第19話

 私は先に帰っていると告げて翼を広げ城に戻る。

 城の前にはエルフたちがもの珍しそうな顔で城の中を覗き込んでいた。


「どうした?」

「城の中に誰か入っていったんです……」

「城の中にか?」


 魔力は何も感じなかったが。

 私は中に入ると。


 エレキギターを掻き鳴らす音が聞こえた。


「ヘイ、ルシファー! 元気か〜い?」

「……レヴィアタン」

「センキュー!」


 レヴィアタン。ギャラオンに登場する敵か味方かわからないキャラだ。

 というのも、こいつは悪魔だけど悪さしてないっつーか……。戦うことはできるが、力量さ、俺で確かめてみるかい?と戦っても戦わなくてもいいボスキャラなんだよな。


「ユーの噂、聞いたぜ。人間と、仲良くしたいんだってな。俺も、賛成だ」


 エレキギターを掻き鳴らしながら話すレヴィアタン。


「人間は音楽の良さを分かってる。俺も一口噛ませてくれよマイブラザー」

「構わないがやかましい」

「イェー!」


 やかましい。


「よっしゃ! じゃあ手始めに人間の街でワンマンライブと行こうぜ! エレキギター掻き鳴らして、世界を俺のビートに染めてやんよ!」

「やめろ」


 国王になんて説明したらいいんだよ。ロックな悪魔がエレキギター掻き鳴らしてますとかか?

 レヴィアタンはエレキギターをしまった。


「っしゃ、ルシファー、これからよろしくな! 俺も暇なんだ。人間どもは俺が悪魔だから近づいて来ねえし」

「悪魔にいい印象は抱かないだろう」

「だよな。だが、お前は人間と仲良くなってる。俺も欲求不満なんだぜ? 悪魔である俺が人間に気遣ってる。珍しいだろ? 俺のストレス発散、手伝ってくれよ」

「はぁ……」

「演奏ができるいい場所がねえか?」

「……なくはないな」


 というと、レヴィアタンは目を輝かせてマジかと聞いてくる。

 あそこならいいだろう。私は着いてこいと言い、翼を広げた。


 私が向かった先は冒険者ギルド。荒くれ者も多いギルドは酒場も併設されており、常に盛り上がってる。やかましいこの場所でなら演奏出来るだろう。


 私は受付嬢に頼み込んで、ステージを用意してもらった。


「お、誰かステージに立ったぜ?」

「見ねえ顔だな? だが、なんか面白そーなことするみてえだぜ」


 レヴィアタンはエレキギターで爆音を鳴らす。そして、マイクを出現させ、口を開く。


「初めましてだテメーら! 俺ァ、嫉妬の悪魔にして七つの大罪が一人、レヴィアタン! 今宵は俺の演奏を聴いていけ!」


 そうしてレヴィアタンはエレキギターを弾き始めた。

 ボーカルもレヴィアタン。ものすごくロックな音楽が冒険者ギルドの中に響きわたる。

 すげえ上手い。心に重低音が響き渡るこの感じ……。


 周りの冒険者も、その演奏に魅入られていた。

 曲が終わる。拍手が舞い上がる。


「ふぅ……。俺の心からのビートどうだった……」

「最高だぜフゥーーー!」

「まだ弾けーー!」

「アンコールか! よっしゃ、まだまだ俺のビートは止まらねえ! ヒャッハァアアアアア!」


 レヴィアタンは演奏を始めた。

 受付嬢が私に近づいてくる。


「あの方は……?」

「悪魔だ。私の知り合いの」

「あ、悪魔!?」

「怖いか?」

「それは……」

「だろうな。だが、あいつは無害だ。アイツの欲求は演奏だ。アイツに何か頼みたいなら対価は演奏出来る場所を提供すればいい」

「あ、悪魔ってものすごい対価を要求するものだと思ってましたが……」

「あれも昔はそうだったらしいぞ」


 ゲームの設定で、レヴィアタンは昔召喚された。その時は対価は今とは違うものだった。

 レヴィアタンは嫉妬の悪魔というだけあり、人の嫉妬を司る。召喚された際はどんな対価を貰おうか考えていたらしいが、召喚主がなんと無類の音楽好きで、音楽を聴いてほしくて呼び出した。


 それが全ての元凶。レヴィアタンはそいつの音楽を聴いて感化されてしまった。

「音楽、やるか……?」

「おう……!」

「一緒にハートを掻き鳴らそうぜ……!」

 と、二人でセッションする毎日。だが、片方は人間。寿命がある。

「俺らの音楽を……世界へ……」

「任せとけ、マイブラザー……!」

 ということであるらしい。


 私はこれを受付嬢に伝えてみた。


「音楽の力ってすごいですね」


 と、単調な返し。

 だよな。








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