第11話 世間の反響


 なんだろう……ものすごい視線を感じる……。

 朝、電車で出勤する俺に、ものすごい視線を向けてくる人々。

 俺、なにか変なのだろうか?

 ふと、俺のほうを見ているオジサンと目が合う。

 目が合った瞬間、オジサンはまるでなにも見てませんでしたよと言わんばかりに、さっと目を逸らす。

 嘘つけ、絶対見てたゾ……。

 なんだかこういう反応をされると気分が悪いな……。


 俺が電車を待っていると、後ろから話しかけてくる人物がいた。


「よ……!」


 春日さんだった。


「春日さん……」

「昨日はごめんねー酔いつぶれちゃって。家まで送ってもらったみたいでさ。一応確認だけど、私たち、なんにもしなかったんだよね?」

「な、なにもしてませんよ……!」


 不甲斐ないことに……不本意なことに。

 俺はなにも手出しできないままでした。


「よかったぁ……さすがにこの歳になって一夜の過ちとかしたくないからねぇ。とくに、杉田君とはそういうのはねぇ」

「それ……どういう意味ですか。俺とじゃゴメンってことですか? ちょっと傷つきますよそれは……」

「あ、ごめんごめん。そういう意味じゃなくて。ほら、杉田君って私にガチ恋じゃん? だから、杉田君とは綺麗なお付き合いがしたいなと思って。一夜の過ちとか、そういうノリじゃなくてね?」

「それって……誠実なお付き合いなら俺にもチャンスあるってことですか……?」

「そうねー、まあ、なくはないかなぁ……」

「どっちなんですか……」


 なんだろうか、からかわれているのか舐められているのか、なんなのか。

 でも、不思議とこういう小悪魔なところに惹かれてしまう。

 これが惚れた弱みというやつなのだろうか。

 春日さんの一言一言が、俺に刺さりすぎている。


「運ぶときにおっぱい触ったりした?」

「ぶふーーーー!!!! きゅ、急になんなんですか……! 触るわけないじゃないですか!」

「えぇー? おっぱいくらいなら触ってもよかったのに」

「なんだよそれ! じゃあ触っておけばよかったよ!」

「あはは! 冗談冗談。もう、杉田くんはやっぱおもしろいなぁ」


 もう、なんなのこの人……。

 俺をどうしたいの……?


「そんなことより……。なんだか妙なんですよ」

「妙?」

「すっごく視線を感じるっていうか……」

「あーまあ、そりゃあね」

「え?」

「だって、例の動画。1億回再生されてるからね」

「はぁ…………!?」


 ちょっと待ってくれ。

 それはさすがにきいていない。

 いったいなにがどうなったらそんなことになるんだ?

 動画配信などに俺はあまり詳しくないから、再生数がどのくらいあればすごいのかなど、知らない。

 だけど、さすがにそんな俺でも、一億回がどれだけすごいのかはわかるぞ。


「いったいなにがどうなってそんなことに……?」

「さあ、私もダンジョンにはあまり詳しくないからわからないんだけど……。どうやら、世間的には杉田くんってかなりすごいみたいよ?」

「そんな馬鹿な……」

「切り抜き動画とかもダンチューブにあげられてて、それもかなりバズってるみたい」

「えぇ…………」


 俺なんて、ただ趣味で潜ってるだけの物好きだ。

 お世辞にも、強いだのすごいだのとは言えないだろうに。


「ほれ、Twitterみてみ」

「ファッ!? 」


 春日さんは自分のスマホにTwitterの画面を映し出して、俺に見せる。

 そこには、さまざまな俺に関するツイートが書かれていた。


【杉田カズ、トレンド入りしてるやんw】

【なんであんな強いやつが今まで無名だったんだ?】

【さっそくファンになってしまった】

【切り抜き動画めっちゃあがってて草】

【いやさすがにあんなのCGだろ。俺は騙されない】

【どこであの人の配信見れるんだ?】

【配信はやってないみたいだな】

【Twitterもやってないぽいな】

【マジで何者なんだ】

【謎の人】

【はやくダンジョン配信やってくれ。すぐバズるだろ】

【ダンジョン配信者なったら覇権間違いなしだな】

【うちのギルドに入ってくれないかな】


 とんでもないコメントの数だった。

 マジでトレンド入りしてる……。

 俺はTwitterとかやってないから、全然知らなかった。

 なんでこんなことになってるんだ……。


「ね? すごい反響でしょ? 国のおえらいさんも大喜びよ。まさかここまで動画が拡散されるなんてねー」

「いや、俺が一番びっくりです……」


 いやまあ、確かにソロで深層に潜るやつは少ないかもしれないけど……そこまで騒ぎ立てるようなことか?

 エリクサーさえあれば、別に深層でもそうそう死ぬことないからなぁ。

 それに、俺はヒットアンドアウェイで、ちまちま攻略を進めていただけだし、なにも派手なことはやっていない。

 

 まあ、ダンジョンが世界に現れた初期のころから潜ってるから、多少は強いつもりではあったけど……。

 なんか、世間とのずれを感じてしまうな。

 俺が普段ダンジョン関連の情報をあまり接種しないからだろうか。

 俺はまだダンジョンの攻略法や、配信がないような時代から、独学のみで潜っているからな。

 そのせいで他者とギャップがあるのかもしれない。

 金閣寺ダンジョンには人も少ないし、他のダンジョン探索者との交流もないからなぁ。


 まあ、俺が見た目冴えないオッサンだというのもあるかもしれんな。

 俺みたいなオッサンがダンジョンもぐってるのは、ある意味珍しい。

 今ではダンジョン配信は若者中心の文化だしなぁ。


「まあ。そういうことよ。ほら、有名人じゃない」

「え…………?」


 春日さんは、新聞を読んでるオッサンの方を指さした。

 オッサンの読んでる新聞には、こう見出しがついていた。


【ダンジョン庁の講座動画に、猛者現る――!】

【最強の公務員、その正体は何者……!?】


「もう……勘弁してくれよ……」




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