第25話
温泉施設が出来上がった。
だが、出来たとしても観光客が来ないと意味がないからな。私はフレズベルグ王国に向かい、王が主催する夜会に出ることになった。
一応招待状は来ていたからな。
城の前に降り立つと、門番がぎょっとした顔で私を見ていた。
「ルシファー……」
「なんだ? 来てはダメだったか? 招待状ならあるが」
「いえ、意外でしたので……」
「そうか。まぁ、普段は来ないからな。だが城に来るのは今始まったことではないだろう」
「そうですが……。こほん。中へどうぞ」
というので、私は中に入っていく。
夜会には騎士たちも常駐しており、見張りをしているんだろうなー。推しの姿が見えないけど……。
私はとりあえず夜会の会場に入る。国王が驚いた顔で私を見ていた。
「よぅ。私の席はあるだろう?」
「ルシファー殿……。いかがなされたので?」
「私の町の宣伝に来ただけだ。人が集まる場所でやるのが手っ取り早い」
「そうか。まぁ、楽しんでいってくれ」
というが、私は割とアウェーっつーか。
私は飲み物を受け取り、とりあえず話しやすそうな人の近くに立っておこう。笑顔の男性の隣に立ち、私は話しかけてみる。
「すまない」
「なんでしょう?」
「貴殿の名前はなんていうのだろうか」
「ああ、私はヤング・フリードリヒと申します」
「ヤング・フリードリヒ……。記憶した」
「ルシファー殿に覚えていただけるなんて光栄ですな」
「ああ……。と、そういえばフリードリヒというのは聞いたことがある。私の隣の……」
「そうです。ルシファー殿が爵位を獲得したというのはお聞きになりました。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。本来は私が向かうべきだったのですが……。その、とある村で悪魔騒ぎがありまして」
「悪魔騒ぎ?」
「ええ。グルテン村という場所で悪魔が召喚されたのです」
「グルテン村……。悪魔は今いるのか?」
「いえ、どこかに消えました。ですが、悪魔の償還に携わった奴らの魔力が戻らず、悪魔の力にやられているのです」
「ふむ……。となると相当格が高い悪魔を召喚したのだな」
私がそういうと、ヤングさんは私を見て目を丸くしていた。
「わかるのですか!?」
「私も悪魔の一種ではあるのだぞ。わかる。格が高い悪魔を召喚するのはそれ相応の代償を追う。きっとグルテン村には悪魔の魔力の残骸が残っていて、近寄れないのだろう?」
「ええ……。知り合いの聖騎士やシスターに頼み浄化してもらおうかと……」
「それには及ばん。グルテン村の奴らが召喚した悪魔に浄化させたらいい。召喚した悪魔の名前は?」
「わかりません……。が、大罪の悪魔だというのは奴らが調べていた文献に……」
大罪の悪魔……。召喚……。
「……心当たりがあるな。ちょうどその悪魔がうちにいる」
「本当ですか!?」
「ああ。召喚された悪魔が浄化したのなら完全に残骸はなくなるだろう。だが、それをするには交換条件がある」
「……厳しい条件でなければ受けましょう。私もグルテン村をどうにかせねばいけないので」
「条件は簡単だ。私の町を宣伝してくれるだけでいい。貴殿の知り合いとか……領の人間とか。それだけでいい」
「わかりました。受けましょう。ぜひよろしくお願いします。それと、悪魔の力に充てられた人間を元に戻してほしいのもありますが」
「ああ……。だが、なぜ大罪の悪魔を呼び出したのだ?」
「それはきっとルシファー様が近くにいるからでしょう」
「私が?」
どういうこと?
「グルテン村はあなたの住む領土に近い。いつ襲ってくるかわからないからこそ、不安に駆られ対抗するために強力な悪魔を呼び出そうとしたのだと」
「なるほどな。私が脅威であるから故、か」
納得。
というか、そうだよな。そんな村まで私は安全ですよーって噂が回るまで時間がかかるよな。
というか、多分召喚された悪魔はきっとあいつだ。アスモデウス。あれ召喚されたって言ってたし。
「悪魔の話をしているのですか?」
「……イフリート公爵殿」
「悪魔の話をなさっておられたのですか?」
「ええ。私の領地で悪魔騒動がありまして……」
「ほう。では、ルシファー殿。頼みがあるのですが……」
「なんだ」
「とある悪魔を探しているのです。私のご先祖が召喚したという悪魔を。レヴィアタンという悪魔なのですが……」
「……探して何をするつもりだ?」
「ご先祖様の話を聞きたいのです。なんのためにレヴィアタンを召喚したのか、なぜ対価をもらわなかったのか……と。悪魔と契約していたというのは我々貴族にとっては汚点ではあるのですが……。悪魔と契約してなお、対価をもらわずに消えたレヴィアタン。悪魔というのは対価をもらいに来るはずなのです。どんな先の子孫に対しても」
「……あいつは対価は受け取らんぞ」
というかもらったようなものだしな。
「知っているのですね?」
「知っている。うちにいる。だが、あいつはあんたの先祖に感謝していたぞ」
「感謝?」
「あんたの先祖が呼び出した理由は単純だ。音楽を聴いてほしいからだそうだ。あいつの契約主が音楽が好きだが誰も聞いてくれなかったと言っていた。だから、聞いてほしくて悪魔を召喚したら偶然あいつだったわけだ」
「……なるほど。対価をあまりもらう必要がない願いだったから」
「というのもあるが、そもそもあいつ自身、そのおかげで音楽にのめりこんだのだ。がっつりとな。死に際にレヴィアタン本人が音楽を世界に広めてやるとあんたの先祖に言っていたそうだ。今呼び出してやろうか?」
「ぜひ。ですが場所を変えましょう」
というので、私は個室に移動した。
個室でレヴィアタンを召喚する魔法陣を展開する。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 俺様の参上だぜェ! ルシファー、何の用だよぅ! 俺は、見ての通り、チューニングが終わったんで試し弾きしてる最中なんだが!」
「こいつがあんたが契約したやつの子孫だと。話したいことがあると言っていたが」
「ほほう! あいつの! たしかに似ているな! イエー! あんたの先祖には感謝しているぜェ! こんな素晴らしい道に引きずり込んでくれたからよォ! で、何をしてほしい? 俺はあいつの子孫なら対価はもらわねえ! もらっても演奏する場所を用意するだけでいいぜぇ?」
「いや……。いい。ただ聞きたい。本当に私のご先祖はあんたに音楽を聴いてほしくて?」
「ああ! 酔狂な奴だったよ。悪魔を呼び出しておいて願いが音楽を聴けっつー。最高にくだらなくて、最高にイカしてたぜェ」
レヴィアタンはエレキギターをかき鳴らしながらそういうと、イフリート公爵は涙を流していた。
「そうか……。よかった。私のご先祖はやはりそういうのを企てるような人ではなかった」
「国の崩壊か? あいつは願ってなかったな。だが、そういうのを願ってるやつがいるというのは聞いたぜ。あわよくば自分の命を差し出して俺に止めさせるみたいだったがよォ。人間っつーのはとても素晴らしい生きもんだとその時思ったぜ。聞きたいことは以上かァ? 以上なら俺の音楽を聴いていけ!」
「いや、ここで演奏はやめろ」
「なんだよルシファー! 俺のこのフラストレーションはどうしろってんだ!?」
「知らん」
私はレヴィアタンを戻した。
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