第7話
「マジだって! あのルシファーに助けられたんだよ!」
冒険者のカロンは周りの冒険者にそう言い回っていた。
仲間のノルンとマーガレットもルシファーについて言い回っていた。
「にわかには信じられませんね……。ルシファーさんが人間の怪我を?」
「マジなんだよ! マーガレットなんか手足が折れて腕とか引きちぎれそうになってたの治してもらったんだぜ!?」
「ほら、この通り! 私たちがエレメンタルウッドに出会ったのにも関わらず生きてるんだよ!?」
ルシファーに助けられたことを信じない冒険者が多かった。
それはそうだ。ルシファーはかつて帝国を滅ぼし居城を築いた。人間を見下し、虐殺したと言われる堕天使。
そんなルシファーが人助けのように人間を回復させるというのは、にわかには信じ難かった。
「誰も信じてくれない……。私たちが見たルシファーさんってもしかして夢?」
「な訳あるかよ。マーガレットのあの怪我……。天使でなければ完全に治せねえだろ。それに、俺らと同じ夢なんて見るわけねえ」
「だよね……。どういうことなんだろ」
「わからん……」
「ならさ……本人のところに行ってみるのはどうだ? もし、ルシファーが俺らの敵ならば……俺らを殺すか、逃さないはずだ。人間の敵ならば俺らを殺す」
「だな。堕天の居城ってこっから……北だったな。行ってみるか」
元ワーデル帝国跡地。今現在、ルシファー居城区。
ルシファー居城区は立ち入り禁止とされている。魔物一匹すら生息しておらず、堕天使ルシファーが城を構えるだけの土地。そこはどこの国のものではなく、ルシファーがいることで誰も手出しはできない土地。
俺らがそこに侵入できたとするならば……真っ先にルシファーに殺されるはずだ。人間嫌いのルシファーが人間が入ってきたことを許容するはずがないからだ。本来ならば。
「俺らはルシファーを信じる。ルシファーはきっと、悪いやつじゃない」
「だね。ルシファーさん、人間に歩み寄りたいんだろうね」
「もしそうなら俺らが架け橋になってやれればいいが……」
俺らは期待と不安を胸にして、ルシファー居城区に向かうことにした。
王都から馬車で3時間。
ワーデル帝国と王都ってなんでこんな近いんだよと思いながらルシファー居城区の前に立つ。立ち入り禁止のロープが張られているが、馬車が通った後が何故かあった。
俺らはロープを越え、ルシファーの住む城に向かう。
「動物一匹もいない……。不気味……」
「ルシファーの魔力のせいだろうな。魔法使いの俺はわかる。ルシファーの魔力が充満している」
「意外と城が近い」
森を抜けたらすぐお城。
俺らは城に入っていく。そして、扉があり、奥からは話し声が聞こえてきた。
「今度王都で医院を開こうと思う。天使の施しというスキルがあれば余裕で怪我や病気を治せるから楽して金が……」
「ダメです」
「なぜだ。人間のために……」
「人間に関わるなと申し上げておりましょう」
という会話が。
「人間のため、だってよ」
「うーん、悪い人には見えない」
俺らはそう話していると扉が勝手に開かれる。
「ようこそ、我が城へ」
「え、あ」
「お前達は以前の……。怪我の具合はどうだ?」
「え、な、なんともないです! 元気に動けます!!」
「それはよかった」
ルシファーはそう言って微笑んだ。
やっぱ、悪い人、ではないよな。
「何しにきた。ここは立ち入り禁止だろう」
「俺たち……その、ルシファーさんが悪いやつじゃないと思って来ただけです」
「……ほほう?」
ルシファーは少し嬉しそうにしている。
「俺らを助けてくれた。だから悪いやつじゃないって思って。それを証明するために来ました」
「そうか……。ほら、人間でも分かってくれるものはいる。歩み寄ったら分かり合えるのだ」
「ですが……」
「私がしたことは確かに人間にとっては目の敵にするものだろう。だがしかし、人間だって人間同士で戦うことがある。人間ではない生物に蹂躙されたから、人間ではない生物が果たして本当に悪なのか?」
「……それは」
「戦争なんていうのはどちらも正しいと思っているから起きるのだ。私だって正しいと思ったから行動した。人間もそうだろう? 正しいと思っているから私を遠ざける」
ルシファーさんの言い分は確かに納得できる。どちらも正しいと思ってるからこそ受け入れられないんだろな……。俺らもきっかけがあったから受け入れられたわけで。
「どちらが正しいなんて、誰にも決められん。だからこそ、どちらも正しかったと証明すべきではないか? 人間に歩み寄ることで、人間と私、過ちがどちらにもあるということを認めさせるのだ」
「……そうですか。ですが、こればかりは私の一存では」
「……頭でっかちは出世しないぞ」
「うるさいです。副団長の地位ですらありがたいので充分です」
うん、そうだよな。
「ルシファーさん、俺らもルシファーさんが人間に馴染めるよう手伝います」
「恩もありますし!」
「賛成だ! 俺らにできることがあればなんでも言ってくれ!」
「……だそうだが?」
「……止めはしませんからご自由に」
ルシファーさんは少し嬉しそうにしていた。
俺らは恩を返す。
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