閑話
眠りから目が覚めた男は痛む自分の頭を抑える。
「畜生……。なんで世の中思い通りいかねえんだクソがッ!」
起きて早々、冒険者ギルドの受付嬢から壊したテーブルの弁償代を請求された。悪いのはあの翼が生えた奴だ。俺は悪くない。
なんなんだあいつは。俺はあいつに何をされた? わからん。
俺より強い奴なんていていいはずがないのに。
「お兄さん、イラついているようですねェ」
「あァ? わかってんなら声かけんじゃねえよ。俺はいま虫の居所が悪いんだ」
声をかけてきたのは老婆だった。
黒いローブを羽織った老婆が声をかけてきて、俺はムカついたので殴りかかろうとすると、体が動かなくなる。
「動けん……!」
「ひえっひえっ。そんな血気盛んなお前さんよ、この世界に不満はないか?」
「あるに決まってんだろうがよクソがッ! なんなんだこれは! なんで動けねえ!」
「そうかいそうかい。なら、これを飲むといい。これは世界が自分の思い通りになる薬だよ」
と、老婆が俺のズボンのポケットに変な飲み物を入れてきやがった。
老婆は去っていき、俺はもらったものをみる。何も書かれていない瓶には確かに何か液体のようなものが入っていた。
なんだこれは。
あの老婆の言うことが本当ならば……。これを飲んだら世界が俺の思った通りになるんだろ?
おもしれえ。怪しいとは思うが、もしその言葉が本当ならば、あの気に食わない冒険者どもも、俺に対して偉そうに語るギルドの連中も、あの俺を見下したかのように見てきたあいつも……。全部粛清できる。
俺は瓶のふたを開け、その液体を口内に垂れ流す。
のどの辺りを通り過ぎたあたりだろうか。暑い、という感覚が俺を襲う。何かが俺の中に入ってくるような感じがする。
いや、違う……。入ってくるんじゃない、俺が何かに飲み込まれちまう……?
「クソ、だましたなあの老婆……! 意識が……!」
俺は立っていられなくなるほどのめまいを感じ、思わず地面に膝をついた。背中が痛い、目が痛い、頭が痛い。
全身に痛みを感じていた。何かに変えられていくような感覚。消え入りそうな俺の意識。俺は根性で気を失わずにいると、どこかから声が聞こえる。
『ふむ、意識がまだあるか。邪魔だな』
男の声が聞こえる。
俺は、地べたに這いつくばり、そのまま意識を投げ出したのだった。
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