第31話

 悪魔は恐怖の対象。

 私はフレズベルグ王国に伝わる降魔術と呼ばれる、悪魔を召喚する術を調べていた。

 人間が悪魔を呼ぶ際に必要なものは十分な魔力と場所と時間帯。満月の夜に魔力が充満している場所で大勢の人数で儀式を行うと悪魔が降臨するらしい。


 呼び出される悪魔はランダム。

 強い悪魔を呼び出して、自分たちでは手が付けられなくなることや、呼び出したはいいものの弱くて使い物にならない悪魔もいるようだ。


「最近、王国内で悪魔騒ぎが乱発しているんだ。決まって老婆を見かけたという証言があってな……」

「悪魔騒ぎか……。満月でもないのに召喚できているのか?」

「それが謎なのだ。貴族から悪魔を召喚した騒ぎをたくさん聞くのだ。騎士を派遣して悪魔を討伐しているが……。最近、その件数が多い。悪魔については私よりルシファーのほうが詳しいだろう。ぜひ調べてくれないか」

「あぁ……。だが、手掛かりが老婆だけか。難しいぞ。老婆がどこにいるのかすらわからないのなら探しようもない。魔力も知らないから辿ることもできんしな」


 フレズベルグ内で起きている悪魔騒動。

 悪魔を召喚して手に負えていない村が多いようだった。


 償還方法も理解した、が、満月なんてまだ先だよな。

 ついこの間が新月だったばかりだし……。1か月くらいはかかるはずだから満月なんてまだ先。

 それに、悪魔騒動が満月の日に起きたというわけでもないらしい。

 

「ベルゼブブ。お前そういやどうやって召喚されたのだ?」

「私ですか? 私は……気が付いたら男に飲まれていたので乗っ取ったのですが」

「気が付いたら、か」


 ベルゼブブは寄生型の悪魔。

 寄生する前は単なる液体らしい。その液体を誰か氏らに飲んでもらえて初めて体を乗っ取れるのだとか。

 

「アスモデウス。お前は召喚されたところに老婆はいなかったか?」

「いなかったわぁ。全員むさくるしいおっさんだったもの」

「そうか……。レヴィアタンは魔界に帰っていないから召喚するもくそもなし、マモンも同様……。サタンは?」

「俺は……召喚されてきたんだよ。ついこの前な。俺を呼んだやつは俺の魔力に耐え切れず自戒したがな」

「その時に老婆は?」

「いねえよ」

「ベルフェゴールはどうだ?」

「僕はぁ、昔召喚されてから帰るのが面倒で帰ってないぃ」

「なら見てるわけもないか……」

「んにゃぁ、見てるよぉ。ベルゼブブが体を乗っ取ってるのを見てたもんねぇ」


 ベルフェゴールは重要なことを言っていた。


「なんだと?」

「老婆がねぇ、その乗っ取った男にベルゼブブを渡して飲ませてたんだぁ。でも魔力とかなかったし、顔も隠れてたからよくわかんないけど老婆っぽかったよぉ」

「……あまり手掛かりにはならないな」

「いや、ルシファー。お言葉だが、ヒントはあっただろう。魔力がないということだ」

「そうだな」

「魔力がないということは……そういうたぐいの人間か、魔力を隠すのがうまい人間かだ。だが、後者はないだろう。悪魔ほど魔力に敏感なのはいない。もともとあるものを0に見せかけるのは不可能だ」

「だとすると前者だな。だが、老婆の目撃情報はあっても詳しい情報がないというのは妙に気になるが」


 逃げるのが相当うまいのか……。

 その老婆はいったい何を企んでいるんだろう。悪魔を召喚させて……。なにをしたがってるんだろうか。

 私は頭を悩ませていると。


「よーう! マモンと、ルシファー、アスモにベルフェにサタン、それと国王! 何話しているんだぜー?」

「……お前にゃ関係ねえことだろ」

「俺は仲間外れかーい? ノってないぜテメエら! 俺のクールなビートを、聞け!」

「今はお前の曲を聴いている時じゃ……」

「ふむふむ、謎の老婆か」


 と、国王が見せてきた紙をのぞき込むレヴィアタン。


「俺知ってるぜ。その老婆の名前はアンヌってやつだな」


 と、レヴィアタンはなにか知ってるような素振りだった。

 というか、お前知ってんの?


「知ってるのか?」

「おう! 悪魔教だかってやつに俺崇拝されててよォ。この世界を悪魔のものにするとか何とか言ってんだぜ。笑っちまうだろ。だが、最高にロックだ!」

「……なるほど。目的はそれか」

「お前な……」

「なに? 放置してたらまずかった感じか? そいつぁ失敬! 俺は討伐するより音楽を奏でることが重要だったもんでよォ! その教団は俺に演奏の機会をくれたから感謝してんだぜェ! アンヌは魔力を持たず生まれた奴だが、長年俺の世話をしてくれたんだ。特徴もアンヌと同じようだし、アンヌに間違いなさそうだ!」


 身近にいた解決する手段。

 というか、知ってるんならもっと早く言えばよかった。


「んで、どうすんだよ。俺としては人間がどうなろうが知ったことじゃねえが、倒すってんなら戦ってやるぜ?」

「国王殿。貴殿は討伐したいという意見ではあるだろうが、我々にその役目を押し付けるつもりではないだろうな?」

「そういうつもりはない……。が、悪魔召喚だけは直ちにやめさせないとだめだ。それだけは頼めないか?」

「私はいいが、それだと対症療法にすぎんぞ。元を絶たねばまたどこかで悪魔が召喚される」

「悪魔の恐ろしさを体験させてあげたらどーお?」


 ベルフェゴールはそう提案出してきた。


「俺たち悪魔を軽々しく召喚するとはいい度胸だ。いつから俺ら悪魔は人間に使役されるものだと思っているのか。傲慢も甚だしい」

「まぁ……。我々が悪役と思われるのが困るが、人間ごときに見下されるのも癪ではあるな。ルシファー様。フレズベルグ王国国王殿。その悪魔教とやらを叩き潰してきます」

「……ま、なるべく人死には出さない方向で」

「わかりました」


 ベルフェゴール、ベルゼブブ、サタンは翼を広げて、アスモデウスを案内役として連れて行った。

 残されたマモンと私とアスモデウス。


「やぁねぇ。あいつらは血気盛んで嫌だわぁ」

「……サタンやベルゼブブ殿はともかく、怠惰そうなベルフェゴール殿も好戦的なのか?」

「そうだな。あいつはああ見えて面倒ごとは真っ先に処理するタイプだ。悪魔教を面倒ごとだと理解したのだろう」

「マモンは行かなくていいのか? お前も戦うのは好きだろう」

「昔の話です。今は机に向き合っているほうが好きですので」

「私もあまり戦いたくはないわねぇ~。疲労は美容の天敵」


 マモンはすっかり牙が抜け落ちて、アスモデウスはあまり戦いたくないタイプか。

 悪魔にもこういうタイプいるよな。


「それに、私は召喚されるの肯定派だもの。サキュバスにとって人間は餌だし」

「ああ、お前はそうだったな」


 そうか。サキュバスであるアスモデウスにとって悪魔教は邪魔ではないのか。自分を召喚してくれたからこの世界で人間の精気を吸うことができるしな。


「金さえ循環させてくれたら私はどうだっていい……。それに、荒事は専門外なので」

「とかいって必要な時は戦う癖に~」

「必要最低限は戦います」


 マモンとアスモデウス仲がいいな……。









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