思わぬひと言

共演出来たら

パパの和真かずまとママの実夢みゆの休みが被ることはそれ程多くない。理由としてはパパの和真かずまが働いているのは鉄道会社、ママの実夢みゆが働いているのはバレエ講師兼バレリーナを生業なりわいにしていた。


それはすなわち普通の人が働いている時に仕事が多く、ママの実夢みゆに至っては講師としては平日、バレリーナとしては土日に発表会やコンクールといった興行が行われるからだ。


ママの実夢みゆは双子の萌夢もゆ光織みおりを妊娠が分かるまでは生徒たちの見本となるように精力的に参加していたが、妊娠が分かって双子の萌夢もゆ光織みおりを産んでからは体調や身体のキレを見つつ参加をするような日々を過ごしていた。


娘の柚希ゆずきはある思いをいだいていた。それはパパの和真かずまの鉄道会社「いすみ鉄道」の沿線でママの実夢みゆがバレリーナとして舞う姿を見てみたい。間接的ながら夫婦の共演に期待をしていた。


晩御飯を食べている時にその話をするとパパの和真かずまは上を向きながら腕を組んでいた。

「いすみ鉄道はローカル線だからな……。大手私鉄みたいに電車賃だけで運営出来るわけじゃないし、お弁当やグッズを作って春には映えスポットとして人を集客してるくらいだからね〜。ホールや公会堂あるか他の人に聞いてみるね。あっても小規模だと思うよ」


何年「いすみ鉄道」に務めているのかと自分を責めていたパパの和真かずま。娘の柚希ゆずきに質問されたことを答えられない。


それも自分の働いている「いすみ鉄道」の沿線に関することなのに。もっと勉強しなくてはと改めて実感した。


先輩に「いすみ鉄道」沿線にホールや公会堂みたいなものがあるかを電話で尋ねた。


「どれくらいの規模なのかにもよるけど1つ目に大原おおはら駅を降りて歩いて10分くらいの場所にあるいすみ市大原文化センター。2つ目に国吉くによし駅から歩いて20分強の夷隅いすみ文化会館。3つ目に上総中川かずさなかがわ駅から歩いて20分弱の大野下区農村共同会館があるかな。あることは知っているけど行ったことないからキャパや大きさは不明」


忙しい時間に電話をかけてすみませんと言って電話を切って再び考え込むパパの和真かずま。するとママの実夢みゆがやって来て声をかけた。


「ママはバレリーナとして踊る時、どのタイミングで知る?柚希ゆずきがさっき言ってた沿線のホールでママがバレリーナとして舞う姿を見たいって言っていたでしょ?あるにはあるらしいけど行ったことないし、キャパや大きさは分からないって言っていてさ……」


ママの実夢みゆ何て答えるのかなと思っていたが、返ってきたのは意外な回答だった。

「基本的に私たちバレリーナも会場に行って始めて大きいな、どれくらいの収容人数なのかなって思っているよ。大きい場所でかぞえるくらいしか人がいなかったら寂しい気持ちを感じつつも自分の演技をしている感じかな」


思えば学生時代、遠征で大分おおいたから他県に行くのは当日。前もって下調べをするために行くには時間とお金がかかりすぎるのかなと当時を振り返っていた。


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