イケおじ冒険者は北へ行く。【4】
「──パパ?」
はっと目が覚める。
頭がぼんやりとしているが、何とか生きているようだ。
身体を起こそうとすると、私を抱える太い腕に気付く。
グサヴィエが私を抱えたまま眠っているのだ。
仕方なく横になったまま周りを見ると、どうやら雪の中にいるようで、視界は真っ白。
ただし、雪の中といっても埋まっているのではなく、
(いつのまにこんな……)
雪崩に巻き込まれた時点で意識を手放していたから、状況が全く分からない。
もぞもぞと動くと、目を覚ましたグサヴィエが身体を起こした。
「グサヴィエ…」
「お、ジーナ…大丈夫か?」
「うん、グサヴィエが抱えてくれたんだね。ありがとう、グサヴィエは大丈夫なの?」
「俺は頑丈だからな、問題ねーよ」
「なら良かった、ここは…?」
キョロキョロと見回しながら聞くと、グサヴィエは「簡易的に作ったかまくらだ」と笑ってみせる。
「けっこう暖かいだろ?」
「…うん、それよりグサヴィエ…そろそろ離れてくれない?いつまで人を抱えてるつもり?」
「あのなぁお前…、それが命の恩人に対する…」
「はいはい、感謝してますよ」
面倒くさそうなので適当に答えると、そそくさと起き上がって、かまくらの中から外に出てみる。
どれくらいの時間気を失っていたのかは分からないが、既に雪もやみ、綺麗な日差しが差し込んでいた。
太陽が雪に反射して、眩しいくらいにキラキラしている。
「今のうちに帰るか。このチャンスを逃したら、また吹雪いてくるだろうしな。それにスノーウルフも気になる」
後ろからやって来て
「ほれ、行くぞ」
「…一人で歩ける」
「そうかよ」
舌打ちしながら頭をかいたグサヴィエは、小さい頃は可愛かったのに…と呟いて、何かを思い出したように足を止めた。
「…どうしたの?」
今度は何だと顔を覗き込むと、どうやら何か考え込んでいるようだ。
「なぁジーナ、お前さ…。さっき寝言でパパって言っ…、ごはッ!!?」
全てを言い終える前に、グサヴィエの
「言うわけないでしょ!!!バカ!アホ!」
嘘だ。
本当は覚えている。
夢の中で見た。幼い頃の光景がまざまざと思い出されて、私は隣を歩くグサヴィエを盗み見た。
(大きい手……)
小さい頃から今の今まで。
いや、今この瞬間も。
私はこの手に守られている。
傷だらけで、ゴツゴツとした岩のような手だけど、愛情たっぷりの手。
グサヴィエは私といると、自分の事など二の次で、いつも私が最優先なのだ。
実は私も、そんなグサヴィエを一番信頼している。
だってどんな時も、グサヴィエが一緒にいるなら絶対に大丈夫だと思えるから。
口では冷たい事を言いながら、自分がどんなに
幼い頃にグサヴィエに言われた、お前は俺の宝物なんだ。という言葉は、私にとっても宝物なのだ。
(父親、か)
本当の父親はほとんど記憶にないけれど、父親からの愛情は確かに与えられて生きてきた。
(…絶っ対に言わないけど!!!)
すぐ隣のグサヴィエの大きい手は、少し自分の手を伸ばせば掴めそうだ。
でも手を繋ぎたいなんて、子供じゃあるまいし良い大人が言える訳がない。
私は悔し紛れに、グサヴィエの大きくて優しい手を思いっきり叩いた。
♢♢♢♢♢♢
リナウェア街へ戻り、雪の華入手の報告の為に【路地裏の黒猫亭】へ戻ると、店主のヘレナが笑顔で迎えてくれた。
「あぁ、二人ともおかえり」
「ただいま」
私はグサヴィエと一緒にカウンターに座ると、荷物を足元に置いて大きく腕を広げた。
「んー!!無事に帰って来たぁー!!」
「…大袈裟だな」
グサヴィエは苦笑しながら私を見て、ヘレナが出した麦酒をグイッと煽るように飲み干す。
「いやいや!!何度か死にかけたじゃん!」
そう言って隣のグサヴィエを睨むと、ヘレナが私にもノンアルの炭酸ドリンクを用意してくれる。
「…グサヴィエが一緒だし、大丈夫だとは思ったけど…行き先がアーケトアのゾアルスブリズ雪山でしょう?心配してたんだよ」
「ありがとヘレナさん」
「まさかジーナを連れて行くなんて、アンタも無茶するよ、まったく…」
「そう言うなよ。俺の目の届くうちに、色々な経験をさせてやりたいんだよ。いつかは俺の手から離れちまうんだから、その前に…な?ジーナ」
優しげに私を見ながら、頭を撫でてくるグサヴィエから逃げる。
(…いつまで子供扱いなのよ)
口に出さずに不貞腐れていると、グサヴィエは豪快に笑って2杯目の麦酒を飲み干した。
「年齢は関係ないぞ?いくつになっても、お前は俺の娘だ」
「…人の心を読まないでくれる!?」
まったく…、グサヴィエには何もかもお見通しだ。
私は一つ咳払いをすると、ヘレナさんに振り返った。
「お腹減った!グサヴィエのツケで、沢山食べるぞ!!」
そう宣言すると、グサヴィエは一瞬だけギョッとした顔で私を見るが、その後は諦めたように、でも嬉しそうに微笑んでいた。
♢♢♢♢♢♢
これで『北へ行く編』完結です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます♪
この後は二話ほどグサヴィエの番外編を挟んでから、新しい章へ行きます。
面白い、これからも読もうと思って下さる方がいれば
★評価とフォロー、どうぞ宜しくお願いします。泣いて喜びます。
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