第3話 最初の共闘
アルバとトレンタが上から仰せつかったのは、マリオットの郊外で小売業を営む老人の始末だった。齢80に届こうかという年老いた商店の主を、わざわざカプランが殺害のターゲットに選んだ理由は、老人の息子にあった。
その老人の息子は、ビタロスでも一、二を争う小売業界の雄、マルタの重役を勤める男で、名をベルッツィと言った。
一口に小売と言っても、マルタの扱う範囲は食料品から服飾関係まで幅広く、かなりの分野でカプランの小売部門と競合関係にあった。
そしてマルタの発展はベルッツィの手腕に依るところが大きく、社内では一取締役に過ぎない立場に有りながら、実質的な経営の舵取りは彼に委ねられていると言っても、決して過言ではなかった。
そんなベルッツィに、カプランはこれまでも度々揺さぶりをかけていた。カプランの小売部門のトップに据える事をエサに、彼を引き抜こうと試みたこともあった。
だが、小都市の小商いの倅から身を興しただけあって、ベルッツィはそんなカプランの誘いに容易にはなびかなかった。
そもそもマルタという会社からして、故郷を捨ててゼロから仲間達とともにベルッツィが興したもので、彼のマルタへの愛と忠誠心は筋金入りだった。
エサをまくやり方が通用しないと踏んだカプランが次に選んだやり方が、彼のプライベートを徹底して調べあげ、その弱みを突く事だった。
家族関係、友人関係、愛人の有無に至るまで徹底して調べあげ、既に別れた妻と一人娘、三人の愛人には別の殺し屋達を張り付かせていた。
そしてベルッツィの父親には、アルバ達を充てたのだ。ターゲットの重要度を考えると、駆け出しの若い殺し屋二人に任せていい仕事なのかと、アルバは疑問に思わなくもなかった。
だが、ベルッツィは父親の店を継がずに家を飛び出したと聞いているから、そもそも二人の折り合いは良くないのかもしれない。
ターゲットの重要度で言えば、娘や元妻、愛人達の方が高い。上はそう判断したのだろう。始末してベルッツィに何かダメージを与えられたなら、それでよし。多少の警告にはなるだろう。
もしそうでなかったとしても、若い連中にとってはいい経験になる。それくらいの考えだったのかもしれない。ベルッツィの父親は、若い殺し屋の踏み台、あるいはサンドバッグに使われるようだ。
上の思惑がどうあれ、自分達に出来るのは命令に従うことだけだ。アルバもトレンタも、その気持ちは一致していた。
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