第12話 第一撃
オルブライトの自宅はベルフォートでも有数の高級住宅街の中にあった。
クラシカルなレンガ造りの家々が多い中で、立方体を並べたような、ガラス張りの大きな窓が目立つコンテンポラリーな邸宅は、居並ぶ豪邸の中でもひときわ威容を誇っていた。
オルブライトはこの贅沢な自宅の他に、ブリタニカと新大陸に同規模の邸宅をあと四軒ほど所有しているそうだ。
アルバは少し離れた人目につかない場所から、家の様子を観察した。
家の大きな窓には全てカーテンが掛けられていて、ひと目見ただけでは中の様子はわからない。ただ、人の気配は感じられなかった。
サーモグラフィー機能のついたゴーグルで改めて家を探ったが、やはり熱を持った存在が移動している様子は見受けられなかった。
(家には誰もいないな。出掛けたのか?)
玄関へ上がる石段のとなりに車庫があるが、ガレージがしまっていて車の有無は確認できない。
アルバはスマートフォンを手に取ると、ダニーへ連絡を入れた。
『どうした、ダニーボーイはいたか?』
電話に出るなり、ダニーはアルバにそう尋ねてきた。
「俺がオルブライトの自宅近くにいるとよくわかったな」
突き刺すような口調でそう返したアルバに、ダニーは『そろそろ着いた頃合いだと思っただけだよ』と、少し不服そうに言った。
「まぁ良い。だが残念ながら、オルブライトは不在のようだ。今日は仕事もなく、終日家にいる予定じゃなかったのか?」
『なんだって?・・・』
アルバのやや問い詰めるような口調に、ダニーはしばらく沈黙したあと、再び口を開いた。
『車はあるのか?少し出掛けてるだけかもしれん。休みだからって、一日中家の中で過ごすとは限らないからな』
どこか考え込むような口調でダニーはそう言った。
「車があるかどうかは確認出来なかった。短時間だけ出掛けているのであれば、もう少し待っておく。可能であれば、そっちもオルブライトに今どこにいるのかを確認してくれ」
『頻繁に予定や動静を確認すると、怪しまれる可能性も高まるが・・・、まぁ仕方ない。とりあえず聞いてみよう』
ダニーはその言葉を残し、通話を切った。今は向こうからの折返しの連絡を待つより他ない。
そう思い直して、アルバはもうしばらくオルブライト邸の前で張ることにした。すると程なく、アルバのスマートフォンが震えた。
見れば、ダニーからの連絡だった。行動が早いなと思いつつ、アルバは通話ボタンをスライドした。
『待たせたな。ちょっと☓☓ってSNSを見てみろよ』
開口一番、ダニーはどこかうんざりしたような声でそう言った。
「そのSNSはやっていない。何を見つけたのか簡潔に教えてくれ」
乾いた声でアルバは言った。ダニーは電話の向こうで面倒くさそうにため息を付きながらも、話し始めた。
『ハルっていう海辺のリゾートにドライブに行ってるそうだ。さっきSNSで、そこにあるカフェのランチの写真を上げてたよ。あいつはこういうことをマメにする奴なんだ』
残念ながら、しばらく帰ってきそうにないなと、ダニーは言った。肩をすくめる様がアルバの頭に浮かんだ。
『現物を見たけりゃ、アカウント作るなり、オルブライトの名前を検索するなりしたらいい。で、どうするよ、時間かかりそうだが、帰るまで待つかい?言い訳するようで悪いが、こんな感じで、一日の予定の細かな所までは俺にはわからねぇよ』
「いや、今日のところは自宅や周辺を観察できただけで良しとする。焦って実行に移して、仕留め損ねては最悪だ。ハルという場所にも不案内だから、そこまで追いかけるのも得策じゃない。それと、あんたの情報も十分役に立っている。今日のような不測の事態が発生した場合はこちらで対処するから、引き続きわかる限りの情報を提供してくれ」
『そうか、まぁ協力するのはやぶさかじゃない。役に立ってるんならいいさ』
それじゃあなと、ダニーは電話を切った。アルバは通話が切れたことを確認すると、SNSの投稿を確認した。
ダニエル・オルブライトの名前を検索すると、彼の経営する会社のwebサイトが検索項目のトップに上がってきた。そして二番目に☓☓のアカウントが記載されていた。
確かに四十分ほど前、ハルにあるカフェでランチをしたという投稿が上がっている。
イカとムール貝のパスタランチの写真、そして海をバックにした極彩色のドリンクの写真が、これ見よがしにオルブライトがハルに居たことを証明していた。
家をもう少し近くで見てみたいが、ここは金持ちだらけの高級住宅街だ。きっとどこかの家の防犯カメラに姿が映ってしまうに違いない。
アルバはしばらくターゲットの自宅を眺めたあと、その場を後にした。
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