第12話 テレビ取材


 まさか新聞にまで取り上げられてるなんて思いもしなかった。

 いったい動画の反響はどこまでなんだよ。

 なんだか恐ろしくも感じながら、俺と春日さんが出社すると――。

 なんと俺の席に、テレビカメラが待ち構えていた。

 俺が出勤してくるのを待っていたようで、一斉にカメラを向けてくる。


「あの……! ダンジョン庁の杉田カズさんでしょうか!」

「そ、そうですけど……」

「例の動画について、取材させてもらってもいいでしょうか!」

「えぇ…………」


 これ、いいの?

 俺、今から仕事しなきゃなんだけど……。

 助けを求めるように、春日さんのほうを見る。

 すると、春日さんはいってこいと合図。

 はぁ……取材、受けなきゃだめ?


「まあ、ちょっとだけなら……」

「ありがとうございます!」


 さっそく、俺はマイクとカメラを向けられる。

 なんだかこういう注目を浴びるのは初めてで、緊張するなぁ。


「まず、いろいろお聞きしたいことがあるのですが」

「どうぞ」

「杉田さんは、なんであんなにお強いのでしょうか! ズバリ!」

「なんでって……。俺、そこまで強くないですよ?」

「そんなことはありませんよ。世界最強との呼び声も高いですよ!?」

「ええ!? そんな! 恐れ多いです……」

「やはり強者は謙虚ということでしょうか。ありがとうございます」

「いや、そういうんじゃないですけど……」


「次にお聞きしたいんですけど、杉田さんは今、彼女さんはいますか?」

「いえ……いないです……いたこともないです」

「なんと! テレビの前の美女の皆さん、チャンスですよ! ここに最強の男が、フリーでいます。しかも職業は安定した公務員です! お買い得ですよ!」

「や、やめてくださいよ……」


 そんな勝手にお見合いみたいなことされても困る。

 だいいち、俺には春日さんという心に決めた相手がいるのだ。


「ギルドには入っておられるのでしょうか?」

「いえ……フリーです」

「それはどうしてまた」

「どうしてって、単に趣味でやってるだけだからですよ。副業もできないですし。ダンジョン探索で稼ぐこともできませんしね」

「こんなにお強いのにもったいない……」

「そんなこと言われても……」


 俺はそもそも、安定と平穏を求めて公務員になった。

 ダンジョン探索者なんてばくち打ちみたいな生き方、考えたこともなかった。


「ということで、全国のギルドのみなさん、最強の男がフリーですよ! 勧誘するなら今!」

「いや、勧誘されても入りませんって……」

「ダンジョン配信とかはされてないみたいですけど、今後の予定はありますか?」

「いや……俺はそもそも、頼まれて動画作っただけなんで……そういうのはちょっと」

「そうですか。楽しみにしてるファンのみなさんも多いと思いますけど。残念です」

「はあ」


 そんなこと言われてもな。

 副業禁止だし。

 俺はそもそもダンジョン配信者でもないし。


「それでは、うちからの取材は以上とさせていただきます。ありがとうございました」

「ありがとうございました。……って、うちからの……?」

「はい、他にも5社くらい、取材陣が順番待ちしてますよ」

「なんで……!?」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「はぁ……やっと解放された……」


 それからしばらくして、ようやく昼になったころ、俺は取材陣から解放された。


「おつかれー」

「もう、大変でしたよ……」

「人気者はつらいわねー」

「誰のせいなんですか……」


 春日さんと言葉を交わし、昼飯をかきこむ。


「おい、杉田。国のえらいさんが来てるぞ」

「はい……!?」


 まったく次から次へと、なんなんだ……。

 部長に呼ばれて行ってみると、そこには立派なスーツをきた、いかにもえらいさんという感じのおじさんが立っていた。


「こちら、ダンジョン環境省の峰村さんだ」

「ど、どうも…………杉田です」

「いやあ、君は素晴らしいよ! 期待以上だ! おかげで、ダンジョンでのルールを周知するのに役立った。お礼を言うよ」

「いえ……どうも。お力になれたなら幸いです」

「そこでだ、今から君に記者会見をしてもらいたい」

「今から……!?」

「なに、軽く台本を読むだけだよ」


 これは……断れる空気じゃなさそうだ。

 ということで、俺は連れられるがまま、記者会見に臨むことになった。


 またしても、無数のカメラとマイクに囲まれる。

 ……で、さっき読まされた台本どおりにいえばいいんだよな……?


「これから、ダンジョン庁の杉田カズさんによる記者会見です。どうぞ、よろしくお願いします」


 ――パシャリパシャリ。


「えーっと、杉田カズです。この度はお集まりいただき、ありがとうございました。私から伝えたいこととしては、一つだけです。みなさん、ダンジョンでのマナー、ルールは絶対に守りましょう。そして、なによりも命だけは大事に。ルールを守って楽しくダンジョンライフをお過ごしください」


 俺がそう締めくくると、会場から拍手が巻き起こった。

 ふぅ……これでよかったのか……?

 それにしても、生放送は緊張するなぁ……。


 記者会見から戻ると、先ほどの峰村さんが俺に話しかけてきた。


「いやぁ。記者会見もよかったよ。はきはきしていてね」

「それは、どうも」

「さっきのセリフ、ぜひともダンジョン環境省のテレビCMに使わせてくれ!」

「はいぃ……!?」


 いやそれはきいてない。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 713: 名無しのダンチューバー

 杉田の動画バズりすぎてて草


 714: 名無しのダンチューバー

 でも攻略講座これほぼ詐欺みたいなもんだよなw

 内容まったく参考にならないし


 715: 名無しのダンチューバー

 詐欺田だw


 716: 名無しのダンチューバー

 いや実際詐欺だろこんなの

 CGに決まってるわ


 717: 名無しのダンチューバー

 杉田ニュースにも出てたな


 718: 名無しのダンチューバー

 新聞にも載ってた


 719: 名無しのダンチューバー

 あんまり調子のるなよな?


 720: 名無しのダンチューバー

 無名が急にバズってイキるまでがテンプレ


 721: 名無しのダンチューバー

 いや杉田はそんな小物じゃないぞ

 こいつずっと謙虚だもん


 722: 名無しのダンチューバー

 いや隠れて俺すげええしたいだけでしょ

 絶対わざとだわ

 

 723: 名無しのダンチューバー

 それってあなたの感想ですよね?


 724: 名無しのダンチューバー

 嘘を嘘と見抜けない人にはダンジョン配信を見るのは難しいぞ


 725: 名無しのダンチューバー

 杉田記者会見してて草


 726: 名無しのダンチューバー

 よく見るとなかなかイケメンやな

 イケおじや


 727: 名無しのダンチューバー

 ファーwwwww

 なんか環境省のCMにまで出てるやんwwww


 728: 名無しのダンチューバー

 めっちゃ金もらってそう


 729: 名無しのダンチューバー

 今頃ウハウハやろうな


 730: 名無しのダンチューバー

 こうなったらもう仕事する意味なくね?

 こいつ


 731: 名無しのダンチューバー

 ダンジョン配信者になれよもう


 732: 名無しのダンチューバー

 国からいろいろ制約受けてそう

 しがらみ多そう


 733: 名無しのダンチューバー

 あー

 まあ、この国壊れてるし、しゃあない




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