。
「おいコラ」
青き龍のエリーが反応するよりも早く、マックスの鎧がボコリと膨れ上がるように一回り大きくなり、背から禍々しい巨大なドラゴンの翼が突き出る。
そしてレイモンが幻影を操作するよりも早く、マックスは爆発的な加速で飛翔すると同時に身に収めている全ての武具を展開して狙いを定める。
大小さまざまな剣、斧、槍が歯を打ち合わせるような音を発し、強烈な青い光を纏いながらマックスの振りかぶった腕を合図として発射された。
「ひっ!?」
レイモンが短い悲鳴を漏らす猶予だけはあった。
十数を超える武具はどれもこれもが悪龍殺しに関わり、大魔神王にも突撃した伝説そのものだ。当然神を殺せないはずもなく、青い流星群はレイモンの四肢を貫いた。
そしてほぼ同時にマックスが、最も愛用している槍をレイモンの頭部めがけて突き刺す。
「勝手に人の親父を形作るんじゃねえ」
乾いた破裂音と共に大地に倒れ伏したレイモンを見下ろすマックスは、頭部の一部が鎧と一体化しており、縦に裂けたような血走った眼で睨みつけた。
そして病人のような男……マックスの父を模した幻影は、レイモンの秘めていた陰謀と共に霧散した。
だが大魔神王を模した幻影は存在し続けており、フェアドに拳を振りかぶる。
怒りがない。絶望がない。悲しみがない。感情がない空っぽの拳。空っぽの体。
いったいなにを恐れる。
「おお!」
力の籠ったフェアドの声と共に光は更なる輝きを宿し、物質化した光の結晶を纏った盾と幻影の拳が衝突。
本来なら拮抗する筈の光と闇の力は、幻影の腕が大きく弾かれるという形に終わる。
更に人間が直視できない光の剣が幻影の頭に振り下ろされると、幻影はなんの抵抗もできず縦に両断され、完全に消滅してしまった。
「使えない屑共め!」
ほぼ同時に配下を始末された女神ブランシュが、青筋を浮かび上がらせて役立たずを罵りながら、死の権能を発動しようとした。
フェアドの光によって濃さを増した自身の影と、いつの間にか消え去っていた暗殺者に気付かずに。
「ぎっ!?」
ブランシュは妙な声を発するが、自身の胸からなぜ刃が突き出ているのか理解できない。
七十年前に失敗し、つい最近も通用しなかった暗殺機械が、今度こそ想定通りの性能を発揮した。
対大魔神王だけではなく、設計者が持っていた根深い神への不信。疑惑。そこから発生した隠された目的。
人の脅威となる神が本領を発揮する前に不意打ちで殺すという設計。対神兵器として役割。
ブランシュの影から湧き出たエルリカが、仕込み刀を女神の背から突き刺し、秘められていた毒も流れ込む。
尤もエルリカは毒が作用するのを待つ気など一切ない。
有り様だけではなく全身が凶器であるエルリカの髪がブランシュの首に巻き付くと、鋭利な光の刃に変化した髪束が細い首を切断。
背から突き刺した刃で胴体を解体し、とどめとばかりに腕から放った光消滅魔法で愚かな女神を消し飛ばした。
話にならない。勝負にすらならない。
そもそもである。
ブランシュ達は主流派の神々による不意打ちを受けて封印され、その主流派は拠点である天界ごと大魔神王の第一形態によって粉砕されている。
つまりそれ以上の強さを誇る第二、第三形態の大魔神王すら退けている勇者パーティーに勝てる道理などどこにもない。
紛れもなく史上最強の存在であり、世界すら砕くことができた暗黒の化身を打ち破った者達こそが勇者パーティーなのだ。今更古ぼけた神に苦戦するようなことなどありえず、陰謀は全貌を表す前に終焉を迎えた。
だが……。
「おお。やっぱりまだ繋がってるからここに来た」
天界ではないどこか。荒れ果てた大地で呑気な声が響く。
「な、なんだ!?」
「ここはどこだ!?」
コランタンとシリルが見覚えのない地を見渡す。
「おおおおお!?」
「この力は!」
まだ叫んでいるアダラールを気にすることなく、レイモンが身に溢れる力に歓喜する。
「こ、これだ! この力こそ!」
更にブランシュもまた、なぜか湧き出る力に喜んでいた。
その力はまさに望んでいたものであり、どうしてそうなっているのかを気にすることすら後回しになっていた。
ぱん。ぱん。ぱん。
気の抜けた拍手の音が響く。
「お疲れさん。まあ頑張った方なんじゃね」
どこか七十年前のフェアドに似ているものの人相が悪く、ぼさぼさの黒い髪と黒目の青年が荒れ果てた大地の岩に座り、消滅する寸前のブランシュ達の魂を称賛した。
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