花、散りゆくように【4】
とにかく今は、生きる事を考えなければならない。
少しずつ思い出して来ている情報を頭の中で整理する。
思い出せた内容は、水辺で目撃される事と、夜明けに輝く事。
そして、目撃されるのは、必ず蕾であるという事だ。
(……水辺か)
この島にはあちこちに川や湖がある。
どこかに当たりを付けて、とにかく行ってみるしかないだろう。
それに最悪の場合、アブスギブ洞窟まで行かなくてはならないかも知れない。
アブスギブ洞窟は、まだ冒険者だった頃から入ったことの無い、危険度MAXの洞窟だ。
(何日か張ってれば、何処かで見つかるはず……)
自分に残された時間は後わずかだが、焦ったところで見付かる訳ではない。
それに、アブスギブ洞窟付近というのが良かったようで、今のところ幻花を狙っている他の人物を見掛けていない。
よほど腕のたつ者か、エニスの様に追い詰められた者しか来ないだろう。
(とりあえず、さっきの湖まで引き返すか)
夜明けにしか見付からないのだから、湖の近くで見晴らしの良い場所を探し、そこで夜明けを待つしかない。
日が暮れてからでは何かと危険であり、エニスは急いで来た道を引き返した。
エニスが湖に向かって引き返している頃。
同じくアリスから話を聞いたリクィドが、アンハマ島に降り立っていた。
エニス同様、リクィドも幻花が水辺でしか目撃されない事は知っており、しらみ潰しに湖や海辺を回っていたが、特にそれらしい花は見付からない。
このままアンハマ島にある全ての湖を探す事になりそうだと、長丁場を覚悟しながら、リクィドは空を見上げた。
もう日が暮れ掛けており、そろそろ何処かの水辺で夜明けを待たなければならない時間だ。
(何にせよ、一晩で全ての湖を見る事は不可能だ。今日はとりあえず、この近くの湖に当たりをつけるか)
そう思い、ついさっき見掛けた湖に戻ろうとした時。
微かにだが、水の音が聞こえてきた。
(……水の…音?)
この先に水辺があるのだろうか。
音から察するに、ただの湖や池ではない。
湖のせせらぎや小川とは程遠い、激しく流れる水の音。
どうやら滝が近くにあるようだ。
(アブスギブ洞窟の中以外にも、滝があるのか…?)
このアンハマ島は湖が多いが、滝はアブスギブ洞窟の中にしかないはずだ。
だがいくら耳が良くても、アブスギブ洞窟の中の音が、ここまで聞こえてくるはずはない。
(……行ってみるか)
今夜はその滝に賭けてみる事に決めると、リクィドは引き寄せられる様に水の音が聞こえる方向へ歩き出した。
近付くにつれ、聞こえる水の音は激しさを増していき、思った以上の滝の音に、リクィドは眉をひそめた。
嫌な予感を感じながら滝が見える場所まで行くと、案の定、滝は一見しただけでは、全貌が分からない程の規模だった。
てっきりこの先に湖があり、そこに滝が流れ落ちているものだと思っていたが、どうやらこの先に見えているのは、滝の一部らしい。
滝が見えるというだけで、滝の近くまで行った訳でもないのに、鼓膜が破れそうな程の水音。
そして飛んでくる水飛沫は、肌に当たると痛い程だ。
それでも幻花の咲きそうな場所を探す為にさらに近づくと、目の前に崖が見え始めた。
滝が見えるのは、到底渡れそうにない断崖絶壁の遥か先である。
どれくらいの高さなのかを知ろうと、リクィドは崖の淵まで足を進めた。
だが、辺りに飛び散る水飛沫や、そのせいで起こっているらしい深い霧のせいで、視界がすこぶる悪い。
仕方なく耳を澄まし、水の落ちる音を聞くが、滝の音が激しすぎて、なかなか高さの感覚が掴めない。
かろうじて分かったのは、聞こえるのは滝の音だけで、下に流れているであろう川の音は全く聞こえない事だ。
ある程度の距離であれば、例えどんなに滝の音がうるさくても聞こえるはず。
リクィドは小さく息を吐きながら腕を組んだ。
(滝の流れる先はもっと下か)
これだけの滝の下に、まさか花が咲いてるとは考えにくい。
いくら伝説の花でも、流れ落ちる水の衝撃で粉々だろう。
だとすれば、幻花が咲いているのは、ここではない。
リクィドは腕を組んだまま、頂上の見えない滝を見上げた。
(……上か)
滝の頂上に川…、または滝に繋がっている湖など、水辺が必ずある。
特にこの滝にこだわる理由はないが、何故か滝が気になるのだ。
こんな時は、敢えて逆らわず、に直感に従う事が一番良かったりするもの。
リクィドは崖を迂回しながら、滝の頂上を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます