第16話 Visit my mother.

 月花ママの行方はようとして知れない。

 手掛かりはないが、見つけるヒントは少しだけある。

 細い糸の様な手掛かりを手繰り寄せる為に、私はポータルクリスタルで到着したアクラドシアの中をを進める。


 ママ達が意識不明の時はあまり何も感じなかったのだが、街並み、建物、モンスター、どれを見ても確かに本で読んだ『剣と魔法の世界』に間違いない。

 MMORPGみたいな仮想世界ではなく、人が根付き、魔物が跳梁跋扈する確かな現実世界だ。


 美しい街へ続く橋を渡り、再び王様と謁見をお願いした。

 流石に三回目となると警備員も覚えてくれてるのか王様への謁見が早くなった。



 謁見室へ入ると難しい顔をした王様が玉座で待っていた。

 ニーナ=ティジカも横にいる。

「もしかしてもうママが来ましたか?」

「軽い感じで『ごめんねー!あと娘来たら帰れって言っといてー!』って言うだけ言って去っていったぞ?」

「すみません、うちのママのノリが軽くて…」

「その様子だと帰る気もあるまい?」

「数日毎には帰るつもりですが、神封じを続けていけばママを連れ戻せるかな?と思っています」


「あの二人の娘だからそう言うと思ったぞ。我がアクラドシアは月詠に協力を惜しまぬから何でも言ってこい!」

「あ、例の能力封印の解毒剤、大量に出来たから、丸薬にしておいたよ!持って帰ってね」

 ニーナ=ティジカの腕がいいのか小さい粒になっていって飲みやすく携帯しやすくなっていた!

「有り難うニーナ=ティジカ!」

「今ならなんと!王様がパーティーに加わります」

「あ、うん。気持ちだけで…」

「王様、いらない子みたいだねー」

「勝手に人を押し付けてメンタルダメージ与えるのはよさんか」


「ママ、どこに行くとか言ってませんでしたか?」

「裏の観ずの3匹の竜に餌やってくるとは言ってたがそのままどこかへ行ったな。義理堅い面があるから、寝ている間世話になった者へ礼を言いに行ったのかもしれんな」

「有り難う御座います!その線で追跡してみます!」

 三匹の竜も気になったが、今は見失う前にママと接触したいのでポータルクリスタルでガルワルディアへと先を急いだ。


 緑の屋根のお医者様の処へ行き、ママが来なかったか尋ねる!

「来ました来ました!お世話になりましたって上の世界の薬草なんかをがっつり置いて風のように去っていきましたよ?」

 レティシアさんが困った笑顔て話してくれた。

「忙しない奴じゃ!あと娘が来たら学校行け!って伝えてって言ってたぞ?」

 私が追ってくる事も織り込み済み…


「有り難う御座います!母を追ってみます!」

 そう言い、ポータルクリスタルまで全速力!

 次はリトルフェミアだ!



「よく来たな月詠。月花なら少し前に出ていったぞ?」

 公爵様も飽きれた様子で話してくれた。

「気持ちは分かるがもう親なのだから少しは落ち着けば良い物を…」

「済みません、うちの母が…」

「元気になったのは良い事だし、あとは不安の種を解消するだけだ。あいつの実力なら敗北など無い」

「それでも、黙って出ていったのは許さないのでお説教です!」

「娘が怒っていたら余計に出てこないぞ?日常も大事にしつつ神封じの手伝いをし、早く帰ってくる様に協力してやる位のおおらかさでいてやれ」

「そうですね…では表面上怒ってない振りで誘き出して…」

「一旦ポテチ食べて落ち着け」


 途方に暮れる。

 この世界の行ったことのある普通の街はここで終わり。

 手掛かりも今の所なし。

 月花ママは偽神を感じ取れるのか…それとも必死で探してるのか…

 無闇矢鱈に探すより今まで通り偽神の創作をし、封じていく方がママが接触してくる可能性が高い。

 ママの手掛りを掴むまでは偽神封じを進めてみよう。

 公爵様に再び偽神の目撃情報の収集をお願いし、一旦はやる気持ちを落ち着かせる事にした。


 宛てもなくリトルフェミアの街を歩いてみると、町全体の活気と魔法へ対する研究に対する真摯さが見えて、流石魔法公国だなと感心する。


 そんな時だった。

 酒場と思しき建物から男性が

 地面でしたたかに身体を打ち、往来で血だらけで気絶する男性!

 周りの人達もざわつき、衛兵らしき魔導士が二人駆けて来た!


「何事だ!」

「何の騒ぎだ!」

 衛兵が酒場に入ろうとすると、中から身長二メートルはあろう筋肉質の男が出て来て、思わずたじろぐ衛兵達。



「どうもこうもねぇよ…そいつが薬の取引持ちかけて来たのに調子に乗って吹っ掛けてきやがったからお仕置きしてやったのよ!」

「薬!?最近流行りの違法薬物か!?」

「そうならば聞き捨てならない!少し詰め所迄来たまえ!」

「行くかクソ雑魚共!現実に耐えられなくて薬で助かる奴らもいるんだよ!」

「重度の廃人になるのを助けとは言わない!見分けんぶんさせてもら…」

 衛兵の一人がそう言い終わる前に無詠唱の魔法で錐揉きりもみ状態で向かいの建物の壁に叩きつけられる!


 突然仲間を飛ばされて身構える衛兵さん!

「どけよ、邪魔だ!」

 二メートルの身長から衛兵さんに繰り出される張り手を、陽光の反射サンライト・リフレクスの物理反射で跳ね返す!

「ひっ!」

 身構えて腰を着く衛兵!


「誰だ!今の小癪な技は!?このカスじゃねぇだろ!」

 張り手をスキルで弾かれて、キレる大男!

 その様子を見て前に出る私とコロちゃん。


「…小娘、学校でやっていい事と悪い事は習わなかったか?」

「習ったからそうしたのよ?」

 周囲がざわついて来て、逃げる人、衛兵を更に呼びに行く人、怪我人を介抱してる人等色々いる。

「気に入らねぇ目だ!気に入らねぇ!」

 男が引き摺って来た椅子を投げつけるが、私の左の背中から結晶の片翼が生えて防御する!

「ちっ!」

 男が酒場に一旦引いて大きな斧を持った来た!

 その獲物を躊躇なく私に振り下ろして来るが、私の片翼は破れない!

「ちっ、厄介な技を持ってやがる!」

「見かけより非力なんですね?」

 互いに一歩下がり間合いを取る!


「そこの少女!そいつは最近この辺りで暴れてる魔法解呪スペルキャンセラー持ちの男だ!気を付けて!」

 誰かが忠告してくれる!

 魔法解呪…魔法を打ち消すか、若しくは効かないという事…

「ネタバレは面白くねぇだろうが!」

 男が忠告してくれた群衆の中にテーブルを投げつけた!

陽光の反射サンライト・リフレクス!」

 物理反射でテーブルから群衆を守る!

 跳ね返したテーブルを平手で叩き落すと、斧を振りかざしこちらに襲い掛かってきたが、次元の狭間から罪なき刀を抜いて受け止める!


 ギィィン!!

 金属音が鳴り響き、斧と刀が衝突する!

「俺様の魔器で壊れねぇ武器は珍しいな!だが力比べならどうだ!」

 魔器とは魔法の武器の事…警戒せねば!

 身長差からの重みが刀に伸し掛かる!

 その時、コロちゃんが口から炎を吐き、男を牽制する!

「ちっ!」

 力比べをやめ、後方に飛び退く男!

 体躯の割に意外と敏捷な男だ!


「魔法隊撃て!!」

 後から来た衛士達が炎や氷の魔法で連続攻撃をするが、男に当たる筈の魔法は手前で掻き消される!

 その光景を見て青ざめる魔法隊…


「あ?俺の事知らねぇとは随分怖い物知らずだな」


「余所見をしてると足元を掬うぞ?」

「実力差を見ただろうが!力で勝てねぇ!魔法も効かねぇ!俺に勝てる訳ねぇだろうが!!!」

 再び斧を振るって来たが…

罪なき斬奸シンレス・スレイ!!」

 斧が私より届くより早く、範囲攻撃で斧を真っ二つにする。

彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」

 斧を斬られるが魔法が効かない男の左肩口にが直撃する!


「ぐあぁっ!!」

「井の中のかわずね、魔法だけが総てと思うな」

「くそガキがぁ!殺す!!!」

 真っ二つの斧の先を私に投げつけて来る!!

月式抜刀つきしきばっとうじょ!!」

 神速の抜刀術で投げつけられた斧を両断し、更に余波が男の右指を何本か飛ばす!

「ああああああぁぁぁぁっ!」

 左肩を撃ち抜かれ、右指を撃ち抜かれ、何も出来なくなった男が膝を着く。


「テメェ…何もんだ…」

「…王狼の命令キングアイ…」

 男に恐怖という威圧が伸し掛かり、前のめりに気絶した。


「…あの、衛士さん、牢屋にお願いしていいですか?当分目覚めないと思うので手当もしてあげて下さい」

 暫くぽかんとしていた衛士や魔法隊が一瞬間を置いて動き出した。

「どなたかは知りませんが有難う御座います!」

 衛士や、周囲の人から感謝された。


 男は牢屋に幽閉され、酒場に残されていた薬は衛士達に押収され、私はリトルフェミアで少しだけ有名になってしまった。




「下町で手柄を立てた様だな?」

 そそくさと逃げる様に群衆から出て、街をうろうろし、王宮に帰った頃には公爵様に所業を知られていた。

「成り行きですが、被害が広がりそうだったので…」

「よくやった。最近我が国に住み着いた暴れ者で、スキル討伐隊を編成しようかと思っていた処だ。我が国の反省点だ」

「大袈裟です!大した事していません…」

「お前のスキルや技はその大した事の領域を大きく逸脱しているのだよ。これからも正しく使え」

「はい!」


「さて、良いニュースと悪いニュースがあるが、悪いニュースが良いか?」

「選択肢の意味!!」

「良い悪いという程でもないのだが…月花の行方はまだ掴めておらぬが、偽神は一柱ひとはしら見つかったぞ」

「本当ですか!?行きます!」

「東に向かうと大きな森の手前が少し開けた場所になっていて、港町が見える丘なのだが、そこに居座っている見ない魔物がいるらしい。恐らくは偽神であろう」

「行って来ます!」


「やれやれ…慌ただしいのはお前達の血だな…」



 その場所はリトルフェミアから東に飛んで半日程。

 開けた場所が丘になっており、丘の頂点に続く石畳の道には案内板と咲き誇る白い花。

 そして魔物の姿があった。


 馬の身体に首から人の上半身が生え、サソリの尻尾を持つ半獣人。

 セントールという種族だが、身体が普通の馬の倍は大きかった!


『来たな…神封じ』

「まんまと誘き出されたのかしら?」

『これ以上の神の減少は戴けない。狩らせてもらおうか』

 セントールが巨大な槍を振り回しこちらに構える!

「負けはしない!ママの為に!!」

 左手にマルチデバイサー・ストライフと左背中に結晶の片翼、右手に罪なき刀を装備する!

 大きく槍を振って来る事数回、大振りなので受けるのは訳ないが受けると重そうなので避け続ける!


『雷速の円舞曲!』

 セントールがそう唱えると唐突に行動速度が倍になる!

 槍の薙ぎ払いをストライフの追加機能である女神の盾で受け止めると、重いが何とか受けきれた!!

『我が槍で吹き飛ばぬ相手は久しい!もっと楽しませてくれ!』

 高速の突きを繰り出して来るがこちらも技で対抗する!

罪なき連突シンレス・バラージ

 こちらも精密な連続突きで槍をさばいていく!!

 と、その最中、サソリの尻尾が急に突きを繰り出し、突然毒を浴びせる!

 一歩引いて女神の盾で防ぐが、視界を防ぐのが精一杯で身体に少し浴びてしまった1

 毒を浴びた部分が蝕まれていく!


「くっ!」

『即効性の毒だ!付着した場所からただれ、体内に侵入すると身体が動かなくなる』

「あら、そうでもないわよ?」

 毒の着いた腕をグルグル回してみる。

 クラスメイトに毒を仕込まれる日常が役に立った!

「毒耐性が強い人間か!だが毒の進行は最早止まらぬ!」


 必殺の一撃と言わんばかりに大きく槍を振りかぶって来た!!


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