第3話

 私の城があるのは元ワーデル帝国跡地の城。

 昔は帝国が栄えていたらしいが、滅亡、城だけ残りほかは解体されたというので、大金はたいて城を買い取り拠点にしていた。

 もちろん、エビル公爵様がいるフレズベルグ王国はちょっと近い。


 城から出ると、たしかに異世界であろう光景が目の前に広がっていた。

 青々とした爽やかな風が吹きつける草原に羊の魔物、ラムチョップが走っている。ラムチョップは弱い魔物……と思うが、実は強い。割と終盤に出てくる魔物なのである。


 あんな可愛い顔して強いんだよな。

 私は翼を広げ、王都までとりあえず飛んでいったのだった。早い。飛行スキルはレベルを上げるほどものすごく早く飛べる。が、飛行するとMPが減るんだよな。まぁ、レベルを極めたからMPは消費されなくなってるんだけど。


「異世界だ」


 私は王都に降り立つ。

 王都には確かに人がいた。王都に降り立つと、人々が突然逃げ惑っていた。なぜだろうと思いつつ、眺めていると兵士たちが私を取り囲む。


「都民の避難を優先させろ! 我々は足止めだ!」

「堕天使に怯むな!」


 なんで剣を向けられてるんですか?

 私は手を上げ、兵士の様子をうかがう。たしかに格好はフレズベルグ王国の兵士の格好だ。だが、私を敵視している。なぜ?

 騎士の一人が私に切りかかってきた。が、剣が体に当たったにもかかわらず、傷一つつかない。


 よわ……。


「待って。私は何も……」

「……喋り方が変だ。ルシファーかこいつは」

「……喋り方?」


 あー、もしかして。

 あの痛いときに話していたのはめちゃくちゃ尊大な話し方。本当にロールプレイをやっていて、尊大な話し方でいつもチャットしていた。

 痛々しい子だったから誰もが避けていた。


 もしかしてそんなしゃべり方でいないとルシファーじゃないってこと? なんかルシファーなのに本物と思ってもらえないのはそれはそれでいやだ。

 仕方ない。


「私は何をしに来たつもりではない。見に来ただけだ」

「…………」

「人間は話し合いができる種族だ。剣を納め話し合おう。私はフレズベルグ王国を襲うつもりはない」

「それはどうかな」


 と、背後から声が聞こえる。

 振り返ると、鎧を着て、腰に剣を指した……。


「推しだ……」


 推しであるアードロイド・エビル公爵が剣を構えて立っていた。

 エビル公爵は強い。そりゃゲームが配信開始して5年目くらいに出てきたキャラだからそりゃインフレについていけるような性能になっている。

 人間から敵視されている私、もしかしなくても私を敵視しているのは推しでも変わらないだろう。


 リアルで見るとマジで顔いいな。優男フェイスが私のメス心を刺激する。


「堕天使ルシファー。なぜやってきたのかは知らないが……。ここで討伐させてもらう」

「……推しに名前呼んでもらえたぁ」

「推し……?」

「こほん。私と戦うつもりか? 私は人を殺したくはないのだ」

「たくさん人を殺しておいて何を言うか……! 貴様のせいで失った命に弔いを捧ぐため、アードロイド・エビル、参る!」


 剣を振りかぶる推し。

 私の肩に剣がめり込んだ。痛い。だが、推しに攻撃されるのは嬉しい。が、でも死にたくないから抵抗しなくてはならない。

 なるべく殺さないようにしなくては。


 私は魔法を唱える。

 

「ダークスパイラル」


 闇の弾が放たれる。

 推しに着弾し、推しは吹き飛ばされた。私は天使の施しで自らを回復させる。


 推しは当たり所が悪かったのか、そのまま気絶した。

 兵士たちは一撃でやられた推しを見て青ざめている。これ私悪者にみえてるよなぁ。

 推しにけがを負わせてしまったのも心が痛い。手当してあげ……。


 と、私には少し嫌な心が芽生えてしまった。

 城に監禁すれば推しの顔、見放題じゃね?と。いかんと思いつつも、私は考えるより先に体が動いていた。

 推しを抱え、空を飛ぶ。


 ごめんなさい。悪気はないんです。

 私はそう思いながら、気を失った推しを城に連れ込んだのだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る