(8)


 運動神経のない葵にアレクサンダーを追えるかと心配したが、ある意味目立つ男なので通りすがりの人に聞き込みをすると、大体の道順を知ることが出来た。何故か葵は同伴者とはぐれた迷子に間違われたが。

 アレクサンダーの様子からして、茉莉に何かあったのは間違いない。平和に見える世界でも犯罪者はいるだろうし、この世界の生まれの人間とは葵も茉莉も微妙に顔立ちが違う。だから、例えば誘拐犯が目をつけるに足る理由に成り得るのだ。

 アレクサンダーの姿を探して駆けながら、重苦しいものが胸の内で広がる。

 茉莉が誘拐されたのだとすれば、そのきっかけを作ったのは他でもない葵だ。アレクサンダーは無理でも、葵ならば茉莉も付き添いを承諾したかもしれない。

 この世界ではたった二人の異世界人なのだから、もっと気を配るべきだった。


 アレクサンダーを追う内に店も家も少なくなって行き、菜園や畑がある一角を抜けると、やがて森とまではいかないが、木々が立ち並ぶ場所まで辿り着く。

 一旦立ち止まって切れ始めた息を整えてから、ゆっくりと薄暗い中へ踏み入る。周囲に気を配りながら進むと、前方に開けた場所と、その中央に木造の建物が見えた。

 そしてその手前の木陰に、片膝を着いているアレクサンダーを発見する。

 ほ、と息を吐き、しかし大声を上げるのは駄目だろうと判断して、ゆっくりと彼に近づいた。十分声が届く距離になってから、抑えた声を出す。

「アレックスさ――」

 次の瞬間、首筋に冷気を感じた。

 何が起きたか理解出来ず瞬きをすると、アレクサンダーがこちらを向いており、片膝を着いたままで腕を振った姿勢になっている。

 更に一瞬後にアレクサンダーははっとした顔をして、即座に腕を引いた。葵の首を撥ねる寸前の位置にある、剣の刃ごと。

「っ……あ……」

「すまん、敵と間違えた」

 申し訳なさそうに言い、剣を鞘に納めるアレクサンダーだが、葵はその場に蹲る。遅れてやって来た恐怖で、膝が笑った。

「だ、大丈夫か?」

 アレクサンダーが慌てて葵の傍に来るが、彼を責める訳にはいかない。葵はなんとか笑みを浮かべ、アレクサンダーに言った。

「……大丈夫です」

「顔色が悪い」

 そりゃ悪いだろうさ、と自嘲気味に思ったが、なにはなくとも茉莉だ。

「あの、高橋さんは?」

 問うと、アレクサンダーは少し遠くに見える建物を指す。小声で。

「悪漢に捕まってあそこにいるようだ。どうも、俺に恨みを持つ奴がやったらしい」

「恨み?」

 葵が小首を傾げると、アレクサンダーは腕を組んで沈痛な面持ちで頷く。

「ああ。少し前、夜道で俺に襲い掛かって来た輩がいたから、全員の両腕を切り落としてな」

「そ、そうですか……」

 さらりと言うアレクサンダーに、なんとなく相手の方が可哀そうに思えて来たが、茉莉を巻き込むのは許せない。

「アレックスさん、これからどうしましょう」

 葵が問うと、言葉に込められたものに気付いたらしい。アレクサンダーが眦を吊り上げて、厳しい声を出した。

「マツリは俺がなんとかする。アオイは安全な場所で待っていろ。応援は要請しているが、恐らくここに来るまでに小一時間はかかる。マツリを連れて移動される前に、ここで叩く」

「一人でやる気ですか。早くしないといけないなら、人数は多い方が良いでしょう。僕は非力ですが、出来ることはあるはずです。足手纏いにはなりません」

 アレクサンダーの指示に即座にそう返し、腰の後ろに装着しているスタンガンを取り出す。

「自分の身は自分で守りますから、僕がすべきことを指示をして下さい。『安全な場所にいろ』以外で」

 きっぱりと言うと、アレクサンダーは色の違う瞳を瞬かせ、気圧されたように僅かに身を引いた。

 それでも葵がアレクサンダーをじっと見つめると、アレクサンダーが嘆息する。珍しく呆れたようだ。

「……君を置いて行って何をするかわからないなら、指示に従ってくれる方がまだマシか……」

「そうそう」

 理解したか、と葵が微笑みながら頷くと、頭頂部に肉厚の掌が乗せられた。そして軽く髪を掻き回される。葵がアレクサンダーを見ると、彼は目を細めた。

「では、君にも協力してもらう。だが、自分の身の安全を最優先に考えること。これだけは必ず守ってくれ」

「はい!」

 葵が大きく頷くと、アレクサンダーは仕上げのようにぽん、と葵の髪を軽く叩いてから手を離した。


 遠目でも、建物の周囲には見張りと思われる二人分の影が見えたので、まずは見張りをなんとかする、とアレクサンダーは言った。

「俺の後を連いて来い。少し距離を置いて、静かに。数歩ごとに後方を確認しながら動け」

「はい」

 アレクサンダーの声色が変わったので、やや緊張気味の葵の首肯を確認すると、彼は身を屈めて木陰を飛び出した。葵も一拍遅れで走ったが、アレクサンダーとはあっという間に引き離される。

 建物の陰から一人の男が姿を見せ、アレクサンダーを見てぎょっとする。が、男が声を上げようと口を開けた瞬間、アレクサンダーが走りながら抜剣し、流れるような動きで刃を一閃させた。

「がっ……!」

 次の瞬間、男が掠れた声を上げて喉に手を当て、崩れ落ちる。それを横目に、アレクサンダーは建物の外壁に沿って素早く走り、もう一人の見張りも同様に、一瞬で喉を裂いて無力化した。

 葵は生まれて初めて見る、目の前で行われた殺人に青褪めるも、茉莉の命がかかっていると判断した末だと理解し、葵に手で合図するアレクサンダーに駆け寄る。

 片膝を着く姿勢になったアレクサンダーに葵も倣って身を屈め、問うた。

「だ、大丈夫ですか?」

 思わずの質問だったが、彼は僅かに驚きを見せて苦笑する。足元に生えているやや大きめの草木の葉を千切り、それで剣の血糊を拭いながらだから、どこか現実味がない。

「顔色が悪いぞ」

「ちょっと……びっくりしただけ……です」

 正直に言えば、僅かに吐き気も込み上げて来ていたが、それだけを言う。

 葵が邪魔になると判断されれば、アレクサンダーは葵を置いて行くだろう。それは御免だった。

 そんな考えが透けて見えたのか、アレクサンダーは葵の背中をぽん、と軽く叩き、上を見上げる。

 建物は恐らく二階建てに相当するが、窓は二階に位置する高さにしか伺えない。もう誰も管理してない建物らしく、窓はところどころ割れたりと完全な密室ではない。

「アオイ。俺が持ち上げるから、一度中の様子を見てくれないか。敵が一階に集中しているようなら、そのまま葵だけ二階から侵入して欲しい。ただし、身を潜めて動かないように」

 そんなことをあっさりと言うアレクサンダーに、葵は更に青褪めた。

「作戦には従いますが、遠くから魔法で一気に解決とかは無理なんですか?」

「俺の使う魔法は結構大雑把だから、一気に片付けようとしたら、マツリもろとも殲滅になる」

 あっさりとそんな恐ろしいことを言うアレクサンダーに、魔法も意外と不便なんだな、と思った。

 葵の考えをまた表情から読んだらしく、アレクサンダーは頬を掻く。

「正直な話、俺は召喚獣の魔法を完全には使いこなせていないんだ」

「え、そうなんですか」

「相性がいいから魔法を自在に使えるが、制御となるとまだ足りないらしい。少なくとも失敗はしないからマシだが……何が足りないのかは、聞いても教えてくれないしな」

「へえ……」

 などと、のんびりと会話してしまったが。

 アレクサンダーはそれで一息付けたらしく、腰を上げて壁際に並んでいる樽に目をやると、それに近付いた。

 窓のある位置を見ながら樽を移動させ、葵に手招きする。そして、葵が来ると身を屈め、葵の両膝を抱えてから立ち上がった。

「っ……!」

 茉莉の身の安全がかかっているので奇跡的に悲鳴を堪えたが、アレクサンダーが更に樽の上に乗ったので、思わず呻きが漏れる。高所恐怖症ではないが、不安定さが怖いのだ。

 なので、目の前にガラスがなく木枠だけがある状態の窓が現れると、葵はそこにしがみつき、一応気配を探ってから中に入り込んだ。

 海外ドラマなどでよく見るような内部で、二階部分の中央は四角くぽっかりと開いていて吹き抜けとなっており、木箱や樽が適当に置かれている。

 人の気配と話し声はすれど、全員が一階部分に集まっているようだ。

 葵はとりあえず入り口となった窓枠から顔を出し、下にいるアレクサンダーにハンドサインで状況を説明した。アレクサンダーも正しく読み取り、「自分は正規の出入り口から行く」とやはり手を使って伝えて来る。

 恐らくだが、アレクサンダーが姿を見せて敵の注意を引いている内に、葵が茉莉を確保して逃げる、といった作戦なのだろう。人質がいなければ、アレクサンダーも好き放題動くことが出来る。

 葵は木の床に伏せるようにして、耳を床に着ける。下手に動いて床が軋む音がすると、侵入に気付かれる懸念もあったからだ。

 アレクサンダーが動くのに併せて行動しなければ、運動が得意とも言えず力も弱い葵が第二の人質になる可能性もあり得るので、息も潜めて透明人間になる努力をしていると、扉が開く大きな音がした。

 こういった建物は、家畜を入れておくこともあるだろうから、出入り口は両開きでかなりの大きさのはずだ。裏口くらいはあるだろうが。となると、今開いた扉はアレクサンダーが向かうと言っていた方に違いない。

 悪漢の一人が出て行ったなら、アレクサンダーと鉢合わせにならなければ良いが、と案じたところで、閉じたばかりのはずの扉が、また開いた音がした。そして、

「うわあっ!!」

 悲鳴と何かが倒れる音に続いて、

「アレックスさん!!」

 葵のいる場所の真下から、茉莉の声が聞こえた。位置からして扉から一番離れた場所の、壁際にいるらしい。

 一気に騒がしくなったので、これなら動いても大丈夫と四つん這いで階下が望める場所に行くと、外から放り込まれたらしい男が倒れており、出入り口の前には、やはりアレクサンダーがいた。

「その娘を返してもらう」

 そう言って剣を構え、二階にいる葵にちらりと視線を投げて来たので、片手でOKサインを送った。それを見たアレクサンダーが、満足げに小さく頷く。

 一瞬のやり取りには気付かなかった男達が、それぞれ声を上げた。

「兄弟の腕の仇、取らせてもらう!」

「ぶっ殺してやる!!」

 などと定型文を叫んでいるが、アレクサンダーが落ち着いた声を返した。

「たった四人で、俺に勝てると思うのか。愚鈍の輩が」

 成程、賊は四人か、と葵は頭を巡らせて、一階に降りる階段を探した。が、階段を使うと茉莉から離れてしまう。

 さてどうしようかと思案したところで、アレクサンダーに投げられていた一人が立ち上がり、長剣を構えてアレクサンダーに突進する。

「てやああ――っ!!」

 雄叫びを上げる敵とは対照的に、アレクサンダーは僅かに剣を持つ手の位置はそのままに、半身を引いただけだった。

 一瞬後にキン! と鉄同士が十字の形で打ち合わさって火花が散ったが、アレクサンダーの剣は僅かに振動しただけだ。敵は唸り声をあげて力任せに押しているが、微動だにしない。

 そして、アレクサンダーの足だけがじりじりと動き、重心がさりげなく変わった直後。

「ふッ!!」

 アレクサンダーの口から鋭く細い呼気が漏れた瞬間、アレクサンダーの剣が横から縦へと構えを変え、更には思い切り上方に跳ね上げる。受け止めていた剣ごと。

 派手な音を立てて敵の剣が宙を舞い、剣先が弧を描く。それを敵が呆気に取られて見上げた隙に、アレクサンダーが一気に踏み込み、敵の右肩から左脇腹へ抜ける形で、剣を振り切った。

 血飛沫が舞い、アレクサンダーの剣が朱に染まるも、アレクサンダーはあっさりとそれを捨て、重力に従って落ちて来た敵の剣を難なく掴む。同時に、既に息のない男の身体が、アレクサンダーの足元に落ちた。

 アレクサンダーは目の前の死体を一瞥もせず、剣をまた構える。

「次」

 無表情で発せられた挑発に、男の仲間がいきり立つ。そして、アレクサンダーのように構えもなく、ただ武器を持ってアレクサンダーに突進して行った。アレクサンダーは足場の確保のために数歩下がって距離を取ったものの、迎え撃つ姿勢を崩さない。

 アレクサンダーに向かう男の人数を数え、それが三人と見ると、葵も動いた。男達が茉莉の存在を忘れている隙に、二階の柵を越えて縁にぶら下がり、なんとか一階に降り立つ。やはり茉莉は真下にいたらしく、壁際に縛られた状態で座り込んでいた。

 顔色は悪いが、パニックを起こすほどの混乱はしていないようなので、そこにはほっとする。

「古賀君……!」

「シー」

 声を上げる茉莉に人差し指で黙るように言い、身を屈めて駆け寄る。そして茉莉の傍に片膝を着くと、茉莉を縛っているロープを確認した。

「ちょっと待ってね。何か切るものあるかな」

 言いながら周囲を見渡すと、茉莉が言った。

「ポケットの中に、ソーイングセットが入ってる。小さな鋏があったはず」

「わかった」

 言いつつ、アレクサンダーの方を確認すると、やはり三対一ではやり辛いらしく、苦戦ではないが身動きが取れない様子だ。

 逆に言うと、葵と茉莉が離れさえすれば、魔法で一網打尽に出来るだろう。

 葵は茉莉の着ているワンピースのポケットに手を突っ込み、ソーイングセットを取り出した。明らかにこちらの世界のものではないので、向こうの世界から持って来たものを、一応持ち歩いていたらしい。

 所詮糸程度しか切ることのない、おもちゃのような鋏だったので、頑丈な縄を少しづつ切るしかない。それでも一部を切断すると、あっという間に茉莉の手が自由になる。

「立てる?」

 葵が茉莉の手を取って立ち上がったところで、アレクサンダーと打ち合っていた男達の一人が、こちらを向いた。

「てめぇ……!!」

 身を翻して葵達に向かって来る男を見て、葵は咄嗟に茉莉の前に立ちはだかり、スタンガンを取り出した。そして、多少の怪我は覚悟の上で、男の動きを読んでスタンガンを押し当てようとした――のだが、その瞬間、アレクサンダーの脇腹の傷が脳裏に浮かぶ。

「っ……!」

 一秒にも満たない躊躇が葵を硬直させ、そして、

「アオイ!!」

 アレクサンダーの怒号に近い声が聞こえた瞬間、葵に向かって来ていた男の後頭部から突き抜けた剣先が、男の額に現れた。

 その勢いのまま、男は頭部に刃を生やしたまま葵と茉莉の横をすり抜けて突き進み、更には剣で壁に頭部を固定されて絶命する。葵と茉莉の頬に、熱を持った鮮血が散った。

 茉莉が呆然と間近で男の死体を目にし、彼女の顔から一気に血の気が引く。ひゅ、と細い喉から息が漏れた。

「――高橋さ……!」

 手を伸ばしたが遅く、茉莉は意識を無くしてその場に崩れ落ちる。こうなっては、葵一人では運べない。

 アレクサンダーを見ると、武器を投げてしまって空手になってしまっても、敵相手に戦っていた。

 その敵が一人なのを見て取り、葵ははっとして残りの一人を探す。と、いた。

 敵の剣を持つ手を掴んで膠着状態になっているアレクサンダーを、少し離れた場所からボウガンで狙っている。最初は剣を持っていたが、他の武器を隠していたのだろう。

「やめろ――!!」

 無意識に、駆け出していた。

 アレクサンダーが武器を失ったのは自分の所為だとか、そういう責任感などなかった。身体が勝手に動き、ボウガンを構える男に向かって走る。男がはっとして葵を見、ぐるりと身体の向きを変えた。アレクサンダーから葵へ。

 バン!! という激しい音がしたが、その正体を探る前に全身に衝撃が走る。両足が宙に浮き、背中から地面に倒れた。

 背中と後頭部に痛みが走ったが、それよりも呆気に取られる。

「えっ?」

 両肘を地面に突いて上半身を起こすと、自身の脇腹から突き出している棒状のものが見えた。そこから溢れる、赤黒い液体も。

「あ……」

「アオイ!!」

 アレクサンダーの声が聞こえたのでゆっくりと顔を向けると、アレクサンダーが呆然とこちらを見ていた。そして次の瞬間、アレクサンダーの髪が深紅に染まり、結っていた髪が解ける。

 炎のようだ、とぼんやりと思ったところで、アレクサンダーと組み合っていた敵が燃え上がり、一瞬で炭となった。

 アレクサンダーは炭となった敵の手から剣を取ると、葵の横を擦り抜けて歩いて行き、ボウガンを持った男に向かう。

 その時には葵は倒れていたので、斜めになった光景しか見えなかったが、葵を撃った男が震え上がってボウガンを取り落とし、アレクサンダーに何か必死に言っている。

 が、アレクサンダーは剣を一振りし、男の首を身体から分断させただけだった。



 そこからはよく覚えていないが、時折目を覚ますと誰かに抱えられて移動している振動しか感じなかったり、頭上で誰かが話し合っている気配だけを感じたりと、どこか茫洋とした感覚ばかりだった。

 そして、ぼやけた視界の中に、アレクサンダーの顔が見えた。

「必ず助ける。俺を信用してくれ」

 と言われたような気がする。それに頷いた気もするが、よく覚えていない。

 言われなくても信用してるんだけどな、と思ったことだけは確かだ。



 そして目を覚ますと、男子寮の葵の部屋だった。

「ん……」

 これは死後の世界ではなさそうだ、と思いながら、毛布の下で自身の腹に触れる。包帯が巻かれているが、撃たれたのが嘘のように痛みはない。

 その時気付いたのだが、服は全て脱がされ、裸の状態で寝かせられている。怪我の治療もあるし、血塗れだっただろうから仕方ないが。

 と、アレクサンダーの顔が見えた。

「アオイ、良かった」

 ほっとした顔をするアレクサンダーをじっと見ると、その視線の意味を察したらしく、アレクサンダーは葵から僅かに視線を逸らす。

「済まない。医師に診せる為に服を脱がせた。治癒魔術で怪我は治せたが、血を大量に失っているのまではどうにも出来ないから、少しの間安静にしていてくれ」

「……はい」

 葵が素直に頷くと、アレクサンダーが身動ぎをする。聞くべきかどうか迷っているのだろう。

 だから、葵から切り出した。

「僕の身体、見たんですね」

「…………済まない」

「いえ……」

 首を振ってから息を吐くと、アレクサンダーは静かに問うて来る。躊躇いがちに、戸惑いをどこかに逃がそうとしてか、首筋に手を当てて。

「その……君の世界の人間は、皆……マツリもああなのか?」

「いいえ」

 また首を振り、今度は自分から言う。


「数千人に一人……もしくはもっと低い確率で生まれて来る、男であり女でもある存在。僕は……両性具有者なんです」



■第二章/秘密:終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る