第8話 Pure feeling(8)
あゆみは仕事を終えて帰宅した。
『ルシエ』に出るときは帰る時間が2時を回るので、いつも簡単にシャワーを浴びて化粧を落とすだけで寝る仕度をする。
もうとっくに有吏は寝ているので、起こさないように静かに仕度をするのがクセになった。
その時、携帯のバイブが鳴った。
静かだとバイブの音もうるさいので慌ててバスルームに入って通話ボタンを押した。
「結城さん? どうしたんですか、こんな時間に・・」
あゆみは声を潜めてそれに出た。
「ああ。 もう帰ってる?」
「え、ええ。さっき。」
「今日。 他にもおれに言いたかったことがあったんじゃない?」
いきなり少し怒ったようにそう切り出され戸惑った。
「えっ・・」
「なんか。 信用されてねーなーって。 ちょっと寂しかったよ、」
そして、少し甘えたような声になり。
「な・・なんですか。 いきなり。 あたし、別に・・」
あゆみはそんな彼に戸惑った。
「・・イベントコンパニオンの仕事辞めて他探してんの?」
またもドキンとした。
ここのところそれに代わる仕事を探していたのだが、なかなか見つからず
またいっそのこと年齢を詐称したりしようか、とまで思っていたのだった。
「まあ確かに。 こういう仕事は年齢が引っかかってくるってこともあるかもだし。 きみのその容姿なら普通の仕事よりもこういう仕事のが稼げるから。」
「とにかく。 仕事がしたいんです。 それだけなんです、」
「困っているなら。 相談してくれても、」
彼の言葉に
「ありがとうございます。 でも・・」
あゆみはその後の言葉が告げられなかった。
どうしてそこまで自分を心配してくれるんですか。
でも
彼とのこのあやふやな距離をどうしていいかわらからず
この言葉を言ったら、いったいどうなってしまうのかと少し怖かった。
「明日。 休みだろ? 夜7時。 会社の下のラウンジで待ってて。」
「え? は?」
いきなりの強引な約束にあゆみは我に返った。
「じゃあ。」
一方的に電話を切られた。
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