甘く見たツケ

前書き

ジジババ勇者パーティー二巻、10月10日に発売予定!

皆様ありがとうございまああす!



 ……そう。汚いのが嫌だという誰もが持つ当たり前の感情の発露だった。


 ゴミをゴミ捨て場に捨てるという当たり前の。


 だが、それをするなと怒鳴られたのに続けたのは彼らの高慢さ故であり、偏執と変質の原因を作り出してしまう。


 尤も完全と究極を謳う彼らが反省などするはずもないが。


 ◆


 レイモンの神殿はリン王国王家直轄の宮廷魔法使い達によって封鎖されていた。


 そして一人一人が並みの兵を容易く消し炭にできる熟達した魔法使い達なのだから、彼らを統べる筆頭宮廷魔法使いともなれば、深層位であることは当然だ。


 だがこの人物、殆どの人間が名を知らずただ筆頭殿と呼ばれているが、全身がフード付きのローブですっぽりと包まれており、仕事中はなんの装飾もされていない銀の仮面を被っているため変人扱いされていた。


「ふむ」


 その筆頭が神殿で恐縮しているのは、久しく会っていなかった師のララが隣にいるからだ。


 マックスからの連絡で面倒事だから調べてくれと頼まれたララは、ゲイルの命で派遣された弟子を利用して神殿内に入ると、まさに面倒事だと言わんばかりに息を吐いた。


「見た感じの魔力じゃ自力で蘇生なんて無理だ。高確率で神が関わってるね」


 うんざりとした様子を隠さないララの言葉に、筆頭は頷いて表情で地面を……特殊な魔道具で拘束されながら眠り続けているマティアス達を見下ろす。


 マックスが場を確保した際には蘇生という現象が起こったマティアス達は、意識が戻らないままだった。


「ですが神に訴えて力を借り受けるのは非常に難しいです。しかも五人分……そうなると……」


「ああ。直接見ていて力を無理矢理詰め込んだ。ってところかね」


 弟子の推測にララも同意した。


 現代で天界にいる神に直接声を届けるのは至難の技であり、倒れている五人分もの力を借り受けるなど、エルリカであっても骨が折れるだろう。つまりは直接神が関与していたとしか思えず、どう考えてもなにかの陰謀が潜んでいた。


「しかしこれは……生きていると言えるのですか?」


「さてね」


 筆頭の問いにララは肩を竦めた。


 マティアス達は単に眠っているのではなく、本来ならある筈の魂とでも言うべきものが存在せず、意識が戻るような兆候がなかった。


「神の謀なんてうんざりだよ。まだ子供が作った予定表やら計画表を見てる方が有意義だ」


 歩きながら言葉だけではなく表情でもうんざりとしているララに、筆頭はなんと言えばいいのか分からず沈黙を選択する。


「修行中にも言ったけど改めて覚えときな。神は基本的に馬鹿で、計画は自分なら上手くやれると信じ込むところから始まるのさ。ま、一部の例外はいるがね」


 更にララは自分の弟子にかつての教えを再び行う。


 神殿の中で堂々と神を馬鹿呼ばわりするなど不敬極まるが、筆頭は悪神を撃ち落とした実績を持つ師に頭を下げるだけである。


「エルリカ」


 ララは本棚の後ろで見つかった階段を降りると、泥と土地がむき出しの地下空間が現れ、調査をしていたエルリカに声を掛ける。


 幾つかの仕掛けがあった隠し階段だが、実態は暗殺者に近いエルリカの目を誤魔化すことができず、神殿の秘密を曝け出してしまった。


「この魔法陣もやはり古い神の類が関わっているでしょう。しかし……」


「中途半端。投げ出した」


「そうですねえ」


 どう表現するべきか悩んだエルリカに、ララはあんまりな言葉で引き継いだが、聖女は大きく頷いて肯定した。


 彼女達の目の前の光景が、オスカーやテオの無罪をほぼ確定させて、王宮の特殊な部署が一時的に保護している原因だ。


 黒の塗料で描かれた魔法陣の複雑な紋様は、常人なら見ているだけで理性を失ってしまうようなものであり、単に描いてすぐ完成するようなものではない。


 だが話をおかしくしているのが、この魔法陣には大事な部分が幾つか欠けているところだ。


「手先に教えて描かせた、恐怖を集めて収穫する魔法陣とは思いますが計画を変更した。もしくは思ったより上手くいかないと判断して投げだした。そんなところでしょう」


「見通しと片付けって言葉を知らないらしい」


 その欠けを大雑把な理屈で片付けたエルリカとララだが、大戦前に存在した主流派の神々を知る者達は納得しただろう。


「ああ。やっぱり……」


「ふん」


 魔法陣を見たエルリカとララは、魔法陣の構成的にこうなるのではないかと思った通りの光景となり顔を顰めた。


『おおおおおおおお……』


『ああああああああああああ……』


 魔法陣に浮かぶ苦悶に満ちた五人の顔。


 それは神殿で眠っている筈のマティアス達の顔であり、肉体から失われている魂だった。


「魔法陣に自分の魂の一部を使ったみたいだね。だから引っ張られる羽目になるんだ」


『神にいいいい……神にいいいなるうううううう……』


 皮肉気なララの言葉に反応できない。


 肉体が蘇生しようと死を体験した魂が無事な筈もなく、マティアス達はただ願望を垂れ流すだけだ。


「企てを話しなさい」


 だが比類なき神官としての力を開放したエルリカの問いは効果があったようで、僅かながらも情報を抜き出すことに成功する。


 意味が少々不明だったが。


『大魔神王を……復活させて神になるううううう』


 聞き逃すことができない恐ろしい企てがついに暴かれたが、当事者とも言えるエルリカとララのみならず、筆頭すら首を傾げた。


「これっぽっちの仕掛けであいつを復活させて神になる?」


「大魔神王なら人を神に変えることもできるでしょうけど……その願いを口にした術者が殺されることを考えなければ……ですが」


 思わず魔法陣の構成を再確認したララとエルリカだけでなく、筆頭も大魔神王が神と酷く敵対していたことを知っている。そんな存在に神にしてくれと頼んだところで、無視されるか下手をすれば殺されるなんてことは、多少の知恵があれば誰だって分かるだろう。


「他には?」


『ああああああああああ……』


「やはり壊れた魂に問いは難しいですね」


「ふむ……面倒だけど大魔神王がどうのこうの言われたなら、黒幕に直接聞いた方がいいね」


「そうですね」


 壊れた魂はそれ以上の情報を吐き出せず、大魔神王に関わる案件なら手早く片付ける必要があると判断したララとエルリカは互いに頷く。


 漆黒の魔法陣が輝きだした。


「集めた恐怖を収穫する側の部分を描いてないから大丈夫だと思う時点で甘すぎるんだよ。力を与えて繋がった奴の魂があるなら十分さ」


 皮肉気に頬を吊り上げたララが、未完成だった魔法陣を解析して改変。


 そして。


「見つけた」


 聖女とは名ばかりの、表だけではなく裏の技術を仕込まれた猟犬が、魔法陣、マティアス達との繋がりを利用して痕跡を辿りその背を見つけ出した。


 やはりと言うべきか。


 神々の裏切り者、老神レイモンの背を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る