Chapter of "Searching for my mother...
第15話 departure
翌日、オーディンと小さい式部ママは役目を終えてカムドアースへと還った。
一応、あの世界の主神ともいうべき神らしいので長期不在はまずいのだろう。
ボードゲームやフィギュアもきっちり持って帰ったあたりちゃっかりしている。
「二人共体重が戻るまで、しっかり食べてね?病的に痩せたのはダイエットとは言いません!!」
『はーい』
退院した当日、自宅の食卓に着き渋々と返事するママ達。
「ちょっと逞しくなったにゃ、月詠は♪」
「だよねー、短期間でまさか戦闘の才能を覚醒させるとはねー」
「二人の子供だから、弱い訳ないデス」
ローストビーフを器用に箸で食べながら褒めてくれるグレースさん。
「だよねぇ、もうカイネに追いつく勢いだからね」
今度は鈴音さんがお味噌汁を一口飲んで褒めてくれた。
「小さい時から独学で学んでた抜刀術や結晶術が実を結んだよね☆」
サラダを黙々と食べつつ、カイネも褒めてくれた!
「それ!本当にこっそりやってたんだね!私達が気づいてなかったもん!」
「才能の塊で嬉しいにゃ♪」
「それよりママ達、まだ力は戻らないの?」
「カムドアースの薬だろうから自然治癒はしないと思っていたけど、厭な予想はあたるもんにゃ」
「だよねー」
「じゃ、はいこれ!ニーナ=ティジカに作ってもらったよ」
「おー!流石すちゃらか妖精!仕事はきっちりしてるねー!」
「いつもあんな感じなんだ」
「初対面からあの感じだったにゃ♪」
二人共丸薬にした薬を水で飲み干す。
「…どう?」
「おおお、即効性だ!」
二人共結晶を出せたのでほっと一安心。
「グレースさん達には渡したけど、二人も予備を持っておいて。アクラドシアで薬は増産してもらってるの」
「ニーナ=ティジカやるなー」
「そういえばロストプログラムってのが動いて色の違う結晶が出てきたけどどうすればいい?」
「あー、それは今必要無くなったからお守り代わりに持ってるといいにゃ♪」
「使う機会が無くなると良いけどね」
頭に疑問符が浮かぶが、お守り代わりにずっと持っていたのだし変わらず胸ポケットに入れておこう。
少し体力が落ちているものの、元気なママ達を見ていると先日までの心配が嘘の様だった。
たまに頬を
闘う才能を受け継いでいると周りから言われるが、伸ばす事は
まずは散々言われた『小説を読みだすと周りが見えなくなる事』を直そう。
そして、本屋で小説を大人買いして、詰みゲーならぬ詰み小説に囲まれてのんびり暮らそう。
そんな事を考えつつ、もうあんな迷惑な事が起こらない様に祈りながら就寝した。
―――そんなこんなで日常が戻ってきた。
ママ達ももうあのレベルの強盗でも油断はないだろう。
私はカイネとのんびり中学校に通っている。
普通に授業を受け、帰宅部としてしれっと帰り、帰りに本屋に寄っては小説の表紙買いをしてはママ達にやれやれ顔をされる。
最近は人が増えたから、グレースさんが昔の冒険の話をしてくれて、大体は月花ママが無茶した話なのでばつの悪そうな顔をし、式部ママがけらけら笑った。
そしてママ達が退院してひと月位した放課後。
家に帰ると式部ママが晩御飯を作りながら待っていた。
「おかえりにゃ」
「ただいまー」
制服から部屋着に着替えて、下に降りるとテーブルにお茶碗も並んでいた。
ん?
お茶碗が五つ。
月花ママ、式部ママ、グレースさん、二つ多い時は鈴音さんとカイネ…私を入れて六つなのに一つ足りない。
「ママ、お茶碗足りないわよ?」
「あ、そこもう突っ込むにゃ?あははは…」
配膳しているママの前に割って入る。
じっと見つめると露骨に視線を避ける式部ママ!
「…月花ママは?」
「あー、やる事があって旅に出ちゃった…えへー♪」
笑って誤魔化そうとしてるがとりあえず全員揃ってから話を聞くことにした。
何はともあれ晩御飯を頂いてから、食卓に着いたメンバーも月花ママが居てない事に突っ込まず話を待った。
「えー…皆、私達が攫われた経緯は知ってると思うにゃ」
「押し込み強盗が二人を特殊な薬で無力化、その後攫って神を生み出す力を奪ったんだよねぇ」
鈴音さんがきゅうりのお漬物を
「その後、月詠がお二人を奪還するも意識不明、狙う様に襲って来た偽神達を倒すと力を取り戻せると知り、神封じに精を出す」
カイネが話しながらまだ御飯をおかわりしているが、あのおかわりは全てあの巨乳に栄養が行くのだろうか…?
「そうにゃ、そこからは皆が助けてくれたから力が戻り意識が戻った。でも片付いていない事があるにゃ」
「敵の実態の把握と、残りの偽神デスネ?」
「流石グレース!私達の隔離された施設はもぬけの殻、偽神は…残念ながら私達には感覚としてまだ世に放たれていると実感出来るのにゃ」
「それって本調子ではないって事?」
「そうだにゃ…意識すると何か足りていないという感覚が強くあるのにゃ」
「それじゃ、敵の本拠地を探しつつ、偽神狩りに行ったって事?」
「そうなるにゃ…昔は軽率にホイホイ何でも着いて行った私も、もう娘持ちだから私は家を守る事にしたにゃ」
「止めなかったの?…って止めても止まらないか、月花ママは」
良く分かってる、と言わんばかりにママとグレースさんと鈴音さんから拍手が起こる。
「心配しなくても強さは頂点レベルだし、たまに帰ってくるって言ってたから」
「それでも、月花ママ一人に背負わせたらダメなの。家族だから。私も行くから」
「だーめにゃ!月花がそれを一番心配してたにゃ!」
「駄目よ、場所に寄っては強いモンスターもいるし、竜や神族、悪魔族もいるからねぇ」
「まず、月花はポータルクリスタルであの広い世界を行き来出来マス!場所を特定するのは恐ろしく困難デス!」
鈴音さんとグレースさんも止めてくる。
「じゃ、ママ勝負よ!庭で一撃先に入れた方が言う事を聞く」
「良いけど、私にはまだ勝てないにゃ?」
「勝敗は
「わー、ほんと貴方達の子って感じがするわねぇ…分かった、私が見届けてあげるわ」
鈴音さん立ち合いの元に一対一で戦う事に持ち込めた。
「両者、武器を抜いて!」
私は
スキルガンは込められた十発までのスキルを無詠唱で発射出来る上に一度だけ長距離と近距離拡散にも出来る【社】謹製のハイスペック銃だ。
「はい、負けても文句なし!よ―――い、始め!」
こちらは仕込みの為に少し小声で喋っていたが、動こうとした瞬間ママのスキルガンのモーションが見えたので片翼でスキルを弾く算段だ!
だが、猛烈にスキルが飛んでくるかと思いきや、足に一発何かが当り…猛烈に眠気が…
「ごーめんねー皆!月詠をベッドまで運ぶにゃ」
「やっぱり眠らせてきたデスカ!」
「まだまだ子供って事かねぇ?朝まで起きないだろうなぁ…」
と、ここまでは読めていた。
だから普段自分から頼らないキセキさんに一つだけお願いをした。
睡眠耐性付与!
ママが傷つける様なスキルを使わず短時間で効率よく大人しくさせると踏んだのだ。
ゴメンね、式部ママ。
月花ママを探してすぐ帰るから!
ベッドから起き上がりこっそりと着替え始める。
『母を探しに行くのか?』
「キセキさん…さっきは有難う。探しに行きます」
『一つ私から贈り物をしよう。
「禍焔剣…はい」
すると、禍焔剣が光に包まれ形を変える。
長尺の刀…名も無き刀とほぼ同じ大きさだ。
『母が刀を使っていては刀を使えないだろう。これは禍焔剣をベースに生まれた君だけの神器…その名も【罪なき刀】。使い勝手は名も無き刀に寄せているが、技の開放は初期段階だから訓練するがよい。あと、禍焔剣の技と名も無き刀の月詠オリジナル技も残している』
「有難うキセキさん…今日もタイムセールなのね」
『スーパーセールで一万ポイントバック中だ』
「〇天かしら?」
その後、動きやすい服に着替え、必要なカロリーバー、水筒、着替え、ナイフ、ランプを【社】のバックパックに詰め、地下に浮遊で向かう。
式部ママなら床の僅かな軋みで起きかねない。
地下に降りて転送装置の部屋に入ると、そこにはカイネが待っていた。
「やっぱりー!一緒にいこうか?」
「バレてたー!いや、最初は様子見で、数日で戻るつもりだからママにそう伝言お願いしていい?キツい討伐とかあったらお願いするわ」
「おっけ、気を付けてね?危うい時はダイブアウトしちゃうのが回避手段として有効だからね?」
「うん、有難う!」
新しく増設された私もカイネのロッカーに歩み寄り、こっそり私のロッカーを開けて防弾・防刃コートと安全ブーツを履く。
「じゃ…行って来ます!」
「行ってらっしゃい!」
アナザーバースの一番大きな世界であるファンタジー世界カムドアースにダイヴ・インして出た場所は…ママ達が始まりの街と呼んでいる街の
中規模の街で、困った事になった時に必要なものも大体揃っているし、宿屋、教会、鍛冶屋、何でもある正に拠点!といった場所だ。
ここには長いしない筈だから、飛ばしてアクラドシアへ向かおう…ポータルクリスタルに数多く触ってない事を後悔したが、地道に探索するしかない。
案外、近くに居るかも知れないのだ。
「…ぉおーい!おーい!!」
どこからか男性の声が聞こえてくる!
見回すと外壁の上の衛士らしき人だった。
「そこの女の子、向こうからサイクロプスが迫っている!早く街に入りなさい!」
「
目からビームを発射したのでスキルで反射する!
反射されたビームは森の上方を
街に直撃したら危なかった!
街の外壁の上の衛士達もビームの圧倒的威力に唖然としている!
至近距離まで来た十メートル位の巨人が棍棒を振りかざし、力任せに振り下ろして来たので光の片翼で防御する。
衝突による強い衝撃波が生まれるが、それすらも光の片翼が吸収する!
「罪なき刀」
次元の狭間より、新しく生まれし刀を引き抜く!
キセキさんが作ってくれた新しい刀…感触が本当にママの刀に似ている!
「
拮抗している羽根と棍棒の間を縫ってサイクロプスの前腕部を斬り落とす広範囲斬撃!
地響きを立てて落ちる前腕部!
怒りと痛みで咆哮を上げるサイクロプス!!
残った左手で私を掴み取ろうと手を伸ばして来る!
「月式抜刀、破!」
私のオリジナルスキル、力の抜刀術で左腕も斬り飛ばした!
痛みで唸りを上げるが、まだ戦意を失っていないのか、再度ビームのモーションを起こした!
「ごめんなさい、街に被害が掛かるから介錯する…
それは名も無き刀から受け継がれた高速移動抜刀術で、
高速でサイクロプスの身体を駆け上がり、ビーム発射寸前の首を一刀両断した!
首がゆっくり後方に落ち、残っていたエネルギーの収束が上空の雲に大きな穴を開けた!
そしてゆっくり身体が地面に沈んで行った。
ふう、と一息ついて刀を鞘に収納し次元の狭間に刀を収納すると、衛士が何人か駆け寄って来た!
「有難う御座いました!いやーまだ若いのにお強いですね!ギルドから討伐報奨が出るので受け取って下さい!」
……しまった!この世界のお金の事を失念していた!
今の私、所持金が限りなくゼロだった!
「あ…有難く頂きます!」
衛士と共にギルドに行き、感謝の言葉と共に緊急討伐報奨として110万ルギーを貰った。
ママ達から1ルギー=だいたい1円と聞いていたので大金を貰ったのは分かったが、こちらの物価が分からないので、あとで市場を回ってみよう。
まずはママと縁が深いアクラドシアへ行く!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます