第16話

 ここは正式にルシファー領として国内外に認知されることになった。

 王都の人たちも面白がって足を運んでくる。ふっ、私は日々人助けをしていたからな。信頼はもうほとんど勝ち取ったようなものだ。

 王都を守ったりしてたしな。信頼は積み上げて……。


「うーむ。異世界に来てなんで私働いてるんだろ」


 私は一人でぼやいていた。

 日本では引きニートだったのに今じゃ街を建てるまで……。成長してると捉えるべきか……。単純にやることないのと、エルフを守るためにはそういう権限も必要だから私が代表して取ったって形になるから……。

 私がやる理由なんてほとんどないんだけどねぇ。


「よぅ。なにか不便なところはないか?」


 私は街に降りて、エルフたちに聞きまわる。

 街の長として不便なところは改良していく必要があるしな。


「あまりありませんけど……。この周辺の森には魔物も動物もいないのが少し気になりますね……」

「肉が食べたいです」

「肉か……」


 この周辺に動物を呼ぶのは正直言って無理難題。ベルゼブブに聞いてみたが、私の魔力が強すぎて魔物が近寄れないのだという。

 ここのルシファー領は私の魔力が充満していて、私以外に住む魔物はいないとか。ルシファーの力強すぎ……。


「肉はフレズベルグ王国から輸入するとして……。水回りとかは?」

「ここから泉も近いですし大丈夫ですよ」

「魔物もいないから子供たちを安心して遊ばせられるしねぇ」

「人間の書物ももらいましたし、勉学にも困りません」

「そうか。肉に関してはこちらも何か考えておく」


 魔物をこの森に連れてくるのは私がいる時点で無理。

 で、どこかから輸入してくるにしても金がな……。一応、ものすごく強い魔物の素材を冒険者ギルドで売り払って金は見繕っているが、それでも街を運営するには少し足りない。

 税収もなしにアレをこうするとか、そういうのは無理なんだよな。それは日本でも同じ。金はどこの世界でも大事。


「ほかになにか不便なところはないか?」

 

 と、私が尋ねた時だった。

 ルシファー領に誰かが入ってきた。王都の人たちではないな。ここに来る人たちは限られてるし、王都の人たちの魔力はすべて覚えたから……。

 私は警戒しながら待っていると、ベルゼブブが城から飛び出していく。私はベルゼブブについていくように飛んでいった。


「なにかあったか?」

「何か神聖な魔力を感じるだけです。もしかしたら勇者かもしれません」

「勇者ぁ?」


 私はその魔力のところまで向かう。

 黄金の鎧を身にまとった男と、デカい杖を持った女、大きな盾を持った男に魔導書を持った男の人。

 たしかに神聖な魔力のような感じがする?


「……っ! ルシファーだ」


 黄金の鎧を身にまとった男がそういうと、勇者と思わしき人たちは戦闘態勢をとっていた。

 うーむ。ステータス、相当高いな。勇者というだけあり、私を倒せる力はあるな……。だが、フレズベルグ王国が派遣してきたとは思えないが……。


「お前ら……勇者だな。どこの国から来た」

「ホワイト王国からだ」

「ホワイト王国……」


 フレズベルグ王国から結構離れた距離にある王国だ。

 フレズベルグ王国とは友好国でもなんでもなく、ただのこの大陸に位置するというだけの国。

 で、あそこってギャラオンの初期位置なんだよね……。つまり始まりの町があるということ。

 なるほどな。勇者ってそこから出るんだぁ……。


「わざわざ遠くからご苦労だったな。だが、私は討伐される筋合いはない」

「よく言うぜ! 国を一つ潰してなおのうのうと生きているくせに!」

「それに関してはこちらにも言い分がある。が、私は何もしてないだろう。私が何かしたという悪事を聞いたか?」

「ああ。道中でお前の部下に襲われたぞ!」

「部下?」


 えっ、部下いたの?

 いや、いない。私は常に一人だ。


「私は常に一人だ。一人で過ごしていたのに部下だと? そんな奴ら本当に知らんぞ」

「……スケルトンのアデルとかは知らないのか!?」

「ああ」


 誰だそいつら。


「嘘ついてるようには見えませんね……」

「ではあいつらはなんなんだ?」

「私に聞くな。知らん」


 私の部下を騙るやつか……。

 それは許せんな。私はベルゼブブを見ると、やはりという顔をしていた。


「わかりました。調べ上げて粛正しておきます」

「頼んだ」


 ベルゼブブは飛んで行った。


「それで、私に何かまだあるか?」

「いや……」

「悪の根源って聞くけど全然違うね……?」

「うーむ」


 勇者たちは私に驚いていた。

 すると、後ろから国王の馬車が見えた。国王の馬車は勇者の前で止まる。


「失礼!」

「いや、構わん……。なんの話をしてるんだ?」

「私が勇者に狙われているだけだ」

「ほほう? 何か悪いことしたのか?」

「……強いていうなら12時間くらい眠ったことか?」

「それで悪いこととは言えんなぁ」


 国王は笑っていた。

 勇者は少し驚いていた。


「フレズベルグ王国国王殿……。なぜそんな笑いながら話して……」

「ん? ああ、勇者殿は知らないか。ルシファー殿には魔王軍が襲撃に来た際、守ってもらったのだ。そこから友好関係を築いている」

「守った……?」


 ぽかんとする勇者。


「もし、ルシファー殿を討伐するのなら、ホワイト王国は我が国の敵と見做す。勇者殿。ルシファーは何も知らないこの大陸の民にとっては脅威の存在だ。いつ生活を脅かされるか溜まったものではないだろう。だが、ルシファー殿は何もしない。フレズベルグ国王の名において証明しよう」

「はい……。わかりました。ホワイト王国の国王様に伝えて……」

「いや……大陸会議がもうすぐだろう? その時に報告する。勇者殿は我がフレズベルグ王国でゆっくり羽を休めるがいい。ルシファー討伐を掲げて出たのだろうがとんだ無駄足で終わらせてしまったからな」


 たしかに。

 私のことをフレズベルグ国王の名で守られたから迂闊に手出しできないし、勇者としてはどちらにも付きづらいことになるよな。

 私に手を出してしまったら外交問題、手出さなくても自分の国の国王に何を言われるか……。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「うむ」


 勇者たちは帰ろうとしたが……。


「え、あれエルフじゃない!?」

「勇者! あそこの村よってこうよ! エルフがいる!」

「……いいのか? エルフはあまり人間と友好的では」

「言葉が通じるんならなんとかなる!」


 魔法使いはポジティブすぎる。


「ルシファー殿、いいのか?」

「まぁ、構わんだろう。ただし、襲うな。ここのエルフは魔王軍に村を焼き払われて少しトラウマがあるからな」

「わかりました」


 勇者殿めっちゃいい人……。










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