第4話
ごめんなさい、ごめんなさいと念じながら、私は気を失っている推しを看病していた。
天使の施しで怪我は全部回復させたのだが、目を覚まさない。当たり所悪かったかな。でも、息はしているから生きてるんだよな。
私は推しの顔を眺めていると、表情が動いた。
そして、目を開ける推し。
「目が覚めたか」
「……っ! ルシ……いてて」
「目が覚めないかと思ったぞ」
「ここはどこだ。俺に何をした」
「何もしていない。けがの手当てをしただけだ」
私は手を見せ、何も持っていないということも証明しておく。
推しの顔はいいなぁ。どんな表情も素敵だ。
「ここは私の城だ」
「堕天の居城……」
「私の城の名前そんなかっこいい風に呼ばれてんの?」
なにその堕天の居城って。超かっこいい。
「なぜ俺の手当てをした」
「殺したくはなかったからだ」
「……嘘だな。何か魂胆があるのだろう」
「ない。私はもう誰も殺すつもりはない」
「…………」
疑いぶかい目をしている。
ああ、推し素敵。私は推しに心を溶かされている人間。私は推しの顔を見て思わず。
「……好き」
「……好き?」
「えっ、あっ、なんでもないでふ」
「なんでもないでふ?」
思わず好きという言葉が口から漏れ出てしまった。
かっこいい。イケメンで仲間想い。性格がいいイケメンなんてこの世に存在するだろうか。
性格のいい不細工か、性格の悪いイケメンしか存在してないと思っていたが、実在した。
「お前なんなんだ」
「あなたのファンで……堕天使です」
「ファン? 俺の?」
「えっ、あっ、違わないけど違います」
「どっちなんだ」
ダメだ。推しを前にしてるとどうも脳が溶ける。脳が焼けこげるぅ。
もう、素直になろう。だって異世界だし。推しと結ばれてもいいはずだ。ゲームの設定ではエビル公爵には婚約者がいない。
厳密にいうといるにはいたが、破談になった直後なのだ。
だから……。いない、はず。恋人は。
「とにかく、俺に何をするつもりだ。殺すつもりか?」
「いや、ただ毎日顔を眺めさせてくれるだけでいいんで……」
「顔を……?」
「こほん。私はもう、人間を襲うつもりはない。だから……その、許してくれとは言わないので、私の恋人になってください」
「……は? 今なんて言った?」
「恋人になってください。……きゃーっ! 言っちゃった言っちゃった! 推しに告白しちゃった!」
異世界に転生した権限ですなァ! 推しに告白できるのも、推しに振られるのも。……いや、振られる前提なのはダメだろ。
十中八九振られるだろうけどな。だって目の敵だもんな。なんで目の敵にされてるかは分かんないんだけどな。
「……おい。俺と付き合ったらほかの騎士やほかの国の奴らには手を出さないと誓うか?」
「誓います」
「えっ、即答……」
「でも、無理して私と付き合わなくてもいいからね。ほかに好きな人がいるなら私は身を引くし……」
「いや、いないが……。破談になったばかりだしな」
「そ、そう」
「……わかった。付き合ってやろう。俺が付き合うことで平和になるのなら、俺が犠牲になってやる」
「……まじっすか!」
自己犠牲の精神素晴らしい!
いや、ほめたたえるのはダメだろ。要するに私と付き合ったら私は人間を襲わなくなるから平和になるということで、そのために犠牲になるってことだろ?
うわー、複雑……。付き合ってくれるのは嬉しいんだけど、そういう自己犠牲の精神で付き合ってるって。そこに愛はあるんか?
「ぐぅうう……。人類の敵であるならば仕方ないっ! それでもいいので付き合ってください……」
「なぜ葛藤してるんだ」
「いや、付き合わなくても人を襲わないので付き合うか付き合わないかは本当に自分の心で決めてください……。心が痛いので……」
「心が痛い……?」
やっぱだめです。
交際はお互いの合意があってから。そこまで落ちぶれるほどクズじゃないんです。
「…………」
「あの、本当に人を襲わないって約束するので……。自分の気持ちで決めてください……」
私がそういうと、推しは少し悩んだ顔をしていた。
自分が好きな人と付き合いたいというのはあるのだろう。自己犠牲の精神で付き合うより、自分の気持ちで付き合いたいを優先するはずだ。
だがそれ以上に。
「お前……本当に何を考えている?」
「…………」
「俺が知っているルシファーは容赦がなく、人を笑顔で殺すようなやつだった。冷酷な笑いを浮かべ、人を見下す奴だ。だが、そうは思えない」
「…………」
「何を考えている? 何をしようとしている? 俺の知っているルシファーではない」
「…………」
「答えないか。わかった。では、付き合うのはお前の言葉通り撤回しよう。だが……しばらくは監視させてもらう。それでいいだろう? 人を本当に襲わないか、監視を置く」
「はひ」
仕方ないことです。
でも、なんで私そんなイメージ持たれてるんだろうな。
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