第14話  awaken

 腹が減っては》して月詠を狙いに来る理由が無くなったとシタラ?」

「……」

「元々、何故神を生み出したのかも謎に包まれてマス。私達にとってはいい迷惑デスが…その目的…例えば戦闘データ等の蓄積が終了した等デス」

「エンカウントの確率が極端に下がっちゃう…」

「飽くまで推測ですが…そうだとしたらこちらから出向いて探さないとエンカウントしなくなる可能性もありマス」

 冷静な推論を呈示しながらも綺麗な天婦羅を作ってるグレースさん。


「待っていても、月花と式部は二人の神が護衛をしてるので安全は保障されてます!様子を見てみまショウ!」

 のんきに構えている気はないが、ママ達の影響を見て私が焦り過ぎているのかもしれない。

 ウチの喫茶店の営業も終わり、鈴音さんとカイネもご飯の用意を手伝いだしたので、私も手伝う事にした。

 何だかんだ言いながらお腹は空いているので、腹が減っては戦は出来ぬということわざに従う事にした。

 因みにウチの天婦羅はツユの他に藻塩、岩塩などバリエーションのある塩が出るので食欲が増すのです。




 食後自室に戻り、ふと書架にあるを手に取る。

 相変わらず何が書いてあるか分からない本だが…これが本当にアカシアの記憶という物ならば…偽神のがどういう状態なのか、何処にいるのか全て記されているのだろうか…

 残酷な過去から、希望ある未来まで全て…


 ―――いや、そんな大きすぎる力に頼っていては駄目だ。

 人類には大きすぎる危険な力…

 来るべき時が来たらグレースさんに預けて封印、若しくは処分が妥当なのだろう。

 いちJCが持っていていい代物じゃない。





 お風呂に入り寝間着に着替え、寝ようかと横になりつつ不健康なスマホチェックをする。

 ママ達がいた時は麻雀やクイズアプリのガチャでいい物が引けると日中・深夜問わず家族チャットに報告があったものだ。

 アプリのログインチェックや明日の学校の準備に不備が無いか色々考えていると、手の中のスマホがメールを受信する。


 差出人は…【社】やしろ


 犬沢池に偽神が出現したらしい!

 慌てて着替えるが、皆に悟られない様に家を出よう。

 防弾防刃コートの自分用を注文しておいたのが届いたので、部屋に置いといて良かった!

 着替えて窓から飛行で外に出る。


 幸い犬沢池は近所なので、二分位で標的が見えて来た。

 犬沢池の中央に浮かぶ、巨大な鳥…こちらを見据えると口を開いた。


『お主が神封じかえ?』

 鳥がくるりと一回転すると、長い毛皮を纏っている全裸に近い赤髪の女性の姿になった!

「さもあらば?」

『痛い目に合わさないとねぇえええええ!!』

 毛皮から鋭い羽が飛んでくるのを結晶の障壁で弾き返す!

『やるねぇ!これならどうだ!』

 素早く飛び上がり、勢いのあるキックを繰り出して来るが、左手のストライフに備わった戦乙女の手甲で受けきる!

『ちっ、神器か!だが!!』

 盾を蹴り一回転すると、蹴りと羽根の攻撃を同時に行う!!


「月式抜刀!序!!」

 名も無き刀は基本的にママの武器だ!技も全て借り物に過ぎないが、新たな私だけの技が開放された!

 高速の抜刀術で蹴り足を縦に切り裂き、続いて結晶障壁で全て受けきる!!


『ぎぃやああああああ!舐めた事をしてくれるじゃないか!!変化!』

 くるりと一回転すると、先程の巨大な鳥に変化した!

『切り裂いてくれる!』

 高速且つ、鋭い羽根で斬り裂こうと宙を疾駆してきた!

 攻撃と防御を迷ったが、相手が羽根先だけを当てて攻撃をして来ようとしている為大きすぎる故に本体まで抜刀が届かない!

 防御だ!

 自分を中心に球状に障壁を展開すると、一瞬であらゆる方向から七回も障壁を切られた!


 態勢を整えて再度切りつけられるが、障壁は切られる度に張り直している!

 …再々度切りつけられたが障壁を張り替える間がある…必ず七回切ると態勢を整える!ならば!


『固いねぇ…けどどこまで持つかな?障壁も無限に出せる訳じゃあるまい!燃料切れになった時がお前の終わりだ!』

「やれるものならやってみると良い!」

『諦めがついたか!』

 再度障壁を張る私にお構いなく刃を向けて来た!

 一、二、三,四、五、六…ここだ!

 障壁を解き、技の切れめである最後の一撃を入れようとする瞬間を狙う!

「月式抜刀!急!」

 こちらも高速移動抜刀術で相手の顔に一太刀入れる!

 その速度は先程の序より早い!

『ぎぃいいい、私の…顏に傷を…!!!傷をぉぉぉぉぉっ!』


 怪鳥がくるりと回転すると、今度は怪鳥と女の二人に分かれた!

 本体を分割出来るのか!!

 大振りのライダーキック裸女と高速の怪鳥…どうするか…


『仲間を呼ぶか?呼んでみろ!こんな夜更けに待機している仲間等いまい!?』

戦乙女の援助ヴァルキュリア・アシスタンス

 私の背後からスッと神々しい戦女神が姿を現す!

「ヴァルキュリア様、鳥をお願いしていいですか?」

「敬称も敬語もいらぬぞ月詠」

「はいっ!(反射の敬語)」


 二手に分かれて…恐らく姑獲鳥うぶめと思われる敵を追い詰める!

『小癪なわらしよ!』

 裸女の方が両腕を振うモーションをするので警戒して戦乙女の手甲を盾状にし、上半身を防いでみると、何かしらの液体が下半身に付着するし突然付着カ所がひきつけの様に硬直した!

 まずい、両足が動かない!

『はははははは!私の血で硬直しな!』

 これ見よがしに血液を飛ばした後、こちらが動けないと踏んで、空中で助走をつけて再び蹴りを放ってきた!

 負けない!!!

「…月式抜刀!…破!!」

 先程斬ってやったがしれっと戻っていた足に、再び渾身の抜刀術を足裏から入れた!

 月式抜刀・破は速度より攻撃力に重きを置いた技!

 助走を付けようが、力押しなら負けない!

 足裏から頭部迄真っ二つになった姑獲鳥は物言わぬ姿で犬沢池に落ちて行った!!


 ヴァルキュリアは!?

 周囲を見渡すと、満月をバックに姑獲鳥を串刺しにしていた。

 もう倒した!?

 鳥肌が立つ強さだ!


 剣を振り姑獲鳥を同じく犬沢池に投げ込むと、すっとこちらにやって来て一言。


「もっと私を頼れ。暇で仕方ないではないか」

「あはははは!じゃ、もっと頼るね!」

「うむ」

 そう手短に話すとスッと消えて行った。

 スキル化しても退屈とかあるのか…



 その時、すっといつものもやが両手に纏わりつくが…量が多い。

 これはもしかして…





 夜中だけど気もそぞろにママ達の病室に向かう!

 病室に入ると、オーディンと式部ママ二号が箱庭を作るボードゲームをやっていた。

 挨拶もそこそこに、寝ているママ達の両手を握って靄を二人に返していく。

 先が見えなかった作業だけど、何となく確信がある!

 起きて!!!




「…月詠」

「…頑張ったにゃ」

「―――っママ!!!!!」

 二人に交互に抱き着く!

 私は割と淡白な部分があるから、こんなに落涙するとは思っても見なかった。

 気恥ずかしいが、涙が止まらないのだから仕方がない。

 こっそり知らぬふりしてオーディンとミニ式部ママも泣いていたのは黙っておこう。


 取り急ぎ専属のお医者様を呼んで、診断してもらう。

 皆にはどうしようかと考えていたが、朝を待つまでもなく皆に連絡してしまった。


 家が近い事もあり、十分もしない内に小花ちゃん、鈴音さん、カイネ、グレースさんが来てくれて感動の再会を果たしていた。

「グレース…来てくれて有難う」

「お礼は不要!私達の仲デス!」

「鈴音も、いない間有難うにゃ」

「良いからまだ寝ておきな。入院が少し長かったから痩せてるだろう?」

「うそ!痩せてる!?超ラッキーじゃん!」

「もう無駄なダイエット器具買わなくていいにゃ…」

「ママ達は退院まで大人しく!」

『はーい』





 それから数日。

 ご飯がまずいとわがままを言いながらモリモリと入院食を食べて、挙句調子が良くなると売店でお菓子やおにぎりやサンドイッチ等色々買い込んで、オーディンと式部ママ二号とで食べながらボードゲームを楽しんでいたので我が母ながら流石だなーって思った。

 ていうか、同じ顔が二セットいると混乱する!


 元が冒険者としての体力があった為か、一週間で無事に退院する事となった。

 何はともあれこれで一安心だ。




 その晩は食材を買い出しをし、久々の式部ママの手料理でパーティーとなった。

 小花ちゃん、グレースさん、鈴音さん、カイネ、オーディン、小さい式部ママを呼んでママ達が寝ている間の話を語った。

 ご飯が美味しい。

 皆が笑っている。

 闘いなんか知らない中学生だったけど、無事にやり遂げる事が出来て嬉しい!


 矢張りいつもの日常が一番幸せだという事を噛みしめた。

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