第22話

 1日後、私はマモンを町まで案内するべく、マモンを引き連れ空を飛ぶ。

 まずは城に向かうと。


「お、ルシファー! おーい」

「サタンの野郎を捕らえたぜ!」

「げっ……」


 アスモデウス、レヴィアタンコンビはすでに仕事を終えていたようだ。縄でぐるぐる巻きにされたサタン。

 私はマモンとともに城に入っていく。


「久しぶりだな。レヴィアタン、アスモデウス」

「あいも変わらず不気味な見た目ねぇ」

「最高にロックだぜ、マモン!」

「……レヴィアタンはものすごく変わったな。前までは冷酷な悪魔だった気がするが」

「俺はマイブラザーとの出会いが俺を変えたのさ……」


 エレキギターをかき鳴らすレヴィアタン。

 すると、戻りましたとベルゼブブが告げる。後ろには雲の上に乗っかりアイマスクを付けて惰眠をむさぼっている悪魔がいた。

 ベルフェゴールだ。


「あれ、なんでみんないるのー?」

「訳が分からず連れてきた感じか?」

「説明はしたのですが……」

「あ、るしふぁあ。おひさー。マモンたちもおひさー」

「お久しぶりだ」

「よっしゃ! 七人全員揃った記念に俺の究極ロックフェスを開いてやるぜ!」


 そういってギターをまた再びかき鳴らし曲を弾き始めた。

 サタンはうるせえといったような顔でただただじっとしていた。ほかの4人は楽しそうに聞いているが……。

 レヴィアタンの演奏が終わり、マモンが手をたたく。


「すごいな。上手だ」

「だろ? 俺の元契約主がな、俺とともに楽器を弾きたくて召喚したんだよ! 俺もそれではまっちまって! ブラザー亡き今、俺が世界にこのロック魂を広めてんのよ!」

「……レヴィアタンは親人派か」

「しんじんは? よくわかんねえが、人間は音楽が分かる! それ以外に理由があるかよ!」


 マモンは嬉しそうにしているように思えた。顔が動かないからわかんないけど。


「で、サタンはしばらくこのままにしておくのか?」

「そうね。解放したところでどうせまた逃げ出したり悪さするわ。さすがに骨が折れたわよ。こいつ捕まえるの」

「だろうな。実力は確かだからな」

「俺になにしろってんだよ。こんな人間と親しむような町だぁ? そんなの無理に決まってらぁ! 悪魔なんぞに人間の心がわかるかよ!」

「……」

「俺らは悪魔なんだぞ! 人間よりもっと上位の種族だ! 人間は使役するべき、そうだろうよ!」

「…………」


 まぁ……現実的な話ではサタンの言うことは至極もっともなんだよな。悪魔としては人間は自分たちより格下、そういう扱いをしても問題はないし、契約するにしても自分たちじゃどうにもならないようなことを悪魔に頼む時点で格下ということ。

 それはほかの5人も理解はしているらしく何も言わない。


「悪魔だ人間だ、そんな区別は言葉だけでいいだろう。この世界に存在しているのは確かなことだ。それ以外に何か問題があるのか?」

「あるよあるある! 大体、ルシファー、テメエも! 人間の味方なんぞしやがって! 前までのふんぞり返っていたお前はどうしたよ! だっせえな!」

「……」

「ベルゼブブ! てめえはむしろ俺と同じ考えのはずだろ! 人間の味方をするなんてだせえと思わねえのか!?」

「ふむ、たしかに私としてはサタンの考えとは同じ。従っているのは私がルシファーに負けたからではありますが……」

「だろ? ベルフェゴール! てめえも人間は羽虫のようにうるせえだろ? 殺したくはないか?」

「うーん。たしかにうるさいときもあるよねぇ~」

「だろ? うるせえだろ? マモン! 人間に辟易したことは何回もあるだろう!? 成長しない人間にあきれたこともあるだろ!」

「……否定はできない」


 と、的確に人間に対する思いの弱いところを突いてくるサタン。


「……私にはなんもないのかしら」

「俺にもねえな」

「お前らは……。むしろ人間を餌にする側だろ」

「ああ、餌だぜ! 奴らの歓声が、俺を応援する声が! 俺の糧! そういう意味では餌だぜ!」

「そうねぇ。精気をもらう点では餌だし、ダーリンもいるし……。餌ではあるわねぇ」

「お前らはむしろ人間に存続してほしい派だろうからなんもねえんだよ!」


 たしかに。


「人間に思うところあるだろ? 嫌なところばかりだろ? こんなお遊びなんてやめて、いっそ人間を殺しちまおうぜ?」


 サタンはそう必死に訴えるが。


「うーん。僕としては面倒だしぃ……。人間ってものすごい発明とかしてくれてよく眠れるグッズとかたまにくれるしぃ……。滅ぼす理由ないかもー。ちょっと静かにしてって言ったら静かにしてくれるしぃ」

「私としても、ルシファーとともに人間と関わっていくにつれ考えは変わったな。むしろ、人間がいなければ野菜は食えないからな。エルフの皆様からもらう野菜や、たまに来る人間の行商人からもらう干し肉など、人間の作る料理もこれまた格別ではある」

「そもそも人ありきの商売だ。人の悪いところが出るのは商売である以上仕方がないこと。その悪いところをどう組み込んで作戦を練るか。それもまた面白い」


 三人は考えが変わらないようだ。

 というかベルゼブブ、お前野菜もらってたのか。


「……甘ったれた悪魔になったもんだなてめえらも! 七つの大罪としておそれられたお前たちはどうした!?」

「そんなに見たいなら見せてやろうか? いい加減うるさくなってきた」

「ちょっとうるさいねぇ。黙らせるよ」

「これ以上喋らせるのは私としても不愉快極まりないな」

「イエー! とりあえずブーイングは後にしてもらうぜ!」

「おだまんなさいっ!」


 と、全員うるさく感じてきたのかサタンに一斉攻撃を仕掛けていた。

 フルリンチ。さすがにこの5人にフルリンチにされるのは私としても避けたいな。結構強いから全員を相手取るとしたら私でも負ける可能性があるからな……。


「ぐあっ!」

「……ぷっ」


 私は情けない声に思わず笑うと、みんながこちらを向いた。


「……笑ったんですか?」

「いや……あまりにも情けない姿でな……。ククク……ちょ、タンマ……。無理。見た目が見た目なだけにすっげえ情けない声を出すの似合わない……」

「……たしかに」

「アハハハハハハァ!」

「言われてみればだっさいわねぇ」

「フフフ……。たしかに滑稽」

「るしふぁあ、笑わせないでぇ。腹痛くて眠れなくなっちゃう……」


 みんな笑い始め、サタンの顔はものすごく赤くなっていた。


「ま、もういいだろう。サタン、御託を並べる作業は終わったか? こちらとしてはこちらの仲間になるというのなら、私の名をかたって悪事を働いたことも見逃してやる。だがしかし、飲まないというのなら、私の名をかたったことを後悔させてやろう。貴様とて私と戦いを交えたくはないだろう?」

「…………」

「選べ。お前が採る選択は二つに一つだ。どちらがいい? 私に従うか処罰を受けるか。私はどちらでも構わんぞ」

「……わあったよ! 俺としてもお前と戦いたくはねえんだよ! だから……従ってやるよ!」

「そうか。それならいい」


 私はサタンの縄をほどいた。


「自由に動かせはさせてやる。が、逃げれるとは思うな。ここに全員集わせたのはそれぞれが悪事を働かない保証がないゆえの監視でもある」

「……逃げねえよ。お前はどうせ地の果てまで追ってくる」

「そうか。あと、不意打ちをしようなんて思うな。私を殺せると思うなよ」

「…………」

「もし殺したいのならー、私たちを通してもらうわぁん」

「貴様もいずれ考えが変わるさ。私と同じようにな」


 サタンは動かなくなった。

 ま、これだけ言っておけばしばらくは悪事を働かないだろう。









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