第5話 リサーチ

 アルバ達のターゲットが店を構えるのは、マリオットの中心駅から電車で三十分ほどの郊外の町だ。町の名はレンテという。


 マリオットの中心から通勤圏内にあるためか、昔からファミリー層が多く住む地域だった。それもあって住民同士の距離も近く、旧きよき共同体の絆を残すベッドタウンとして知られていた。


 最近では、あまり開発の進んでいなかった駅の南側にも新たな宅地が造成され始めており、北側のオールドタウンが興り始めた頃の賑わいが再現されることに、住民達からも大きな期待が寄せられている、そんな町だった。


 ベルッツィの父親、クラウディオの店は駅の北側に町が出来始めた頃から有るらしく、彼も町の顔役のような存在としてレンテの住人の尊敬を集めていた。


 だからこそ、その息子が父親の後を継ぐことなく町を出ていってしまったことは、住人達にとっても残念な事だった。


 ただ、今のベルッツィの活躍を見れば、父親とその店、そしてこの町を捨てたことを恨みに思う住人は一人も居なかった。むしろ、彼はこの町の誇りといってもいい。ベルッツィはそれだけ大きな存在になっていたのだ。


 もちろん、その大きさこそが、カプランに目を付けられる一番の理由になってしまっているわけなのだが。


「よく調べたね、いつの間にそこまで…」


 アルバの一通りの説明を聞き終えたトレンタは、呆れたようにため息をつきながら、そう言った。


「この町の人間は気性が穏やかなお人好しばかりだ。越してきたばかりで町に不案内な学生を演じてやれば、すぐに信じる。それにやたらと話好きだ。お陰で話題をふれば大概の事は楽しそうに話してくれる」


 駅前のロータリーから、賑やかな北側の町の目抜き通りを見ながら、アルバは言った。


「なんだ、もう下見に来てたんじゃん。わざわざもう一回来る意味あった?」


 ロータリーのベンチにだらりと腰をおろしたトレンタが、アルバの神経質そうな横顔にそんな言葉を投げた。


「俺達は二人一組のチームで仕事をするんだ。単なる伝聞だけの情報共有じゃ不十分だし、現場に来てみないとわからない事もある。いざというときに足を引っ張られたくはないからな」


 アルバは感情の揺らぎのない淡々とした口調で、トレンタにそう説明した。


「そっか、まぁ何でもいいや。でもそこまで考えてるってことはさぁ、この格好も意味が有ってのことなの?」

 

 トレンタは上等そうな深緑色のブレザーをひらひらと動かしながら、アルバに尋ねた。アルバは表情を崩すこと無くトレンタの方を一瞥すると、口を開いた。


「この制服はレンテから都心部方面に向かって三駅先にあるハイスクールの制服だ。ビタロスでも指折りの大規模校でレンテから通う生徒も多い。だから大勢の前に姿を晒しても、高校の生徒だとしか認識されない。俺達くらいの年齢の人間が昼間から町に紛れるには、この格好が一番良いんだ」


 そう言うと、アルバはもう行くぞと言い、ロータリーから目抜通りに向かって歩き始めた。


「石橋を叩きすぎてない?」


 ぽつりとそんなことを呟きながら、トレンタもその後を追った。

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