今の世代

 フェアド達が食堂でゆっくり水を飲んでいる最中でも、若者達が多い学園だけあり噂というものは足が速い。


「なあ、なんか年寄りがあちこちにいるらしいぞ」


 友人であるフランツの発言にコニーは、多分心当たりがある。勇者パーティーの皆さん。などと言えるはずもない。


「多分、うちのひいひいお爺ちゃんとひいひいお婆ちゃん。それとお友達の皆さんだと思う」


「なんだ、コニーの身内の人か」


だからコニーは当たり障りのない説明をしてごまかす。


「どうも高僧の方もいらっしゃるようだと聞いたが」


「そうなのか?」


「ああ。聞いた話ではモンクでないかという話だ。そうなのかコニー?」


「どうだろう? 詳しくは聞いてないんだよね」


(多分シュタインさんだ。モンクってことも当たってるし)


 また別の友人であるハーゲンの言葉にコニーは、恐らくシュタインの事だろうと推測しながら曖昧な返事を返す。


「私が聞いた話では、田舎から出てきたようなお爺さんとお婆さん。それに歳にあっていない服飾のお爺さんが歩いてたって話だったわ。いろんな人達が来てるのね」


(フェアドさん、エルリカさん、マックスさんかあ。分かりやすい)


 続いて友人グループの紅一点で、ファルケに魔法障壁の件で教えを受けていた女子生徒、エメリーヌが首を傾げる。


 この短い赤毛と青目で背の低いやんちゃ坊主といったフランツ。


 長い灰色の髪と瞳で冷静沈着という表現が似合うハーゲン。


 ショートカットの金髪青目で賢そうでありながら、融通が利かなそうでもある理知的なエメリーヌ。


 そして中々にマイペースなコニー。


 なにもかも違う四人組だが入学当初からどんな馬が合ったのかよく行動を共にしていた。


「気を付けねえと尾ひれがつきまくって、どっかの重臣がお忍びで見学してるとか噂されてたぞ」


「うーん……絶対あり得ない話じゃないわね。普通のお年寄りが学園を見学するのは少し敷居が高いもの」


「そのうちどっかの王族が入学する下準備に来てるって話になるかもな」


「流石にそれは飛躍し過ぎよ。精々、自国の教育機関の参考にするってところかしら」


「そりゃあ夢がないな」


「王族が自分の国から出るなんてそうそうあるもんですか」


「なんかあったのかもしれないだろ」


「ないわよ」


 発想が飛躍したフランツに対し、エメリーヌは多少の理解はしつつも流石に他国の王族が留学しに来ることはないと口にする。


(いろんな意味で夢があるんだよねえ)


 だがジジババの正体を知っているコニーは、フランツの発想を更に斜め上に突き破った状況であると心の中で思う。


 知名度において勇者パーティーを凌駕する者など存在せず、そこらの王よりも世界への影響力がある集団が学園を見学しているのだ。


 フランツの言葉を借りるならまさに夢がある状況と言っていい。


「最終的に勇者パーティーが見学してるんじゃないかって噂になるな」


「それこそあり得んだろう」


 フランツの突拍子もない推測にハーゲンが食い気味に否定する。


(フランツ鋭すぎる……)


 だがコニーは否定できず、よぼよぼ勇者と聖女、皮肉気な剣聖と魔女、半裸のモンク、変に若者の姿をしているマックスを思い浮かべる。


「そういやエメリーヌの師匠は勇者パーティーについてなんか言ってないのか?」


「話題もなかったから会ったことがないんじゃないかしら」


「へー」


(エメリーヌの師匠、どうも魔法至上主義者で研究畑の人っぽいんだよなあ。外に出たことあるのかな?)


 コニーはお喋りが止まらないフランツが再びエメリーヌに話を振るの聞きながら、彼女の師匠について少々考える。


 ファルケに現実を見せられたが、魔法障壁があれば剣士に対して負けることはないとエメリーヌが思っていたのは彼女の師匠が原因だ。しかしクローヴィス流派を筆頭にサザキの一門が広がっている今現在、魔法障壁を破れる使い手はそれなりにいる。


 勿論そのサザキから派生した流派の主だった者は大戦という激戦を経験したことのない世代だが、豊かで平和になるにつれて人という種の母数は増える。それは才能ある人間が大成する前に危険な戦場で散らずに増えると同義であり、その大成した剣士が増えた今となっては、魔法使いが持っていた剣士に対する優位は絶対のものではなくなった。


 つまりコニーの推測では、エメリーヌの師匠は今現在の状況を知らない可能性があった。


「おいコニー。なんかさっきからずっと考え込んでないか?」


「悩める年頃なんだ」


「なんだそりゃ」


「そういうときもある」


「男の子特有の時期ってやつなのかしら?」


「はははは……」


 フランツが先程から黙っていたコニーに話を振るが、まさか勇者パーティーの話や友人の師匠が世間知らずなのではないかと口に出せるはずもない。色々言ってくる友人達に対しコニーは乾いた笑いを返すしかなかった。


「あ、そうだ。予定通りでいいんだよな?」


「うん大丈夫。ひいひいお爺ちゃんとお婆ちゃん、それにお友達が泊ってるけど」


「そうなのか。その人らは構わないって?」


「うん。それは確認してる」


 ふとフランツは思い出したようにコニーに予定の確認をした。


 そう複雑な話ではなく単に連休を利用してフランツ、ハーゲン、エメリーヌがコニーの家に遊びに行くだけの話だ。


 ただし……。


 勇者パーティーが泊っているとなれば途端に複雑な話になる。

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