第15話 プロデュース


「はぁい! 心ちゃんの携帯電話だよぉ? どしたかなぁ?」

「心、俺だ……。杉田だ……」

「…………っち。なぁんだ。先輩でしたか。声作って損しました」

「はぁ……相変わらずだなぁお前は」


 俺が電話した相手は、九重心。

 かつて同じダンジョン庁で働いていた、元同僚だ。

 心は昔ダンジョン庁で働いていた。

 彼女は趣味で、ダンジョン配信をやっていた。

 もし彼女がまだダンジョン庁にいれば、俺でなく彼女が講座動画をとっていたかもしれないな。

 彼女はそのくらいダンジョン配信が大好きだった。


 そして彼女はあるとき、ダンジョン配信で一山当てたのだ。

 バズりまくった彼女はダンジョン配信として大成功し、ダンジョンアイドル心ちゃんとしてブレイクした。

 ダンジョン配信者になった彼女は、無理に働く必要もなくなり、退職したのだった。

 つまりはまあ、ダンジョン配信者としては俺の先輩だ。

 ちょうど俺と同じような経歴を持っているので、彼女にきけばなにかと勉強になるだろう。


「かくかくしかじかで……ということなんだ」


 俺は心に、事の顛末を説明した。


「なるほど……まあ、ニュースとかを見て、先輩がバズってるのは知っていましたが……。思い切りましたね。金玉の小さい先輩に、公務員をやめるような度胸があるとは思いませんでした。まさかあの先輩が自ら安定を捨てるとは……しかも春日さんと離れ離れになってまで……」

「こら……女の子が金玉とか言うんじゃありません」


 まったく、本当に相変わらずだなコイツは……。


「それで。私になにを教えてほしいんですか……?」

「ダンジョン配信者として成功する方法だ……! 俺をプロデュースしてくれ! あと動画の編集も教えてくれぇ!」

「はぁ……注文が多いですね。まるで料理店ですか。まあいいでしょう。かつてお世話になった先輩です。私が手取り足取り教えてあげましょう」

「ほんとか! ありがとう!」


 ということで、俺は作戦会議のために、心とファミレスでお茶することにした。

 近所のファミレスに集まる俺たち。


「ここは先輩のおごりってことで、なんでも頼んでいいんですよね?」

「ああ、まあ。それでいいよ……」

「わーい、じゃあこれとこれと……」


 マジでどんだけ食うんだこいつ……。

 このちいさなロリボディのどこにこれだけの食べ物が吸い込まれるのか疑問である。


「じゃあ、さっそくお願いします。心先生!」

「うーん、そうですねぇ。まずは……」

「うん」

「その服がダメ」

「えぇ……!?」

「ダサダサですよそれ……。何年前の流行ですか?」

「これ……ダメ……?」

「だめです。そんなんだから春日先輩も振り向かないんじゃないですか?」

「うう…………」


 そんなことを言われてもなぁ……。

 服とかファッションにはめっぽう疎い。

 これまで職場とダンジョンの往復しかしてこなかったからなぁ。

 普段はスーツか防具しか着てこなかった。


「でも、ダンジョン配信者なのに服とか重要なのか……? 普段ダンジョンに潜るときは私服じゃなくて戦闘用の防具だろう?」

「必要あります! ダンジョン配信者はいわば人気職業。人気とイメージがすべてなんです。つまりはアイドルや歌手、タレントのようなものです。それがダサい私服でどうするんですか!」

「まあたしかに……そう言われると一理ある……」

「さあ、これを食べたら服を買いに行きましょう」


 ということで、俺たちは飯をたいらげ、同じショッピングモールの中にある服屋へやってきた。


「よし、この店なんかいいんじゃないか」

「待て」

「え…………」

「なんでそんな安い服屋入ろうとしてんですか。先輩に必要なのはこっちのブランドものです」

「えぇ……て、高……!?」

「先行投資と思ってください。どうせこの先ダンジョン配信でたくさん儲けるんですから、このくらいの出費、文句言わずに貯金から出してください」

「うう……財布が泣いてるぜ……」


 俺は心にいわれるがまま、さんざん服を試着させられては、それを買わされた。

 総額でなんと50万円にもなった。

 だが、やはり高い服は違うというか……。

 馬子にも衣裳……?

 俺は鏡をみて、我ながらほれぼれとしてしまっていた。


「なるほど……これでいいか? これなら人気出るか……?」

「まだ駄目ですね。次は髪型です。それとメンズメイク……!」

「メイクぅ……!?」


 正直、いい歳こいたオッサンがメイクとかなんの冗談だよと思う。

 男としてそれはさすがに抵抗あるぞ。


「なに言ってんですか。芸能人はみんなメイクしてるんですよ? カメラに映る仕事をするんですから、コンシーラーくらいは最低限のマナーです」

「そ、そういうものなのか……」

「そういうものです」


 俺は心にいわれるがままに、髪型とメイクを整えられた。

 鏡でみてみると、確かにかなり清潔感が増しているのを感じる。


「おお……これは……垢ぬけってやつか……」

「まあ、少しはマシになりましたね」

「ありがとう……! 心先生! たしかにこれは効果あるわ!」

「ま。まあ私にかかればこんなもんですよ」


 それから、俺は心に言われて、Twitterのアカウントを開設した。

 撮ったばかりの写真をTwitterのアイコンにして、アップロードする。

 すると、すぐにたくさんのコメントがついた。


【なんか杉田かっこよくなってて草】

【加工した? 整形?】

【イケメンで草】

【これは人気でるw】

【イケおじすぎる……】

【惚れたわ……濡れる……】

【あかん、ワイおじさんやのに惚れてまいそうやわ……】

【普通にモテそう】

【これは彼女三人いますわ】

【めっちゃ変わるなw】

【馬子にも衣裳だな】


 みんなに沢山褒められて、俺の僅かだった自己肯定感がアップした。

 ちなみに、イメチェンした写真を春日さんに送ったところ。


【草】


 とだけメッセージが返ってきた。

 なんそれ!

 




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