第13話 Strange squeaking

 グレースさんは矢張り歴戦の猛者で、直近で現れた偽神を数体ソロで倒した上に、最速一分以内で片付けたのだから頭が下がる。

 吃驚する位トリッキーなブーメランにスキルと体術を駆使して命を刈り取る姿は、戦いの段階に至らず未だ児戯じぎに等しく見えた。


「うっわ…グレースさん…本当に凄いですね」

「僕もたまには褒められたりはするけど、レベルが違いすぎる…」

「私も長く冒険者やってましたカラ!今は普通のお仕事してますケドネ!」


「因みに何のお仕事なんですか?」

冒険者インターセプターの指導教官デス♡」

「強くなれそー…」

「私達が一線を退いたのですから、後続こうぞくも育てないとですカラネ!」

「あれ?グレースさんはご結婚とかは?」

「まだデス!早くお二人みたいな元気な子供欲しいデスネ!」



 その後病院でママ達のもやを戻し、オーディン達に弄り倒されてから帰宅する。

 グレースさんがWi-Fiに拘ったのはどうやら、オンライン授業をしていた様だ。

 ヘルプに来てくれたのに授業も怠らないとは流石教官!


「おう、グレース久しぶりだよー!」

羽心はねこちゃん!久しぶりデス!」

 ハグハグしてるが、羽心ちゃんの顔の広さに吃驚する。

 いや、私が小説読みすぎで人に会って来なかっただけだ。

「後でまた月花の部屋でゲームをやるのだよー!」

「フフフ、今日は負けませんカラネ!」

 仲良きことは美しき哉です。




 今日は祝日で学校が休みだったので、本を貸す為に芽衣が来る。

 本の虫の私程読まないが、たまに読む本は私がいつも貸して、感想を共有して楽しむのが恒例になっている。


  ピンポーン!


 玄関チャイムがなったので扉を開けると、舞衣がケーキを携えて玄関で仁王立ちしていた!

「私は…ケーキの妖精!ケーキをもたらす者なり」

「ははー!」

 謎の小芝居をしつつ二階の私の部屋に上げ、紅茶を入れて二階に戻ると、早速舞衣が私の下着を漁っていたので後頭部に手刀を入れた。

「あいたー!」

「そちは何をしておる」

「……記念品?」

「持って帰ってどうするの…履かないでしょ?」

「ほら、良く野球選手のユニフォームって、サイン入りで額に飾ってるじゃん?」

「パンツ飾るなっ!」

「見くびるな!ブラも対で飾るわ!」

「だから飾るな!」

 もう一発手刀を決めておいた。


「それでお母さんはどう?」

 ケーキを頂いてたら突然質問されたから、良くなって来てると良い報告をしておいた。

「預けた毒薬は…使うタイミングが難しい?」

「うん、偽神が人間の姿してると使いづらいかな?」

「逆に考えて人の口に入れない形にしちゃう?犬の糞とか鹿の糞とか?」

「持ち歩くのが嫌かなぁ…」



 ―――その時、庭で大きな物音がした!

 窓から中庭を見ると怪しげな人物がいる!

「舞衣!偽神が出たから部屋から出ないで!」

「OK!頑張って!!!」



 下に降りると着地の土煙の中から見えてきたのは…煙管きせるを咥えて庭石に座っている男だった!


「今度の偽神は貴方かしら?」

『ふぅ―――…神様仏様ってのは残酷な事をしやがるねぇ…一族郎党いちぞくろうとう釜茹ででなぶり殺されて…ようやく楽になったってぇ思えば…いつの世か分からねぇ世に戻された上に良く分からない神様扱い…』

「……」

『だが、起こった事は仕方ねぇ!今度こそこの大盗賊石川五右衛門の名を天の家族にまで轟かせてぇやるぜぇ!』


「あなたの諸説は多々あります。真実は貴方にしか分からないけど…それでも私には!偽神を封じる理由がある!」


『いいねぇ上等!伊賀流忍術を受けてみやがれ!』


 苦無を大量に斜め上から投げて来たを陽光の反射で跳ね返すとまともに五右衛門に命中した!

 と思った瞬間、煙と共に丸太の身代わりにすり替わり、突然背後から現れた五右衛門に羽交い締めされた!

『あっけないねぇ!あばよ!』

 苦無を顔に振り下ろされる!


   『抜刀速度上昇』

 キセキさん!有難う!


 次元の狭間から名も無き刀を抜刀し、苦無を振り翳してきた右手を止める!

『危ねぇな!何とも面妖な…何処から刀を抜きやがった!』

「忍術かもしれないわよ?」

 飛び退いて距離を空ける五右衛門!

 いつもの私セットで封印解除シールリリース断罪ペナルティも開放し、万全の状態になった!

 再び苦無を飛ばして来たので、結晶の片翼とストライフから出した戦女神の手甲で全て弾き落とすがそのタイミングで間合いを詰められて鎬の削り合いになる!

『嬢ちゃん、いい力してるねぇ!相撲取りでもこうはいかねぇ!』

「か弱き乙女になんて事を!」

 台詞とは裏腹に力で押し返すと後方に逃げたのでファングハーケンを飛ばして追い打ちを掛けると再び身代わりの術で別の場所に現れた!



「私も盗賊に負ける訳にはいかない…全力で来ても構わないですよ」

『刀が技と攻撃を高めるのかぃ!てぇした妖刀だ!』

 五右衛門も刀を構え、再び突進してくる!

 刀を一合!二合!三合!重い打ち合いを交わし互いに間合いを取る!


 互いに手から何かを出すモーションを取る!

 私は彼方よりの星光スターライト・ビヨンドを出すモーション!

 五右衛門は……手に何も持ってない!

 と、油断した瞬間後ろから何かに巻き付かれた!

 背後を見ると大蝦蟇が出現しており、私を舌でぐるぐる巻きにしていた!


『貰ったぜ!』

 動けない私に刀を振り下ろして来る!

「私には使命がある!負けられない!」

 拘束されたまま次元の狭間から刀を禍焔剣かえんけんに持ち変える!

咎人の背骨スピナーオブシナー!」

 技を自分に巻きつけ、刃と爆撃で蝦蟇の舌を引きちぎる!

『狂ったか!?』

 慌てて空中で身を翻し後方に下がる五右衛門に禍焔剣を向ける!

穿く背骨ピアススピナー

 それは伸縮自在の突き技!

 軌道を変えようが躱そうが、絶対逃さない必殺技!


 数回空中で躱した所で追い詰められて胸を穿かれて五右衛門は地面に墜落した。


『ぐぶっ!…覚悟…覚悟があれはもっと大きな事をやれたかもねぇ…アンタの覚悟見せてもらった…』


 そういうと五右衛門が霧散し…力の源のもやが両手に戻ってきた。


「…ちょっと…やりすぎたかし…」




「ちょ!月詠が倒れた!鈴音さ―――ん」





 ―――目が覚めると鈴音さんの膝枕だった!

 鈴音さんが回復ヒールしてくれたのだろう…

「……月詠!月詠!」

「……鈴音さんに舞衣…」

「済まなかったねぇ…この家の防音なかなかだから喫茶店から気が付かなかったよ…グレースやカイネも出かけてるみたいだし」

「舞衣も来てたし、危ないから一人で速やかに倒そうかと」

 鼻を人差し指でピン!と弾かれた!

「そういうのは服がビキニみたいにならない様になってからね?」

 見ると禍焔剣で大蝦蟇の舌を引き裂いた時のダメージで服の腹の部分が焼けてなくなっていた。

「…思ったより痛かったので二度とやりません」

「宜しい!舞衣ちゃんも半泣きで来たんだからこの後ちゃんと遊んで上げなさい?」

「…はい」


「あ、鈴音さん!持っていったケーキ美味しいから食べて下さいね!」

「舞衣ちゃんも有難うねぇ」

「月詠はパンツ三枚サイン入りで手打つわ!」

「ネルカリで売られそうだから駄目!」



 部屋に戻り、ケーキを食べて舞衣と談笑してるとカイネが帰ってきた。

「偽神出たんだって?ごめんね、タイミング悪く出かけてて」

「大丈夫。それよりどこに出かけてたの?」

「ああ、なんかデートだったみたいで…」

「え!」

「なにそれ!相手誰!?もっと詳しく!」


「詳しくも何もちょっと遊んでハンバーガー食べてブラブラしただけだよ?////」

「聞きたいのはそこから先なのよカイネ…どうなったの!?」

「うんうん」

「まぁ、相手は伏せとくけど…そういうのはまだいいかなぁって断っちゃったーえへー」

「そうよねー…思春期のメンズはケダモノって聞くものね」

「絶対そうだよ!」

「そうかなぁ?まぁ、あと二十人は断らないとなんだけど…」

「…うちのクラスの男子ってたしか二十一人よね?」


「……そう…だっけかなー?」

「おにょれ男子共!これか!この巨乳がええんか!?」

「舞衣落ち着いてーカイネもちょっと顔赤らめない!」

 思春期してるなぁ…



 その後、鈴音さんと帰宅したグレースさんの五人でご飯を食べながら今日の話をした。


「五右衛門!釜茹でパスタを作る大泥棒デスネ!」

「情報混ざってますが半分合ってます!」

「最近はアニメやソシャゲにも出るけど、義賊だったか極悪人だったのかよく分かってないみたいだしねぇ」

「あ、今日のお魚美味しい!毒仕込みたい」

「満面の笑みで怖い事言わないでっ!」

「舞衣、彼氏作るとしたら毒はどうするの?」

「ん?毒耐性強い彼氏がいいよ?…そうか、今の所カイネもありなのか!」

 ニヤリと笑う舞衣と怯えるカイネ!

「クラスメイトに狙われる危機感!」

「カイネ…幸せに…」

「月詠もいい笑顔で見送らないでっ!」


 ママ達が元気になったらもっと楽しいだろうな!!




 翌日、平和に学校が終わり、帰路についていると前からのしのしと歩いてくる白髪の幼女!

「あら、羽心ちゃんどうしたの?」

「うむ、偽神が暴れておらぬかパトロールをしてるのだよー!」

「羽心ちゃん有り難う!」

「ついでに保護猫活動もしてるのだよー」

「うちが猫屋敷になる予感!」


 そんな話をしていると、羽心ちゃんが突然上を向いたので上空を見上げると奇妙な生き物がいた!

 羽心ちゃんと飛行結晶を付けて同じ高度まで登ると、偽神は異様な相貌そうぼうをしていた。


 狸の様な胴体に狒狒ひひの顔、虎のような太い手足を持ち、尾は大蛇で構成されている!

ぬえ……」

 平安時代や江戸時代に現れた妖怪で、奇妙な声で鳴く処から不吉の象徴とも言われている…


 次の瞬間!

 周囲の空間に何ヶ所か落雷した!

 私に落ちた落雷は羽心ちゃんが庇ってくれた!

「落雷は私が抑えるから、月詠は本体を殺っちまうのじゃ!」

「言い方が怖いけど分かった!」

 羽心ちゃんがどういう論理か避雷針になっている!

 落雷の心配は取り敢えず無くなったので安心して攻める!


名も無き一撃ネームレス・スラスト!」

 高速の突きで間合いを詰めるも狒狒の鋭い歯で止められる!

 そのタイミングで蛇が牙を向いてきた噛まれてので彼方よりの星光スターライト・ビヨンドで星光を放つも蛇独特の動きで避けられる!

 封印解除と断罪コンボで刀を狒狒の歯から抜き取り、名も無き舞踏ネームレス・リボルヴで狒狒の顔に傷を入れると鵺が初めて後ろに下がった!

 ここぞとばかりに間合いを詰める為、名も無き切り札ネームレス・ジョーカーを放つと、上体をもたげて技をかされる!!!

 同時に虎の前足がこちらを襲ってくる!

 それを、左手で禍焔剣かえんけんを出して止めた!!!


 神器二刀流!

 初めてだったけど、虎の前足を何とか止められた!!

 右手で名も無き三之太刀を放ち傷を三本縦に刻み、左手の禍焔剣で追い打ちをかけると傷跡が爆発する!


 奇妙な叫び声を上げる鵺の蛇の尾が、傷を物ともせず襲ってきた!

名も無き対攻ネームレス・カウンター!」

 蛇の攻撃をカウンターで切り返し、二刀流を試してみる!

名も無き三之太刀ネームレス・スリー!罪喰い!名も無き一撃ネームレス・スラスト!罪暴き!名も無き凶弾ネームレス・アサシンバレット咎人の背骨スピナーオブシナ―!!!」

 左右交互に技を繰り出し、狒狒の身体が真っ赤に染まっていく!


処刑エクスキュース!」

 とどめに相手に巻き付いた咎人の背骨スピナーオブシナ―を引き抜き、斬撃と爆発のダメージを与えると、体力尽きたのか横になり消滅した。


 その様子を見て、上で避雷針になっていた羽心ちゃんが降りてきた。

「お疲れ様なのだよー!」

 見ると帯電して髪の毛が蒲公英たんぽぽの綿毛の様に広がってる羽心ちゃん!

「わーん!髪がピンピンになってるー!」

「羽心ちゃん有り難う!下に降りて放電しちゃおうねー!」

 コンクリートに触って放電した時にバチッとなって羽心ちゃんが怯えたので抱っこして帰る。

 きっと妹が居たらこんな感じなのだろう。


 ママ達が元気になったら……ワンチャンあるかな?

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