第2話 思い出すことなど
アルバとトレンタが最初に接点を持ったのは、ある仕事だった。
その頃、アルバはズィオから初めて任された単独での暗殺の仕事を、様々に問題をはらみながら一応やり遂げたばかりだった。
ズィオもその成果を讃えて、この時から彼のことをツェーとは呼ばなくなり、代わりにアルバの名前を与えてくれた。一人前とまでは言わないまでも、0.8人前くらいには認めてくれたのだろう。
そんなアルバに、今度は同年代の若い殺し屋とバディを組んで仕事を遂行するミッションが課された。その任務の相棒としてあてがわれたのが、トレンタだった。
初めてトレンタと顔を合わせたアルバは、相手の纏う殺し屋らしからぬ柔らかな雰囲気に柄にもなく困惑した。
トレンタは、アルバがカプランに入ってこのかた、出くわしたことの無い異質なタイプの人間だった。
単に殺し屋らしくないと言う以前に、悪党らしい気配を毛ほども感じない同年代の少年が、何故か少し照れたような顔でアルバの前にいた。
「よろしく」
緩やかな笑顔とともにトレンタが差し出した手を、アルバは隙のない動作で握り返した。どういうわけか嬉しそうな顔で握手するトレンタのことが、アルバはこの上なく不気味に思えた。
自分やズィオ、そして他の殺し屋達に感じる、何か人として大切なものをすり減らしながら、段々と自分を鋭くさせていくような、そんな空気感がこの少年からは感じられないのだ。
付き合い辛い相手になりそうだと思いながら、アルバはどこか丸みを帯びた雰囲気のトレンタを握った手の先に見据えた。
「もう君のところにも届いてる?」
トレンタは親しげな声でそう問い掛けつつ、自分の携帯電話の画面を見せた。そこに映し出されていたのは、組織からの指示が簡潔に記されたメールの画面だった。
アルバは黙って自分の携帯電話を見せ、既に自分にも同じ指示が届いている事を示した。
「良かった。情報は共有出来てるね」
トレンタはそう言ってニコリと笑った。人を殺す指示を受けているのにそんな笑みを見せられる根性は、優れた殺し屋の資質と言えるのかも知れないが、それを差し引いても苦手な部類の人間だ。そう、アルバは思った。
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