第10話 大注目


 翌日、出勤した俺は、さっそく撮ったデータを春日さんに渡す。


「春日さん、動画撮っておきましたよ。これでいいですかね?」

「え……? もうとってきてくれたの? 仕事がはやいわね。さすが杉田くん。ありがとう。あとはこっちで適当に編集して公開しておくわね」

「ええ、よろしくお願いします」


 これで晴れて俺の任務も終了だ。

 ちょっとは給料上がるといいけどな。

 さすがにボーナスは盛られるよな……?



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 712: 名無しのダンチューバー

 ダンジョン庁公式の「ダンジョン探索者なり方講座」がヤバすぎる件についてwwwww


 712: 名無しのダンチューバー

 まーじでヤバい

 どうかしてるわ


 712: 名無しのダンチューバー

 お願いだから全部CGであってくれ


 712: 名無しのダンチューバー

 内容がぶっとんでる


 712: 名無しのダンチューバー

 なんでダンジョン庁はこの動画OKしたんだよw

 どう考えてもおかしいだろw


 712: 名無しのダンチューバー

 作り直せwww


 712: 名無しのダンチューバー

 こんなもんが公式であってたまるかw


 712: 名無しのダンチューバー

 杉田カズとかいうオッサンやべえな

 なにもんだこいつマジで


 712: 名無しのダンチューバー

 杉田カズ、ソロで深層まで潜れるやべえ奴


 712: 名無しのダンチューバー

 デュラハンソロ討伐するわ

 無詠唱で魔法放つわ

 複数属性(おそらく全属性)の魔法使うわ

 怪力で筋肉やべえわ

 アイテムボックス持ってるわ

 エリクサー無限に持ってるわ

 魔力の操作えぐいわで

 挙げたらきりがないけど、とにかくヤバい笑


 712: 名無しのダンチューバー

 もう全部の動作が真似できないんよ

 人間卒業しちゃってるのよ


 712: 名無しのダンチューバー

 一番講座とかやったらダメな人間


 712: 名無しのダンチューバー

 映像だけでもう世界トップクラスだとわかる

 海外のSランクでも無理じゃね?


 712: 名無しのダンチューバー

 なんでこいつが公務員やってるのかが一番の謎



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 

 それから一週間くらいが経って、ある日俺が職場にいくと――。

 なにやら職場の人間たちがざわついていた。

 そして、俺が現れた途端、一斉に俺のほうに注目が集まる。

 え……? 俺、なにかやらかした……?


 俺が困惑していると、なにやらご機嫌な顔で部長が近づいてきた。

 いつもは俺に怒ってばかりいる部長がこうもニコニコだと、なんだか不気味だ。


「やあやあ! 杉田くん、すごいじゃないか君! よくやってくれたよ。私も上司として鼻が高い」

「はぁ」


 いったいなんのことやら。

 さっぱりだ。


 すると、同期の女の子も、珍しく俺に話しかけてきた。


「杉田君! すごいです! まさか杉田君がこんなにすごい人だったなんて……! 知らなかったです!」

「はぁ……どうも」


 俺にはさっきから、なんのことやらまったくもってわからなかった。

 困惑しながら、自分の席に着く。

 そして、隣の春日さんに話しかけてみる。


「なんなんですか……コレ……」

「お! 杉田くん! 時の人のお出ましね!」

「いやだから……なんなんですか?」

「それがね、この前頼んでいたダンジョン探索者なり方講座の動画、あるでしょう?」

「はい……」

「あれをね、公開したところ、すごい評判なのよ!」

「えぇ……? そうなんですか……?」


 俺は普通に常識的なことを動画にしただけなんだがな……。

 あんな当たり障りのない動画、どこがそんなに評判なのだろうか。


「もう、杉田くんってかなり強かったのね!」

「どうでしょう……? まあ、中の上くらいだとは思いますが……。俺なんて全然底辺探索者ですよ?」

「そうなの? とにかく、今ネットですごい評判らしいのよ!」

「そうなんですか……。なんだかわからないけど……よかったです」

「そう! それで、部署全体に国からボーナスが出るんですって! もちろん、あなたにはたんまりボーナスが出るらしいわよ!」

「おお……! それはうれしいですね……!」

「というわけだから、胸をはってちょうだい! あなたはこの部署の大スターよ!」

「はぁ……なるほど……そういうことですか……」


 だからさっきから周りの視線を感じてたわけか。

 みんな、ボーナスが出るから浮かれているのだ。

 そして、曲がりなりにも俺に感謝しているというわけか。

 普段は俺に怒鳴り散らしてた部長も、手のひらを返したわけか。


「でも……なんでそんなに評判なんでしょうね……?」

「さあ、私もよくわからないけど。あなたの解説が上手だったからじゃないの?」

「そうでしょうか……。あんまり自覚はありませんけど……」

「まあとにかく、そういうわけだから。今回、あなたのおかげで、講座の企画は大成功ってわけ! 国のお偉いさんも、ルールの周知につながったって、大喜びみたいよ。こんど昇進できるかもね」

「それは……うれしいですね」

「そして、私からも特別ご褒美! ね、今晩ふたりで飲みにいかない……?」

「あー…………いいっすねぇ…………」


 俺はデレデレした顔になってしまう。

 春日さんと二人で飲み……最高じゃねえか……。


「もう、鼻の下伸びてるわよ。まだ私、あなたのものになるなんて言ったわけじゃないんだけど? ただ飲みにいくだけよ? 勘違いはしないでね」

「わ、わかってますよ……。それでも、俺にとっては偉大な一歩なんです!」

「はいはい。ほんと、どんだけ私のこと好きなのよ……」

「仕方ないじゃないですか……。惚れた弱みというやつです」


 そう、俺の好意は、春日先輩にはすっかりバレていたのだった。

 だけど、きっぱりと断られたわけじゃないから、まだチャンスはあると思っている。

 実際、こうしてご褒美に二人で飲みにいけるわけだし……!


「まあ、せいぜいがんばりなさいな。私を落とせるようにね……」

「はい! 頑張りますよ! 俺は絶対に春日さんを好きにさせてみせます!」

「もう……恥ずかしいこと言わないでよ!」


 ちょっと照れて赤くなる春日さん、かわいい。

 その日はそのまま春日さんと飲みに行って、お互い酔いつぶれるまで飲んだ。

 俺は酔った春日さんをアパートまで送ったが、なにも手出しはできなかった。

 そう、俺は30代にして童貞の、ヘタレなのである――。


「これでどうこうできてるような男なら、この歳まで童貞やってねえよなぁ……はぁ……」


 俺は酔いつぶれた春日さんをアパートに寝かせて、自分の家に帰るのだった。

 



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