第5話

「ちょっとトイレ〜」


飛車くんの声がした。

ガチャ。ドアが開いた。


「やっぱりお歩くんだ!」

「もう…お歩くんなんて…言わないでよ」

自分の声が震えている。

「それに…飛車くん…トイレだよね…」


「あ、それはウソだよ」

飛車くんが優しい声で言う。

「え?」

「さっき、部屋の前まで足音がして、それから何も物音がしなかったんだよ。それで、そういえばお歩くんが来てないなと思って出てみたら、やっぱりお歩くんだったんだよ!」


歩はびっくりした。飛車くんが、僕のことをこんなに思ってくれていると知って。それから、歩は思い切って話してみた。


「どうせ、僕は一歩ずつしか進めないし、狙われやすいし…」


すると飛車くんは真剣な顔になって言った。


「君と同じ8人の歩も、同じ状況で悩んでるって言ってたんだ。でも、僕はお歩くんが一番話しやすいんだよね。」

「で、でも…」

言いたいことはまだたくさんあった。

でも、どうしてもそれを言葉にできない。


外は曇り空になっていた。朝ののどかさが嘘のように、冷たい風がピューピュー吹いている。


「ほら、前向きになろうよ、お歩くん。

僕も、そんな時があったんだよ。1回負けたぐらいで、僕のせいだって自分を責めて、部屋を飛び出したんだ……

 でも次の日、王将が『勝ちか負けかなんて、最後まで分からない。これから、〇〇チームが勝つ試合を始めます。って分かっちゃったら、対戦する意味がなくなってしまうだろう。』って言葉に元気づけられたんだ。」


歩は、ずっと静かに聞いていた。飛車くんの目が、緊張していた。

お歩くん、ちょっとは僕の気持ち、伝わったかな……元気になってくれたかな……


すると、歩は口を開いた。


「うん、僕もやってみるよ!今の言葉で励まされたよ。ありがとう、飛車くん!!」


飛車くんの目が、いつものような優しい目に変わった。

「その調子だよ、お歩くん!」


そして歩は、部屋に入り、みんなに謝った。そしたら、思ったより優しく受け止めてくれた。

そこで、王将は言った。


「よし、あと3か月後は、チーム合同チキュウ行き代表チーム決定戦だぞ!!気合い入れていくぞ!!」


「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


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