第30話
推しのご尊顔は今日も尊い。
「勇者も住む町になったな」
「…………あぁ」
「祭りか……。お前の生誕祭だな。日々世話になっている。おめでとう」
「……感謝する」
推しに祝ってもらえた……。今日死んでもいい……。
私はみんなの前で顔を崩さないように顔に力を込める。
「お前も、認められつつある。人間社会に適応するってのは難しかっただろ」
「まぁ、な……」
「いろいろ勝手が違うからな……。だが、お前が俺に好意を向けるように、異種族の間でも好意を向ける相手が出来るのもいいことではあるな」
「…………そう、だな」
「お前のようなラスボスが俺を好きでいてくれて、サキュバスがうちの騎士にガチ恋して……。お互い、分かち合うことが大事だったんだな。差別のない世界か……。ルシファー、俺もそれ手伝うよ」
「……いいのか?」
「ああ。差別なんてのはあってはならないからな。差別や偏見は無くならないが、少なくすることはできる。お前がそれを望むなら俺は騎士として、人間として手伝いたい」
推しは真面目にそう語っていた。
人間として……か。
「あぁ。頼んだぞ」
「……あぁ! なら、最初に私の父の領地の人間を連れてきてもよいだろうか。少し遠いが、ルシファーのことを父が話していてな。領民も興味津々なのだ」
「助かる。この町にはもっと賑わいが欲しいからな。種族の垣根を越えて、皆が楽しめるような……」
推しは今日も真面目で尊い。
推しはじゃあなと手を振り去っていく。名残惜しいその背中。引き留めようかとも思ったが、騎士は忙しいからな……。引き留めてはダメだろう。
「ルシファー」
「どうした? マモン」
「よからぬ客が近くにいるようだ」
「よからぬ客か。どんなのだ?」
「エルフを襲いかかった人間がおりました」
「わかった。捕らえたか?」
「ベルフェゴールが捕らえました」
「わかった。今行こう」
私は現地に赴いた。
ベルフェゴールにのしかかられている男は暴れて、暴言を吐いている。
「エルフごときが人間様の言うことを拒否すんじゃねえよ!」
「エルフごときか」
「獣人も! テメェらは人間様の奴隷だろうが! なに一丁前に楯突いてんだゴラァ!」
怒鳴られて嫌そうにしている獣人とエルフたち。
ベルフェゴールは私に気付き、上から退いた。私は男の首根っこを掴む。
「がっ……」
「私の町の住人にそんなこというとはいい度胸してるじゃないか。不満ならこのルシファーが聞いてやろう。その身なり……金回りは良さそうだな。貴族か……? いや、貴族はこんな暴言をこんな往来で吐くわけがないな」
男の首根っこを持ち掴み上げる。
男は苦しそうに喉元を押さえていた。
「ルシファー、殺すな!」
勇者が止めに入ってくる。
「わかっている。ここで殺しては本末転倒だ。殺しはしない。が……」
私は手に力を込める。
「ムカつくのは事実だな」
「ぐ……がっ……!」
「ルシファー、やめろ! それ以上やると首の骨がへし折れて死んじまうぞ! 今までの信頼を壊すつもりか!」
「チッ……」
私は男を投げ捨てる。
男はぜーはーと苦しそうに呼吸していた。
「貴様のような輩はこの町にはいらん。2度とくるな」
「く、来るつもりもねえよ……。ひでぇ町だって言いふらしてやる……」
「そうか……。おい、ベルフェゴール」
「うーん。ちょっとごめんねぇ」
ベルフェゴールは男の頭に触れる。
「君はよくない噂を流そうとしてるけどダメだよぉ〜。僕の儲け無くなっちゃうしねぇ。だから、悪魔の呪いをかけてあげる。悪魔の呪いは絶対だよ。強力なのをかけて並みの聖職者じゃ解けない呪いにしてあげるぅ」
「やめ、やめろ……!」
「んー、制約はぁ、この町の悪い噂を流すの禁止でぇ、破った際に起きる罰は……死?」
「それはダメだ」
「んー、そっかぁ。じゃあ、破ったら骨が一本ずつ粉々になるだね。えーい!」
悪魔の呪いが男に降りかかった。
「悪魔の呪いってそんなに恐ろしいのか?」
「破ったら罰が降る。ベルフェゴールが決めたのは破ったら骨が粉々になるんだ。悪魔の呪いは絶対だからあいつは悪い噂を流せなくなった」
「えげつねえ……。悪魔怖えな」
「でも悪魔の呪いも活用する方法あるぞ」
「どんなだ?」
「ダイエットする時とかに使うと必死になるから痩せれるぞ」
「あー……」
勇者は納得の顔をしていた。
「罰はどの程度自由なんだ?」
「そうだな……。死だったり、次の日一日、死ぬことはないが小さな不幸が連続で訪れるというようなしょぼい効果までさまざまだな」
「うわぁ……」
「ベルフェゴールも大罪の悪魔だ。あれが本気でかけた呪いだから王国の聖職者にも解けんぞ。解きたいのならベルフェゴールをかけられた本人が討伐するか、ベルフェゴールに解いてもらうかだな」
「アレをかけられないよう俺も気をつけます」
ベルフェゴールが見せた悪魔の本質。
それは周りに恐怖を刻むには充分だった。
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