木曜日① 〜和風ハンバーグ〜

 ポチポチッポチ…。

 部屋に一定のリズムでコントローラーのボタンを押す音が響き渡る。

 俺は、某国民的RPGを無心でプレイしている。

 現在行っているのは、敵を倒すと低確率でドロップするアイテムを集める作業。

 そのアイテムを使うと、キャラのパワーだったりのステータスをほんの少しだけ上げてくれる。

 それを、全てのキャラに使えるだけ使って、ステータスをカンストさせてやろうという魂胆だ。

 こういった作業は大の好物、たまには思考停止で作業するのも悪くない。


 何時間経っただろうか。

 部屋が暗くなりだした頃にチャイムが鳴る。

 もうこんな時間なのか。

 インターホンの画面を確認するもなく、開錠する。

 部屋の電灯を灯し、玄関の鍵を開ける。


「曜平センパイ、お疲れ様っス!」


「おうおうお疲れさん」


 勢いよく家に入ってきた子の名前は秋山 咲木あきやま さき

 黒髪ショートに小麦色の肌にジャージ姿の、見るからにスポーティな2つ下の女の子で、近所のジムでスポーツインストラクターをしているらしい。

 咲木ちゃんとはバッティングセンターで出会ったんだが、その辺の話はまあおいおいってことで。


「センパイ!野球中継見てもいいですか?」


「ちょうど俺も気になってたところだ、いいぞ」


「わーい!ありがとうございます!」


 そう言いながら、テレビのリモコンに手をかける咲木ちゃん。

 テレビのチャンネルをお目当てのチャンネルに回してすぐ、咲木ちゃんの叫び声がする。


「ツバメーズ負けてるぅ…」


「今日は先発燃えちゃったな、打線に期待するか」


「ですねぇ…。次の回は田山哲夫から!期待出来ますね!」


「それにまだまだ4回だしな」


 なんて事のない話をしていると、ぐぅーと可愛い音がした。


「てへへ、落ち着いたらお腹空いちゃいました」


「おう、そしたら飯にするか。何が食いたい?」


「でしたら、曜平センパイの和風ハンバーグが食べたいです!センパイの和風ハンバーグって、普段お店で食べるのと全然違う味なんで好きなんですよね!」


「そう言ってくれるのは嬉しい限りだな。そんじゃ、早速作るわ」


「やりぃ!楽しみっス!」


 それでは、調理開始といきますか。

 用意するのは合い挽き肉、玉ねぎ、卵、パン粉、ナツメグパウダー、塩胡椒。


 まずは玉ねぎをみじん切りにし、その内の半分を弱火でバターと共に飴色になるまで炒める。

 飴色になった玉ねぎを冷ましている間に、挽き肉をボウルに取り出して手で捏ねる。

 手の温度が高いと肉の脂が溶けてあーだこーだらしいが、そこまで気にしなくても別に構わない。


 ある程度捏ねたら、飴色になった玉ねぎと、残りの半分の生の玉ねぎと生卵とパン粉を入れて、よく捏ねる、塩胡椒やナツメグパウダーもこのタイミングで適量加えておく。

 洋風のハンバーグを作るのであれば、ここで顆粒のコンソメなども入れても美味いぞ。


 捏ね終わったら、2つに分けて成形する。

 成形の仕方?んなもん適当によく見る感じにやるだけさ。

 フライパンにサラダ油を引き、強火にする。

 いい感じに温まったら、成形したハンバーグを入れる。

 ここで注意するのが、強火なのですぐに焦げてしまう点だ。

 1分もしないうちにひっくり返し、その後は弱火でじっくりと火を通していく。

 蓋はぶっちゃけどっちでもいい。


 ハンバーグを焼いている間に、レタスやキャベツなどの適当なサラダを拵える。

 そして、今回のハンバーグの肝になるソース作りだ。

 生の玉ねぎを擦りおろし、大葉を千切りにしておく。

 それらを酢7の醤油3の酸っぱめの酢醤油にぶち込むだけ。

 和風ハンバーグと言えば大根おろしだが、玉ねぎおろしも非常に合う。


 焼き上がったハンバーグに、この特製ソースをたっぷりと乗せてあげれば完成だ。


「咲木ちゃん、出来たぞー」


「すっごく美味しそうな匂いっス…、早速食べましょう!」


「「いただきます」」


 まずはハンバーグをひと口。

 我ながらいい出来だ。

 あえて炒めていないシャキシャキの玉ねぎも、食感にいいアクセントを与えてくれている。

 やはりハンバーグは玉ねぎを一番美味く食べる料理だと思う。


「美味しい!玉ねぎの甘さがたまらないっスね!酸っぱめのソースなのに、そこまで気にならないのもいいっス」


「大根おろしも美味いけど、玉ねぎおろしも美味いもんだろ?」


「ですね!おっ、倉垣様のホームラン!逆転だぁ!ツバメーズもいい感じですし、尚の事ご飯が止まりませんね」


「流石は三冠王の倉垣様だな。ほらほら、冷める前にテレビばかり見てないで食べちゃおうぜ」


「わっかりました!」


 野球中継もそこそこに、俺たちは無心にハンバーグを食べ進める。

 それにしても咲木ちゃんの食べっぷりは凄いな。

 3合炊いたご飯がもうなくなってしまった。


「「ごちそうさまでした」」


「曜平センパイのご飯、いつも美味しくて嬉しいんですが、女子的には女子力で負けてる気がして複雑っス…」


「女子だから料理出来なきゃいけないとか、時代錯誤だよ。そういうのは出来る方がやりゃあいいんだよ」


「そんなもんですかねぇ、親からは『彼氏はまだか、早く結婚しろ』ってうるさいんスよ!」


「親はどこも同じだな。あんまり気にすんなって」


「センパイもご両親からそういうこと言われたりするんですね」


「そうだな。何なら幼馴染に向かって俺を貰ってあげてくれないかとか言うから、尚の事タチが悪い」


「へぇ、センパイって女性の幼馴染がいたんスね…」


「幼馴染って言っても、腐れ縁みたいな奴だぞ」


 その後、咲木ちゃんは無言で野球中継を見始めた。

 何か気の触ることを言ったかどうかは分からんが、とりあえず換気扇の下で電子タバコを吸いながら野球中継に目を傾ける。


 ツバメーズの勝利を見届けた後、俺は高校野球の頂点を掴むべく、シミュレーションゲームのプレイを始めた。

 咲木ちゃんとああでもない、こうでもないと話しながらのプレイは結構楽しい。

 だが、咲木ちゃんは俺の好きな点はスクイズで無理矢理取り、その後は守り勝つ野球はお気に召さなかったようだ。

 いいじゃん、守備重視野球。


 日が変わる頃までゲームをして、咲木ちゃんを家まで送って行ったところで、ふと思い返す。

 皐月の話をした途端、露骨に不機嫌になられると俺に好意を持っているのかと思ってしまう。

 懐いてくれているとは思っているが、流石にそれは勘違いかな。

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絶品男飯を色んなヒロイン達に食べさせるラブコメ 松本カブレラ @matsumoto_c

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