第40話 理由を教えて

「なんなんだこりゃ、寝ぼけてたか?それとも酔ってたか?」

 肩をすくめながらズィオが軽口を叩くようにそんなことを言った。素人仕事にしか見えない無惨な殺し方に、反射的にそんな冗談が飛び出してしまったのだろう。

 だが、今のロンディーネにそんな冗談に付き合っている余裕はなかった。

「悪いけど、余計な話は無しで。すぐにこれを回収してもらえない?」

 医者の亡骸を顎で示しながら、ロンディーネは自分でも余裕のない事を自覚しつつズィオにそう言った。

「ゴミの回収みたいに言うなよ」

「ゴミよ」

 間髪入れずそう答えたロンディーネに、ズィオもただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「事情は色々あるんだろうが、お前さんに言い寄ってきた奴がいつの間にか居なくなるなんて、これがはじめてじゃねぇからな。まぁ、上手くやるさ」

「ありがとう…」

 ズィオにお礼の言葉を言いつつ、ロンディーネは店の方に幾度も視線を向けた。

「店開ける準備はまだ済んで無いのか?こっちは何とかするから、戻んな」

 医者の亡骸をまじまじと見つめていたズィオは、ちらりと視線をロンディーネの方へ向け、そう言った。

「ごめんなさい、そうさせてもらうわ」

 そう言うや、ロンディーネは裏口のドアに手を掛けた。確かに店を開ける準備もしなければならないが、今はそれよりも先にやることがある。

 そんなロンディーネのただならぬ様子を、恐らくズィオは気付いているだろうが、不審に思っても敢えてなにも言わずにいてくれた。ロンディーネはそんな昔馴染みに感謝しながら、店の中へ戻った。

 ロンディーネが店に入るや、厨房スペースの奥の椅子に項垂れるような格好で座るトレンタの姿が目に入った。

 彼はロンディーネの姿を認めるや、驚きと悲しみの入り交じった視線を一瞬だけこちらへ向けたが、すぐにまた視線を床に落とした。

 ロンディーネはさっきの興奮した自分がまた心の底の辺りから競り上がって来るような感覚を覚えたが、それをグッと抑え込んで、努めて冷静さを保ちながらトレンタの隣に別の椅子を置き、寄り添うように腰かけた。

「さっきはごめんなさいね。もっと落ち着いて話を聞くべきだったわ」

 トレンタの肩にそっと手を置くと、ロンディーネは出来るだけ柔らかな口調でそう言った。

 トレンタの堅かった表情が少しだけ柔らかくなり、蒼かった肌にも少しだけ赤みが戻ってきたのを見て取ったロンディーネは、今なら大丈夫だろうと、トレンタに尋ねた。

「理由《わけ》を教えてくれない?何を思って、あいつを刺したの?」

 怒ってはいない。それを分かってもらえるように、出来る限り優しく、ゆっくりとロンディーネは言った。

 それが伝わったのか、トレンタはゆっくりと口を開いた。

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