第29話

 堕天使ルシファー生誕祭。

 字面だけ見れば邪教徒が崇めてるような感じだが、この祭りの主催はエルフ。エルフの少女たちが私の翼を模した作り物を背中に引っ提げて、わいわいはしゃぎまわっている。

 獣人とエルフと悪魔。三つの種族の集合体であるこの町に祭りが一つ出来上がった。


「…………」

「あ、ルシファー様。いかがいたしましたか?」

「その、なんだ。りんご飴を一つ」

「かしこまり! あ、代金は結構ですぜ! ルシファー様の生誕祭なんだから全部無料だい!」

「そういうわけには……」

「いいんですぜ。ルシファー様は我々の恩人なのですから。エルフも魔王軍に襲われたと聞いてやす。魔王軍が襲撃してこないのはルシファー様の加護があるが故でしょう」


 まぁ……それはたしかに。

 私がいるということで、この町は魔王軍にとっては襲撃しづらい場所になっている。魔王領がある隣の大陸に一番近いのもこのフレズベルグ王国だし、私が存在して守護していることが防衛の要みたいになってるよな。


「日々ルシファー様の恩恵にあずかってんだ! このときくらいは恩返しさせてくれやい」

「わかった。ありがたくいただこう」


 私は豚の獣人からりんご飴を受け取った。

 甘くておいしいりんご飴だ……とかじりながら歩いていると。


「お、いたいたルシファー殿」

「勇者?」


 勇者ギリックがパーティメンバーと一緒に祭りを楽しんでいた。


「何してるんだ?」

「いや、俺らルシファー討伐を掲げてきて、ルシファーが危険な存在ではないとホワイト国国王も認知してよ。勇者の任を解かれて若くして隠居生活なんで暇なんでな。ルシファーの町にも興味あったし移住出来たらしてみたいなと思いながら来たら祭りみたいなことしてるからよ、楽しんでるんだ」

「移住?」

「ああ。ここは危険な魔物もいないし、エルフが作る野菜がおいしいだろ? どうせなら食べ物がうまい場所に住みたいじゃん」

「それはわかるな」


 食べ物がおいしいところはいいところなんだけど。


「ここに住んだら新鮮な肉が食えないぞ」

「え、なんで?」

「私の魔力が魔物を含め動物を追い払うからな」

「あー、それって抑えられない感じ?」

「すでにこの森に充満しているからな。この魔力をなくすのは私がいなくなって数百年は必要になるだろう」

「うげ、すっごい年月」


 私の力ってすごいんです。


「うーん。でも、エルフと暮らしてみたいし……」

「それが本音か」

「それもあるんだよ。だって違う種族の人の生活は気になるだろ? それに、どの国もエルフについてはよく知らん。知らんってことは差別だってする可能性もあるだろ。差別は無知から生まれるもんだからな……」

「そうか……。たしかにそうかもな。お互いを知らないからこそ、差別が生まれるか……」

「俺としてはエルフすごい! 人間すごい!っていう風に見られたほうがいいんだがよ、この世界じゃそうもいかねえだろ? 人間至上主義ってやつらもいるし、現に獣人は迫害にあってんだ。この町だから安全ってことになるだろ。俺はそれが嫌だ」


 勇者は性格まで勇者だ。


「俺らが暮らしてみて、エルフたちはこんな素晴らしい生活をしてるんだって広めて、エルフを認知させるんだ。俺は差別が一番嫌いだから」

「……何か訳ありか?」

「俺も小さい頃は差別されてたんだよ。親からも、周りからも。だから……そういう迫害を受けるのは俺も嫌だから」

「そうか。まぁ、かまわないぞ。私のところは来る者拒まず、去る者追わずだからな」

「おう。これからよろしく頼むぜ、ルシファー!」

「私たちもよろしくお願いしますねえ」


 この町の仲間に勇者が加わった。


「さて、じゃ、俺たちは住む家を探さないとな」

「ああ、それなら虎の獣人のアムールを尋ねるといい。あいつはフレズベルグ王国の大工に弟子入りして才能が開花した根っからの大工でな。日々家を建てたいと呻いているくらいだ」

「それは頼もしいな! じゃ、さっそく行ってくる! アムールさんはどこに?」

「アムールさんは酒場にいるはずだ。基本酒場で図面を引いているからな」


 勇者たちは家を建ててもらおうと酒場に向かっていった。

 この町はとても平和だ。暇すぎるくらいに。勇者も結局懐柔できたからな……。


「お前、すごいな」

「この声は……」


 私が振り返ると、推しが目の前に立っていた。









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