第12話

 魔王を退け、玉座に座り直し考え事に耽っているとこの森に誰かが入って来たことを感じた。

 魔力が強い奴らが複数……。うーむ。敵か? 敵なのか? ここまで強いってそれこそ私を討伐しに来た感じ?


 かと思っていると、そこにはボロボロの衣服を見に纏った長くとんがった耳を持った女の人が駆け込んできたのだった。


「堕天使ルシファー様! ご無礼を承知でお願いいたします……。我らエルフを、助けてください……」

「……ほう?」


 エルフ。いるんだ。

 ギャラオンの世界でエルフというのは文字としてはあった。NPCがエルフの村とか言ってたし、エルフの飲み薬なんていうアイテムもあった。

 エルフはいたんだというのはわかってたけどギャラオンでエルフが出て来たことはないんだよね。初めて見た。


 そのエルフが私に助けを願ってやってきたようだ。


「何があった?」

「私たちは隣の大陸のエルフの村に住んでおりまして……。ある日、私たちの村が魔王軍に襲撃されたんです」


 エルフの村が焼き払われ、魔王軍はエルフを殺し回った。エルフは精霊魔法など強力な種族であるため狙われたらしい。

 命が無事であった数人でなんとか命からがら逃げ出して来て海を渡りこちらに来たという。


 そういやこの城から海までそう遠くない。隣の大陸までもそう遠くはないはず。

 なるほど。魔王軍は隣の大陸か……。ギャラオンの世界は広いと開発陣は言ってたし、ギャラオン2は隣の大陸が冒険の舞台とか聞いたな。ギャラオンが好きすぎてそっちはやってないけど。


 魔王ってそっちのボス?


「お願いいたしますルシファー様……。私たちを助けてください……」

「助けるのはいいが、なぜ私だ? ここからフレズベルグ王国も近い。フレズベルグ王国に頼み込めば仕事も斡旋してくれるはずだろう。それに、私を知っているということは私の悪評も知っているはずだ。なにか考えがあって来たな?」


 まぁ、なんとなくわかる。

 悪には悪をぶつけようとしてるんだろうなとは。


「ま、いいだろう。土地も有り余ってて勿体無いしな。このルシファー様が治める土地に住むがいい」

「あ、ありがとうございます……!」

「助かったのは貴様らだけか?」

「城の外に数名ほど待機させておりますが……。村の男たちは全滅、女子供だけで……」

「なるほど。戦えるエルフの男戦士たちが前線に立ち逃したというわけか。その勇気は賞賛に値するだろう。全員で住むがいい。家に関しては私は専門外だからフレズベルグ王国から何人か連れて来てやろうか?」

「お願いしても……」

「了解した」


 私は翼を広げ、空に飛び上がる。

 フレズベルグ王国の国王様に頼んでみよう。だが、エルフが来たという話を信じてもらうには一人連れて行った方がいいな。

 私はエルフの代表であろう女一人持ち上げ抱え、王都に向かった。


「は、はや……」

「到着だ。おい、国王と会わせろ」

「る、ルシファー様! 国王様は今……」

「なんだ、いないのか? 魔力探知では国王の魔力を城の中から感じるが」

「おりますとも! 直ちに呼んできます!」


 国王を呼び出し、私は国王にエルフのことを話した。


「え、エルフのカエデと申します」

「ほう……。エルフとは初めて見た……。エルフがルシファー居住区に越して来たから家を建てて欲しいとのことか」

「できるか? 私は建築に関しては何も知らん。金は……そうだな。私の羽やら何やらで払うから大工を数名居住区に寄越してほしいのだが」

「ふむ、わかった。数名ほど用意しよう。それと……魔王軍は隣の大陸の者なのだな?」

「エルフが隣の大陸から来たのだ。隣の大陸で魔王軍が活動してるのは間違いないだろう。こちらにも手を染め始めたみたいだが」


 海の近くに私がいたことが災難でしたね魔王様。


「そこまでわが国と魔王軍の本拠地が近いと……何か策を練らねばいかんな」

「私がいるだろう。私にすぐ報告しに来れるようにしておけばいい。最悪王都は無傷で守れる」

「だが、フレズベルグ王国はまだ他にも村や町がある。全土を一気に守れるか? ルシファー殿」

「無理だな。流石の私でもそこまでの広範囲をカバーするのは力量的にもきつい。それこそ神でなければ無理だ」

「だからこそだ。ルシファー殿の力が及ばない範囲に攻撃をされるのが一番厄介だ」


 なるほど。その通りだ。


「ルシファー殿が隣の大陸に行って魔王を討伐してくれたら楽なのだがな」

「面倒だ。やりたくない」

「だろう?」


 だってそこまで飛ぶのだるいよ。

 それにどうせ人間が勇者を選定して勇者に討伐させるでしょ。私にはあまり関係ないし。魔王側はどうせ私には手出ししてこないだろうし。


「話は以上だ。大工は早急に頼む」

「わかった」


 私は城から出ると、推しが待っていた。


「何しに来たんだ?」

「……この、エルフの、家を建てたいから」

「そうか。それで国王様にな……」

「う…ああ。そうだ」


 私一人ならまだしも隣にガチガチに緊張して固まったエルフのカエデがいるからキャラ崩せねー。

 

「エルフか……。初めて見たな。隣の大陸のどこかで密かに暮らしてると言われてるエルフ。よく人間嫌いとか言われてるが……」

「……なるほどな。人間嫌いか」

「……すいません、人間にはあまりいい思い出がなく」

「だろう。はるか昔、人間はエルフを見下し差別して、奴隷にまでしていたそうだ。我が国や他の国では今でこそ奴隷制度は廃止されたが……。エルフが住む大陸ではいまだに差別意識が強いと聞く」

「そんなことがあるのか。くだらんな」

「差別をくだらんと思っているようで何よりだ。エルフ殿。我々、フレズベルグの王国民はエルフに対して理解が薄い面がある。だが、我々は決して差別はしない。困った時は我々も頼ってほしい」

「……ふぁい」


 カエデは顔を赤くして俯いた。

 ……気に食わん。だが、ここで抗議しては大人気ない。正妻の余裕を見せなくてはな。


「フレズベルグ王国はこんな私でも最終的には受け入れているのだ。安心しろ。さ、帰るぞ」


 私は翼を広げ飛び上がる。

 あー、なんでこんな働かせられてんだろ。











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