駄文製造機アメン君は他称ギャル先輩に恋をする!

溶くアメンドウ

第1話 駄文製造機アメン君。

 今日も今日とて、彼は奇妙だった。勿論アメン君の事だよ! あ、私はM崎。そんなアメン君を観察するのが趣味な高校2年生だったりもする。


「おはよーアメン君!」

「…」


 当然彼から返事なんてかえってこない。


「今日は武者小路実篤ですか…白樺派だと私は志賀直哉の方が好きだな〜」

「!」

「どしたの急に立ち止まって?」


 アメン君は時代錯誤な学帽を僅かに持ち上げて、そして戻した。戻した右手はそのままページをめくった。


「いたなら挨拶くらいしろ、M崎」

「挨拶したんだよ〜? おはよう、アメン君」

「ああ、おはよ…」

「おうおう! 初々しいですなぁ〜君の心は」


 ウチの学園のちょいとした有名人、通称ギャル先輩が柑橘系な香りを引き連れて登校されていたタイミングだった。アメン君は顔ごと視線を左に逸らした。

 私や周りのモブども、噂のギャル先輩にカワサキのいかちいNINJA650に跨ったサトセンも皆、アメン君の方を見た。


(わっかりやす…)


 誰の目にも明らかであった。アメン君の恋心は米津玄師の歌詞くらいアグレッシブだったのだ。むしろアメン君で一曲作れるかもしれない。


「…ベアトリーチェは?」

「もう校舎の中だよ、ダンテ君」

「…ふぅ」

「やれやれだぜ〜」


 アメン君は鼓動の音が聞こえて来そうな心臓を抑えつけるように、胸を撫で下ろした。彼は何故かギャル先輩をベアトリーチェと呼ぶのだ。私は勝手ながら不吉すぎる渾名であると彼に再三言っている。そんな一悶着を終え、アメン君と私の牛歩はようやく校門を越えた。


「てかアメン君、今日チャリは?」

「…あ」

「はいはい、いつものパチ屋前のロウソンね」

「あああああぁ…詰んだ」

「いやさ、普通にバスで帰ればいいじゃん?」

「…」


 いつもどおりダっっっサいママチャリを徒歩30分のロウソンに忘れてきたアメン君は無言で私を睨む。いや〜ん、金縛りになっちゃうー☆


「嘘嘘、ごめんてww」

「…」

「でもギャル先輩ってバスで帰るよね」

「…」


 彼は学帽を目深に被り直した。これはアメン君特有の『肯定的ジェスチャー』なのである。


「バスで帰るんだー、流石のポーカーフェイスだね〜☆」

「…お前の言っている日本語は不可解だ」


 などと最も匠に不可解な日本語を繰り出す男が申しております、同志読者ーリン。


「ポーカーフェイスは英語じゃない? より正確には和製英語か」

「貴様が死んだら俺が司法解剖して、頭の中を覗いてやろう」

「アメン君、私の為だけに解剖医になってくれるのー? やーん、い・ち・ず♡」


 予鈴が冷たく、私とアメン君を引き裂いた。我々はアメン君がD組、私がB組で別々なんだよねー。


「んじゃね〜駄文製造機」

「人をパスタマシンみたく呼ぶんじゃない」

「んじゃね〜駄文製造機パスタマシン

「——愉快な奴だよ、M崎貴様は」


 最後に見たアメン君の姿は、何故か校庭の年中日陰になってるベンチで『真理先生』を読み耽る、一限がまもなく始まる男子校生のそれでは無かった。

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