第6話 行ってみようよ

 アルバとトレンタは、駅から目抜通りを少し歩き、ターゲットの経営する店のすぐ近くまで来た。


 駅から程近い場所にある活気に溢れた商店街の一角に、件の店はあった。店に並べられた品々はバラエティに富んでおり、台所用品から掃除道具、食料品、酒類、書籍に至るまで、統一感の無い品揃えが、どこか時代に取り残された古きよき商店の名残を守っている。


 何屋と表現すべきかわからない不可思議でどこか愉快なその店を、二人は向かいにあるカフェの窓際の席に座り、観察した。


 店は意外と繁盛しているようで、観察を始めてから十数分と経っていない間に、十人かそれ以上の客が店の扉をくぐっていた。


 ガラス張りになっている店舗は離れた場所からでも中の様子がよく見える。客が入ってくる度、レジに置かれた椅子に腰かけていたクラウディオが立ち上がり、柔和な笑顔で客を出迎えていた。


「可哀想にね。息子が偉くなりすぎたせいで、自分が命狙われるなんて」


 トレンタはソーダ水のグラスを口元に寄せながら、どこか退屈そうにそんなことを言った。だがアルバの注意は、トレンタの言葉にもクラウディオの愛想の良さにも向けられていなかった。


「店の奥にもう一人男がいる。品出しをしてるみたいだ。この店はクラウディオ一人で切り盛りしてるんじゃないのか」


 独り言のようにそうつぶやくアルバに、トレンタは呆れたように眉を上げながら言った。


「バイトくらい雇うでしょ。おじいちゃんなんだし」


 そう言うとまたひとくちソーダ水を飲んだ。


「そっちも飲んだら?炭酸抜けちゃうよ」


 トレンタのそんな言葉が届いているのかいないのか、アルバは依然として店から目を離さず、クラウディオと、もう一人の男を観察し尽くそうとしていた 


 トレンタの言う通り クラウディオは高齢だ。若いアルバイトの一人くらい雇っていてもおかしくはない。


 だが、と、アルバはさっきから自分の内側で囁く心の声が妙に耳についた。


(あのアルバイト、さっきから何かにつけてクラウディオの方に目を向けている。おかげで作業がまるで進んでない。働いているというより、クラウディオを監視しているみたいだ。考えすぎか?)


 眉間に皺を寄せながら、アルバは自分自身に問いかけるように考え続けた。


 "キン!"


 不意に響いた冷たく鋭い音が、アルバの意識をカフェのテーブルに戻した。我に返ったアルバを、トレンタが呆れたような顔で見ていた。トレンタはグラスの縁を指でキンキンと弾きながら、口を開いた。


「気になるなら、店に行ってみようよ。こんな変装までしてるんだから、活かさないと。あの店、さっきから高校生も出入りしてるんだから、怪しまれないって」


 どこかうんざりした様子でそう言うトレンタに促されるまま、アルバはカフェを出て、クラウディオの店へ向かった。

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