第27話
私の町にイフリート公爵がやってきた。
突然の人間にエルフたちは驚いていたが、それはイフリート公爵の方も同じ。
「……エルフなんて初めて見ましたわ!」
「人間……」
「すまないな。トラウマか?」
「いえ……。ただ、人間はエルフを奴隷にすると聞いておりますが故に……」
「フレズベルグ王国は奴隷制度はない。だろう?」
「はい。数百年前まではありましたが、非人道的だという理由で廃止されました」
だから奴隷はいない。いても違法であるためしょっぴける。
「そうですか……」
「あ、あの。初対面の相手にこんなことを頼むのは失礼だと存じ上げてはいるのですがつ!」
「な、なんでしょう?」
「耳を、触らせてはいただけないでしょうか!」
「み、耳をですか!?」
「はい! そのとんがった素敵なお耳を触らせて頂きたく……」
「クロエ」
「はっ……。失礼いたしました」
クロエさんは顔を赤らめて一歩後ろに下がった。
すると、エルフの子どもが駆け寄っていく。
「私のでいーならどーぞ!」
「よ、よろしいのですか?」
「うん! その代わり私にも人間さんのお耳触らせて!」
「わかりました。では失礼して……」
クロエはシュリという女の子の耳を触る。
「コリコリしてますね」
「あはは、ぷにぷに〜!」
「耳たぶですね。エルフには耳たぶはないのですね」
「うんー? ないけどぷにぷに私も欲しい!」
「上げれるのなら上げたいですけど……」
クロエは少し俯いた。
「うちの娘は耳たぶが大きいのがコンプレックスでして……」
「福耳というものだから縁起はいいと思うが」
「ですが女の子でしょう? 耳たぶでバランスが崩れてると嘆いてまして」
「可愛らしい悩みだな。先日王子とあんなに凛々しく踊っていた娘とは思えん悩みだ」
女の子は気にしちゃうよねー。
イケてる顔の要素って個々のパーツも整ってないといけないからなー。
「戻ったわぁ」
と、空からアスモデウスが飛んできた。ヘトヘトのようだ。
「私が召喚された立場なのになぜ浄化を……」
「不可抗力だ。恨むなら召喚したやつを恨め」
「いいもん。ダーリン連れてきたから」
「離してくれ! 俺はまだ業務が……!」
「大変だな。がんばれよロード」
「ちょ、ルシファー様! 止めて! あー……」
アスモデウスにロードという騎士は連れて行かれる。
「悪魔に連れて行かれましたが……」
「サキュバスです、よね? あの方死ぬのでは……」
「大丈夫だ。アスモデウスはあの男に惚れているから死なすような真似はしない。ただ引っ付いたりするだけだ」
「それなら……」
「……頑張ってください」
こいつらも意外と薄情だよな。
「あれ、ルシファーだ〜」
「ベルフェゴール。終わったか?」
「うん〜。とりあえず施設はだいぶ出来てきた〜。というかあとは従業員だけぇ〜」
「そうか。お前にあの温泉は任せるぞ」
「うん〜。利益は僕もらうからねぇ」
「構わん。が、無駄遣いするなよ」
「しないよ〜。ただ最高級の寝具を揃えるだけぇ……。僕は寝る。おやすみぃ」
ベルフェゴールはアイマスクをつけてふわふわ浮きながら眠り始めた。
「怠惰の悪魔ベルフェゴール……!」
「さて、私の町を案内しよう。ついてこい」
私はまず酒場を見せた。
町に唯一できた酒場。エルフの皆さん特製のぶどう酒がオススメ。
そして目玉は。
「酒と一緒に、俺の音楽はどうだいイフリート公爵ゥ!」
「レヴィアタン様……」
「王城では世話になったなぁ! 再会の記念として俺のロックを聴いていけ!」
「……レヴィアタン様」
「何だい嬢ちゃん!」
「音楽といいましたか?」
「言ったぜ? ……お前、まさか!」
「私も弾きたいです」
「オッケー! セッションと行こうぜ! 楽器召喚! 好きなの選べよ!」
というのでクロエは舞台に上がりキーボードを選んでいた。
クロエの前に楽譜が出現する。悪趣味な見た目の楽器だが、普通の楽器だ。音に魔力が篭ること以外は。
「よっしゃ! テメェの腕前、見せてもらうぜ! 俺様は音楽に厳しいからな! 俺が認めたのならば、無償でテメェの願いをなんでも叶えてやるぜェ〜! ヒィヤァアアアアア!」
「難しいですね……。でも、やってみます!」
そう言ってキーボードを弾き鳴らすクロエ。
2人のセッションはこの酒場にいる人たちの目を奪う。獣人たちや、エルフの皆さんが手を止めて舞台を見ていた。
掻き鳴らすエレキギター、弾き鳴らすキーボード。
以心伝心。2人の音がマッチしている。
演奏が終わると拍手が舞い起きていた。
「…………」
「どうでした?」
「……テメェは、ブラザーの生まれ変わりか?」
「えっ?」
「合格! この俺様と難なくセッションするたぁ凄えじゃねえか……。俺は感動して前が見えねえよ……。約束通り、願いを叶えてやるぜェ……。誰かを呪い殺すでもよし、大金が欲しいでも良し……。対価は貰わねえよ……」
「え、いや、ただ弾きたかったから立候補しまして……。願いですか。そうですね……。ならこのキーボードが欲しいです。ものすごく弾きやすいというか、ピアノとは違って堅苦しくなくてすごく楽しい!」
「ふっ……。ブラザーに似て願いも立派なやつだ。ブラザーもな……。願いは……。っと、悪魔らしくもねえ感傷に浸っちまったぜ! 涙はサヨナラバイバイだ! そのキーボードはくれてやる! テメェの家に送ってやるよ!」
「ありがとうございます!」
「それとなんだが……。たまに、俺とセッションしてくれ。お前といるとブラザーを思い出す」
「それぐらいならば……」
レヴィアタンは昔を思い出したんだろうな。
ずっとブラザーが亡くなったのが心に留まっていたらしい。
レヴィアタンは悪魔ではあるが、人間臭い。
それはイフリート公爵も同じように感じていた。
「っと、いらっしゃいませー」
「1人だ。ありったけの食べ物を用意してくれ。食べる」
「は、はい!」
「ベルゼブブ。何してるんだ?」
「っと、ルシファー様。いえ、私の仕事は終わったので食べようかと。腹が減って仕方がないのです」
「そうか。まぁ、食い尽くさないようにな」
「ええ。わかっております」
ベルゼブブにそう言い残し、酒場を出た。
「色欲の悪魔アスモデウス、怠惰の悪魔ベルフェゴール、嫉妬の悪魔レヴィアタン、暴食の悪魔ベルゼブブ、傲慢の悪魔ルシファー……。七つの大罪が揃い踏み……。すごい町ですね」
「ああ。だが他にマモン、サタンもいるから揃っているぞ」
「防衛には事欠きませんな」
「戦力過多だ。狙う方がバカだろう」
「もし何かあれば……頼りにさせていただいても?」
「ここからイフリート公爵の領地は少し近いから構わないぞ。ただ、常識的な範囲でな」
「ええ」
最強の町です。
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